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1-13 ぎこちないかつての親友達

 自分の下ネタを上回るボケを見せつけられ機嫌が悪くなってしまったニナだったが、やはりそこは子供、適当に美味いものを食わせるとすぐに機嫌が戻ってしまった。


「まうまうー」


 現在はスイーツを攻め彼女はやたらデカい虹色の綿あめを美味しそうに食べていた。要はただのカラフルな糸状の砂糖なのだが、見栄えは良いので若者がこぞって並びぼろ儲けしているらしい。


 昔ほど盛んではないがSNS映えを求める風潮は現在ももちろん存在し、それは文化祭にも影響を与え若者を意識した食べ物も結構ある様だ。


「本家監修のチーズタルトいかがですかー!」

「美味しいですよー!」


 その最たるものはやはり目玉でもあるもふもふ君が監修したチーズタルトだろう。生徒たちは可愛らしいもふもふ君のパーカーを着て呼び込みをし、商品を売るためにこれでもかと愛嬌を振りまいていた。


「じー。あれどこで売ってるのかな。服のほう」

「もふもふ君の店の通販サイトで買えるみたいだぞ」


 着ぐるみは良い値段がするので流石に用意出来なかった様だが、ニナはむしろチーズタルトよりも服のほうを欲しがってしまう。


「うーん、でもどうしよう。あんなものを着たら私のセクシー要素が無くなっちゃうよ。可愛さは五割増しになるかもだけど」

「安心しろ、お前には最初からセクシー要素はない」

「むぐっ、パパのいじわるー」


 無意味な葛藤をするニナをからかいながら、俺はもふもふパーカーの値段を確認する。


 この手の関連グッズは割高だったりするが、価格設定は普通のパーカーと大差なく良心的な値段だった。これくらいなら全然払えるので後で注文しておこう。


「どうする、チーズタルト食うか?」

「うーん、でも結構並んでるし、この前お土産で本家の奴を食べたからなあ」


 食欲旺盛なニナは少し悩んでいたが、それは実質的に買う意思がないのと同義だった。もしも関係者やチーズ好きな人間ならともかく、時間も胃袋も有限である以上わざわざ似たものを食べる理由はあまりないからだ。


「むむー、どうしよう。今から並んでたら間に合わないかなあ」


 また近くにいた女性も似た様な理由でうんうんと悩んでいた。ある意味どこもクオリティが高いので贅沢な悩みだとはいえるだろう。


「聖愛?」

「うげ。堤さん、とニナちゃん」


 だがその女性はなんと聖愛だった。彼女も俺に気付いてしまい、あからさまに嫌そうな表情になってしまう。


「あ、泥棒猫だ。取りあえずガンつけるね。じぃぃい」

「泥棒猫って、堤さんとはそんなんじゃないから」


 勘違いをしたまま誤解が解けていないニナは聖愛を敵と認識してガン見して勝負を挑む。しかし彼女は苦笑しながら否定し、トレーナー同士のモンスターを使ったバトルが始まる事は無かった。


「お前なんでここに」

「私は近隣住民な上にこの学校のOGですし。何か問題でも?」

「いや、別にないが」


 学校の卒業生が母校の文化祭を訪れる。知り合いもいるだろうしそれは何ら不自然な事ではないだろう。だが彼女の場合は特別な理由が存在していたので俺は少なからず戸惑ってしまった。


「もう大丈夫なのか、色々と」

「堤さんには関係ありませんよ」

「まあそれならいいが」


 俺は聖愛を気遣うが彼女は冷たく突き放す。あれから月日が経ちあの事件で心に負った傷も癒えたのだろうか。ならばあれこれ何かを言う必要もないか。


「それで? 堤さん達も並ぶつもりなんですか?」

「ニナ次第だ」

「うーん、私はやっぱり別にいいかなあ、人多いし」

「だよねー。うーん、でも気になるし」


 俺に対してトゲのある態度を取った聖愛はニナに対しては優しく接した。二重人格と言われても納得するくらいの変貌ぶりだが、家族だという理由で喧嘩を売らなくて良かったよ。


 あるいは彼女自身が家族の問題によってとばっちりを受け不幸になったので、それがどれだけ辛いのかを身に染みて理解していたからかもしれないけど。


「チーズタルトが欲しいの? はい」

「え? って恋那!」


 そのまま無駄に時間を浪費しながら悩んでいると別れさせ屋の恋那までもが出現する。なんとあろう事か彼女はムッとした表情でチーズタルトの入ったプラ容器を手渡したのだ。


「お前も来てたのか」

「悪い? 一応母校だし」


 俺はその短いやり取りで聖愛と恋那の関係性を把握する。二人は友人だったらしいが、とすれば彼女もまたあの事件の当事者でもあるのだろう。


「恋那、どうして」


 当然それに伴い何かしらの問題もあったに違いない。聖愛は数日前に喧嘩別れをした恋那の行為が理解出来ず混乱してしまう。


「いるの? いらないの?」

「う、うん!」


 だが彼女は迷う事無くチーズタルトを受け取る。物で釣るというのはやや卑怯だが、仲直りの切っ掛けにお菓子を渡すというのは昔から使われる定番の手段だ。


「食べていい? ほら恋那も」

「ああうん」


 そう促された恋那は気まずそうにチーズタルトを食べた。カリッ、サクッとした音は実に心地よく、幸せそうな空気も相まって微笑ましい気持ちになってしまう。


「美味しい?」

「あんたが昔作った石みたいなチーズタルトよりかは」

「ちょ、失敗したのは最初の頃でしょ。でも恋那はちゃんと残さず食べてくれたよね。小宮山君もまずそうにしてたけど……」


 聖愛は今は亡き友を偲んで寂しげに笑う。一部では聖愛が虐め殺人事件の黒幕だと根も葉もないデマが流れたそうだが、この様子を見る限りそれは無さそうだ。


「小宮山君はチーズが苦手だったから生クリームのタルトを作ったけど、お菓子を食べてくれたのはあれが最初で最後になっちゃったなあ。もうちょっと美味しいものを作ってあげればよかったかなあ……ねえ、猪狩いかり君とは今も付き合ってる? 仲良かったよね」

「もう別れた。別にそんなに好きじゃなくてむしろ嫌いだったし」

「そ、そう」


 会話が続かず二人の間に気まずい時間が流れてしまう。やはり時間は残酷で、埋めようのない隔たりが両者の間に存在していた。


 恋那は無表情のままチーズタルトを平らげた後そのまま背を向けてどこかに行こうとし、聖愛は慌てて彼女を引き留めようとした。


「って恋那、もう行っちゃうの? 一緒に見て回ろうよ!」

「私だって用事があるの。じゃあね」

「そっかー、なら仕方がないね」


 だが足を止めた恋那はそのまま振り返る事なく去っていく。聖愛は名残惜しそうにしていたが、それでも十分過ぎる収穫に幸せな笑みを浮かべていたんだ。


「よくわからんが仲直り出来てよかったな」

「ええ、本当に。正確にはまだ完全に和解するまで時間はかかりそうですけど……まあ堤さんが出会うきっかけを作ってくれたので感謝はしてもいいですね」

「ツンデレ?」

「もう、違うよニナちゃん」


 俺が声をかけると聖愛は少し不本意そうだったがお礼の言葉を告げた。だがむしろこっちこそ聖愛と縁を繋いでくれた恋那に感謝したいものだ。


「そうだ、聖愛ちゃん! 暇なら一緒に文化祭を見て回ろうよ!」

「「え?」」


 だが丸く収まりそうになったところでニナは笑顔で余計な一言を言ってしまい、俺と聖愛はその思いもよらない提案にひどく動揺してしまった。

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