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バッドエンドのその先は……

作者: こうじ

「あれからもう何年経つんだろうか……」


 ふぅと汗を拭いて鍬を置きマシュー・インデライトはふとそんな事を思った。


 彼は元々この国インデライト王国の王子だった。


 しかし、現在は国の隅っこにある人1人いない土地で1人畑を耕し暮らしている。


 一応『開拓』としているが実際自分以外の人間は会っていないしこの数年人が訪ねた事はない。


 それも当然か、とマシューは苦笑いを浮かべる。


 なんせマシューがここにいるのは自業自得なのだから。


 数年前、マシューは当時婚約者だった公爵令嬢であるアルシナ・ルトワールに一方的に婚約破棄を宣言した。


 当時、マシューには貴族学院で出会った男爵令嬢のメアリー・クライトに夢中になっていた。


 所謂『真実の愛に目覚めた』というやつである。


 当然、そんな婚約破棄宣言やアルシナに対する断罪は通用する事無く父親である国王にこっぴどく叱られ王籍から除籍され平民に落とされ1開拓民としてこの地に送られた。


 何も無い場所に最初は絶望していたがしかし動かなくては生きていけない。


 小さな小屋を建て土地を耕し近くの森から種を拾い植え育て畑を作り今日までなんとか過ごしてきた。


 今では王族にいた頃の記憶がぼんやりとしか思い出せないくらい遠くなっていた。


 でも、アルシナにやらかした事、そしてメアリーに迷惑をかけた事は忘れず心の隅でずっと謝罪している。


 思えば、自分は世間知らずであり王子という身分に胡座をしていた。


 全てが自分の思い通りになる、と思っていた。


 また、王族という決められた生き方にも反発心もあった。


 周囲の人間はインデライト王国の王子としてしか見ていなくマシュー・インデライトという個人を見ていない、というのが当時のマシューの思いだった。


 恵まれているけど満たされていない何かがあった。


 それがマシューを真実の愛に動かしたのかもしれない。


 でも、それは言い訳でしかないし漸く冷静に考えれる様になったマシューの思いだ。


 結果は既に出ていて現在が全てだ。


 一時的な感情で用意されていた未来をぶち壊してしまったのはマシューだ。


 だからこそ反省して汗水流して暮らしている。


 最近なんてこんな暮らしも悪くない、と思えるようになって来た。


 自分に必要だったのはもしかして真実の愛ではなく労働だったのではないか、と思うぐらいだ。


 そんな風に漸く前向きになって来たマシューの下にとある人物が訪ねてきた。


「お久しぶりです、マシュー様」


「君は……アルシナじゃないか」


 その人物とは元婚約者のアルシナだった。


 再会したアルシナは当時よりも美人になっていた。


 しかし、服装はシンプルな物になっているのが気にはなったがマシューはまずやった事は謝罪だった。


「アルシナ、勝手に婚約破棄をして申し訳無かった! あの頃の私は幼く自分の事しか考えていなかった! 遅いと思うが許してくれ!」


 マシューは涙ながらに謝罪した。


「マシュー様、もう過ぎた事です。 反省されているのはわかっています、頭をお上げください」


 アルシナは驚いたがすぐ微笑んだ。


 あぁ、そういえば婚約した頃は良く笑う子だったな、とマシューは思った。


「ところで何故こんな所に……?」


「マシュー様はご存知ないのですか?」


「この数年、誰とも会っていないし日々生きるのに必死だったから情報とか入ってきてないんだ」


「そうでしたか……、実は私、あの後第2王子であるエレナルド様と婚約したんです」


「そうか……、エレナルドは真面目だしアルシナとは良い関係を築けたんだろうな」


「えぇ、エレナルド様は大切にしてくださいました。 ですが……」


「何かあったのか?」


「突然、コーラン帝国が我が国に宣戦布告してきたのです」


「はぁっ!? あの国はこの国と友好的な関係を持っていた筈なのにっ!?」


「どうやら、貿易の関係で問題が生じてしまった様で……、話し合いもしていたんですが決裂してしまったのです」


「そ、それじゃあ父上達はどうなったんだっ!?」


「残念な事に……、エレナルド様は戦死、国王様、王妃様は処刑、私の両親も同じく処刑されました」


 想像していなかった現実にマシューは愕然としていた。


 まさか、この国がいつの間にか戦争になって負けていたとは……。


「私はエレナルド様からマシュー様の下に行くように、と言われました。 エレナルド様も国王様もマシュー様のこれまでの事を知っていたみたいです」


「父上も母上もエレナルドも……?」


「はい、愚かな事はしたけどマシュー様の更生を信じていました」 


 マシューは家族が自分の事をずっと思っていた事を初めて知った。


 その事にマシューは涙した。


 そして、自分以外の家族が既にこの世にいない事に悲しさを感じた。


「マシュー様、私はもう公爵令嬢でもないし王太子妃でもありません。 それでもご一緒にいてもよろしいでしょうか?」


「勿論だとも! 2度とアルシナを裏切る事なんてしない!」


 時間は経ち2人は全てを失った、でも2人の関係は再び繋がる事になった。


 その後、王都を脱出した元王都民達がボツボツとマシュー達の元に集まりだしその中にはやはり平民になっていたメアリーの姿がありちょっとしたいざこざはあったけれども和解した。


 そして、小さな村が出来てそれが徐々に大きくなってマシュー達が亡くなりその孫世代達が新たに国を起こし帝国に勝利する事となる。


   

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