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1-15 本番前の生徒達の不和

 いつも以上におふざけをした所で、俺達は校舎内の探索を中断してひとまず保健室へと向かった。


「うーん……はっ!? なな、何してるんですか!?」

「気付いたか?」


 気絶していた聖愛は意識を取り戻してすぐに俺に背負われている事を理解した。正直俺もこんな目立つ事はしたくないが、やむを得ない状況だし仕方がないだろう。


「これ犯罪ッ! じゃないですね。そっか、私は……」

「じー。いいなー」

「オウフ」


 聖愛は前後の事は覚えていたので咎める事はしなかった。ニナとロッシーは彼女を見て羨ましがっていたが、いい年した大人がおんぶをされるだなんて羞恥プレイ以外の何物でもないだろう。


「でもロッシーはどうしよう。学校の中に犬を連れて来たら駄目だよね」

「クウーン」

「だな。聖愛を保健室に連れて行ったら一旦外に出るか」


 ただ彼女はこのまま手当てをすればいいが、盲導犬や介助犬ならともかく普通の犬が公共の場所にいるのは好ましくない。ロッシーは勢いでやって来たはいいものの、見知らぬ場所が怖いのか不安そうに鳴いてしまう。


「……バウ! バウバウ!」

「ロッシー?」


 保健室に近付くと普段大人しいロッシーは激しく吠え興奮してしまう。こいつにしては珍しいがそれだけパニックになっているのだろう。ニナはよしよしと撫でて相棒をなだめた。


「やっぱりちょっと外に出てくるよ」

「ああ、頼む」

「バウバウ!」


 困り果てたニナは吠えまくるロッシーを抱っこして一旦学校の外に移動する事にした。仕方がない、今日の活動はこれで終了だな。


「お邪魔しまーす」


 俺は保健室兼臨時の医務室に移動、そこには体調不良の生徒も何人かいて先ほどの騒動で出た怪我人も運び込まれていた。これなら事情を詳細に説明する必要はなさそうだ。


「アヴァ、げふげふっ。あらいらっしゃい、どこを怪我したん?」


 のんびりした関西弁の養護教諭はいつか見た松葉杖の教師だった。彼女はペットボトルのお茶を飲んで一息ついている最中に話しかけられたせいでむせてしまったが、嫌な顔一つせずに対応してくれる。


「彼女が頭をちょっと打ちまして。マスクドコケシの一件と言えばわかりますか?」

「ああ、やっぱあれなん? ほなそこに座ってちょいと待ってなあ」


 俺が要件を言うと彼女は動きにくそうだったが慣れた手つきで医薬品を回収、手伝いを申し出る前に道具を準備してしまった。


 チャリティー番組では弱者として扱われがちだが実際の障害者は意外といろいろ出来るものだ。彼女の動きからは一切ハンディキャップを感じられなかったので、日常生活を送る分にはさほど問題ないらしい。


「お兄さんとは前にも会いましたなあ。うちは養護教諭の来島くるしま英理えり言います。ほなちょいとそこに座ってくれます?」

「あ、はい。じゃ聖愛、降ろすぞ」

「は、はい」


 温和な表情の来島は腹の内が読めなかったが、やはり前回の潜入時に顔を覚えられていたらしい。こりゃ早めに退散したほうがいいな。


「芙蓉、大丈夫? 無理しないで休もうか?」

「う、うん……平気だよ」


 保健室のベッドにはこの前出会った生徒、確か難病の少女の芙蓉と友人の紅葉がいた。また傍らには心配そうなチャラ男の道雄と、やや苛立った様子のリーダー格の桂里奈もいた。


「いや無理しないでってさあ……折角準備してきたんだけど」

「こうなる事はわかってただろ。なんでお前は芙蓉を一番負担が大きい主演にしたんだ。脚本を何度も書き直してその度に遅くまで練習させて……」

「は? 私が悪いって言うの? 私は友達がいない芙蓉ちゃんのためを思って目立つ役を用意してあげたんだよ。なのにせっかくのチャンスを無駄にして。もっと頑張ってよ。やる気ないの?」

「やめてよ、喧嘩は」


 桂里奈と道雄は険悪な空気になり、ベッドに横たわる芙蓉は筋違いの怒りに悲しげな表情になってしまう。一見善人の様に見えるが、桂里奈の主張は身勝手で気分の悪くなるものだった。


「もういい、私は先に準備をしておくから。少し休んだらちゃんと来てよ」

「ちょっと」


 機嫌を損ねた桂里奈は苛立ちながら保健室の外に出て乱暴にドアを閉める。残された友人たちはため息をつき落胆してしまった。


「何よあいつ」

「いつもの事だろ。諦めろ。もうあいつには何を言っても無駄だよ」


 紅葉と道雄は横暴な桂里奈への不満を口にしてしまった。一見仲が良さそうに見えても、いろいろドロドロしたものがある様だ。


「ごめんね、私のせいで。私もっと頑張るから……」

「ううん、芙蓉は悪くないよ。だから休んで」


 紅葉は弱々しく悲しむ芙蓉の手を握って励ました。もしも芙蓉に真の友人がいるとすれば、それはきっと彼女なのだろう。


「ああ、何も心配しなくていい。どうせすぐにあいつは終わるから」

「?」


 道雄は親友ではないが彼女たちとはそれなりに仲は良い様だ。だがその励ましの言葉に憎悪と悪意を感じたのは気のせいではないだろう。


 そういえばあいつは教頭と何かの取引をしていたんだよな。おそらくは誰かの盗撮画像だろうが、彼は果たして歪んだ性欲を満たすためにその画像を手に入れたのだろうか。


 うん、推測は出来るが深く考えないでおこう。依頼をされたら別だがそんなものは探偵の仕事ではないし。


「聖愛、じゃあ俺は先にニナの所に行ってるぞ」

「は、はい」


 聖愛もさほど問題なさそうだし、ここにいては精神衛生上よろしくないしさっさとどこかに行こう。俺は適当な理由を付けて保健室を後にした。


 保健室にも盗撮カメラを仕掛けていたがこうなっては後回しにするしかないな。つってもトラブル続きで本来の仕事を全然出来なかったけど。


 仕方がない、今日の仕事は切り上げてロッシーをもふもふして癒されておこう。盗撮カメラは予定通り文化祭終了後に回収しておくか。

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