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1-14 マスクドコケシロボとの死闘と、100キログラムマラソンの感動のフィナーレ

 校舎の中は屋外とは違い喫茶店やゲームコーナーが多い様だ。やはりこちらも全体的にレベルが高く、射的や輪投げと言ったアナログなものからプロジェクションマッピング等最先端技術を用いたものまで様々なアクティビティが楽しめるらしい。


「るんたったー、るんたったー」

「……………」

「……………」


 結局俺達はそのまま断り切れずに流れを優先して行動を共にする事になってしまった。ニナは花畑でも散歩しているかの様にわかりやすく上機嫌だったが、後ろを歩く俺と聖愛は浅からぬ因縁があるので互いにバチバチと火花を散らしてしまう。


「何でこうなったんですかね。堤さんも断ってくださいよ」

「俺が聞きたい。お前のほうこそ断ってくれよ」

「出来るわけないじゃないですか、ニナちゃんがガッカリしますし」


 厳密にいえば敵視しているのは聖愛だけで、俺からすれば彼女は普通の真面目な警察官なのでそこまで悪い感情は抱いていない。


 俺が元々文化祭に来たのは隠蔽工作や盗撮カメラを回収するためだが、流石にそんなグレーな行為をしていると現役の警察官の彼女に言えるわけがない。また聖愛も聖愛で無邪気なニナの行為を無下にできず、こんな気まずい状況になったというわけである。


「仕方ない、すまんがニナを撒くのに協力してくれ。遊びに夢中になっている間に俺はズラかる。その間こいつの面倒を見て欲しい」

「親としてアウトですが……仕方ありませんね。ではあれなんていかがでしょう」

「だな」


 俺と聖愛はこの状況を打開する為秘密協定を結ぶ。聖愛は早速子供が好きそうなアクティビティを発見、俺と協力して誘導する事にした。


「ニナ、あれやってみるか?」

「わあ! なんか楽しそう!」


 その教室では人型ロボットが四角形の囲いの中で乱打戦を繰り広げており、学校の文化祭というにはSFチックな催しをしていた。ただそれはある種の格闘技であるとも言えるのでニナはすぐに興味を示してしまう。


「さあ、どなたか参加したい人はおられませんか! 情報科の技術の粋を集めて作ったロボットによるバトルですよー!」


 参加者はコントローラーでラジコンの様にそれを操作してバトルを繰り広げている。ポスターにはルールが書かれており、パンチやキックで相手を先にダウンさせるかリングから追い出せば勝ちになる様だ。


 シンプルなロボットの見た目はこけしの様で、動きもぎこちなく技術の粋と言うには少しばかり微妙だ。しかし一介の高校生が低予算でこんなものを作れるのは普通に凄い。時代は進んでいるんだな。


「パパ、それじゃあリングに乱入してやっつけて!」

「んな事したら出禁になる。普通にプレイヤーとして参加すればいいだろ」

「むう、ノリが悪いなあ。聖愛ちゃんなら倒せる?」

「え? 私? いや、乱入は駄目だけど結構パンチ力は強そうだね。調整すれば普通に空手の有段者くらいの威力にはなるかも」


 格闘技の経験がある聖愛はニナの馬鹿馬鹿しい質問に丁寧に答えた。民間の技術によって作られる物は所詮型落ち品だ。軍用ロボットは既に存在しているし、実際に格闘家を上回る強さのロボットは既に作られているのだろう。


『わーはっはっはー! この拳の錆になりたい奴はどいつだー!』


 またリングのそばにある長机に置かれたパソコンの画面には狐耳のバーチャル動画主の少女が勝ち誇った笑みを浮かべていた。こいつがどこの誰なのかよく知らんが、おそらく彼女も文化祭に招かれたゲストなのだろう。


「ほれ、やってみな。はよはよ」

「うん、受付をしてくるね!」


 ニナは思惑通り受付に向かい整理券を貰う。うん、これで後は適当な所で撒けばいい。俺は聖愛と目配せをし、作戦実行のタイミングを伺った。


 ザザッ。


『さあ、かかっテ、デゴイ?』

「ん」

「へ?」

「あら?」


 しかしその時を待っていると、パソコンの画面にノイズが走り可愛らしい少女の声がガラガラ声になってしまった。リモート会議ではありがちだが通信環境でも悪いのだろうか?


「のお!?」

『グェアー!? ドウシテゴウナッダー!?』

「どぅええ!? なな、何が!?」


 だがパソコンの画面に映し出されたバーチャル動画主の姿を見てその場にいる誰もが驚愕する。何故ならば萌え系バーチャル動画主のアバターが、なんとマスクドコケシに変化してしまったのだから!


「くっくっく、はーっはっは!」

「ど、どうしたんだ! そんな悪のマッドサイエンティストみたいな高笑いをして!?」

「スマン、普通におかしくて笑っただけだ!」

「てめぇ紛らわしい事をするな! 黒幕は俺だよ! 人が考えた完璧な復讐計画の出鼻をくじくな!」


 受付では生徒がコントを繰り広げており、自称黒幕のモブ顔生徒が空気の読めない同級生に激高していた。はて、これは盛り上げるための演出なのだろうか。


『ヂョ、モドニモドゼー! ゴンナズガガダガザザグナイヨー!』

「ごめん、ほとんど聞き取れない! じゃねぇ、俺はバーチャル動画主に恨みがあるんだよ! ずっと水戸納豆うららのファンだったのに熱愛なんてしやがって……だがそれが理由じゃない! スクープの写真を見て愕然としたよ! 中身がすんげぇデブな三十歳のババアだったんだよぉッ! 俺の初恋を返せぇッ!」

「そ、そんな! いやうん、確かにそれはきっつぃわあ……」

「世の中にいるバーチャル動画主は全員ババアかオッサンだ! 俺はこのアバターの見た目と動きをマスクドコケシに変えるウィルスをばら撒いて世界中のバーチャル動画主に復讐してやる! 覚悟しろォ!」

『イヤ、ジランガナー!』


 ぽっと出のマッドサイエンティスト生徒は怒りを剥き出しにして聞いてもいないのに動機を語った。要は裏切られたファンの逆恨みだが、正直あんまり共感出来ないしクソどうでもいいな。


「さあ行けッ! マスクドコケシロボッ!」

「「わー!?」」

『ウギャー!?』


 マッドサイエンティスト生徒はマスクドコケシロボを操りコケシロケットを発動、高速のダイビングヘッドバッドにより受付とパソコンを派手に破壊してしまう。


「えーと、これ演出ですよね!?」

「どうしようパパ! このままじゃ世界中のバーチャル動画主がマスクドコケシになっちゃうよ!」

「んな事言われてもなあ」


 突然のピンチに聖愛とニナは慌てふためき俺に助けを求めてしまう。最初は演出かと思ったがそれにしてはやり過ぎなのでどうやらこれはガチらしい。


 問題を解決するために協力してもいいが、うっかり間違えたら死ぬくらいの威力だし、こんなしょうもない事に命を懸けたくない。


「くッ! ここは正義のヒーローとして私のジャスティス正拳突きをッ!」

「待て聖愛ッ!」


 正義感の強い聖愛は無謀にもマスクドコケシロボに勝負を挑んでしまう。普通に考えれば学生が作ったロボット如きが空手の有段者の彼女に勝てるはずがないだろう。


 だがそれはあくまでも通常の状況だ。彼女は絶対に勝てない。何故ならば今ここにはあらゆる不条理を肯定する世界観が存在しているのだから!


「聞かぬわァッ! 正義などファンの怒りの前には無力なのだよッ!」

「うぴゃー!?」

「聖愛ちゃーん!」

「聖愛!」


 予想通り聖愛はマスクドコケシロボにヘッドバッドで吹き飛ばされダウンを奪われる。ふむ、本家の突貫ファイトを忠実に再現してなかなかのクオリティだ。


「はっはっは! このウィルスはプログラムを書き換え強制的にマスクドコケシの動きをさせるのだ! お前もこけしにしてやろうかァー!」

「人外寄りの聖愛ですら歯が立たないなんて! なんて凶悪なこけしなんだ!」


 ううむ、これはどうすべきか。普通に考えればとっとと逃げればいいが、ここで逃げたらまた聖愛の好感度が下がりそうだし。


「うう、聖愛ちゃんの敵は私がとってやる! カモーン、ロッシー!」

「オウーン!」

「おおう?」


 その絶体絶命のピンチにニナは口笛を吹き相棒を召喚する。何故だろう、未だかつてこのアホ犬がこんなに頼もしく見えた事はないぞ!


 ドタドタドタ!


「オラ! ニク! クウ! オラ! ニク! クウ!」

「負けるものかああッ!」


 また時を同じくして廊下の奥から百キログラムマラソンのランナーが登場、完走を間近に控えデッドヒートを繰り広げていた。ただでさえ重量のある彼らは大量の食べ物を食べた事でより体重が重くなっているに違いない。


「貴様何をするつもりだ!?」

「ロッシー! 行くよ!」

「オウフ!」


 そしてロッシーはニナと練習していた芸――立ち上がってマスクドコケシロボを挑発する。マスクドコケシロボはプログラムに従い名シーンを再現、教室のドア目掛けてこけしロケットを放った!


「オウン!」

「ごっつぁんでーす!」

「ギャー!?」


 ロッシーは寸前で回避、マスクドコケシロボは廊下に飛び出して巨漢のランナーたちに踏みつぶされ、マッドサイエンティストな生徒はスクラップになってしまった兵器を目の当たりにし断末魔の悲鳴を上げてしまった。


「ぶごど!?」

「な!? 水戸納豆うらら!? どうしてここに!?」

「わ、私の事を知っているの……?」


 しかし彼は続けて転倒した三十歳くらいのアニメ声の女性に慌てて声をかける。どうやらロボットとぶつかった時に足に怪我をしてしまったようだ。


「……知ってるさ、ファンだったから」

「そう。だけど私は走らなきゃいけない。底辺から這い上がるためにも、こんな私をまだ支えてくれるファンのためにも……ぐう!?」

「よせ、その足じゃ走れない! 君は痛風の治療中だったはずだ! 膝ももう限界だろう!?」


 水戸納豆は何やら茶番を繰り広げているが、おそらく彼女は先ほどの話に出てきたバーチャル動画主の中の人なのだろう。マッドサイエンティスト生徒は壊れても走ろうとする水戸納豆うららに考えを改める様に涙ながらに訴えた。


「僕は嘘をついていた。僕は本当はデブ専だったんだ。しかも熟女も大好物だ。君の本当の姿を見て僕は性癖に気付いたけどそれを受け入れる事が出来なかった」

「え……?」

「さあ、一緒に行こう! 僕が君の足になるッ! ぬらばああッ!」

「ありがとう……こんな私を好きだと言ってくれて!」


 そしてマッドサイエンティスト生徒は気合と根性で水戸納豆うららを持ち上げ、全力疾走してその場を離れる。


「負けないで、デブ!」

「走れ走れデブ達!」

「体脂肪の限界を超えていけぇえ!」


 また丁度ゲストの葵錦の感動的な歌がスピーカーからタイミングよく流れ、周囲の人々も応援しまるでチャリティー番組のエンディング間近の様になってしまった。後は涙もろいアナウンサーがいれば完璧だな。


「だいしょーり! なんかハッピーエンドになったしやったねロッシー!」

「オウフ!」


 ニナとロッシーは勝利を称え互いに手を取り小躍りする。彼女たちはその栄光に歓喜していたが、


「ナニコレ」


 俺はこのトンデモ展開について行けず静かにそう呟かざるを得なかった。もうね、君達少しは世界観に配慮しようよ。


 あの時は相手にしなかったがまさかマジでマスクドコケシと戦う日が訪れるとはな……まあうん、こんなのは今更か。俺の周りでは割とよくある事だな、うん。

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