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闇鍋ラプソディ

「ワシはな、ずっと前から不満だったんじゃ!」

ドワーフにしては酒の弱いギルが唐突に叫んで

みんな手にした干し肉を落としそうになり慌てて掴み直した


気付け薬代わりに持ってきた火酒とやらをあおった勢いなのか?

血走った目がギョロリと俺、魔法使いのスライン、神官のエド、

陽気な盗賊ウッディ、そしてエルフのディルドー(ひでぇ名前だ)を順番に舐め回す


俺か?俺はバババーン・バババ・バーンってしがない冒険者

白馬に乗った暴れん坊なお殿様が出てきそうだって?

舞台設定的にはピンとこないがまぁわかるよ

さておき、ガタイが良いってだけで戦士をやってる程度の

自慢じゃ無いが冒険者クラスCの中では中の…まぁ中の中だ


状況の説明が必要だな?

俺らはちょっとした依頼を2泊3日で達成し

体力回復も兼ねてダンジョンを出た森の開けた場所で休憩中だ

後はギルドに’戻れば任務達成というところなんだが


「不味いんじゃ!」

ギルはそう叫んでから勢いよくグラスをテーブル代わりのちょうど良い石に叩きつけた

中身の火酒が裾にかかって嫌そうな顔をしたスラインをよそに

俺は(良く割れなかったなさすがスライム30%配合だな)とか思いながら

歴戦の勇士の目に浮かぶ涙を呆気にとられて口を開けてポカーンと見守るしかなかった


「ダンジョンの飯がな...不味いんじゃ!」

おいおい一文字間違えたらだいぶ怒られそうな事を平気で言いやがって!

それ以前に怒られポイントあるだろって?何のことだ?


ともあれ、勇ましくも犬っころ野郎どもの集団に単身突っ込んで

ボス犬の左腕をバトルアクスでぶった切った歴戦の勇者の目に浮かんだ涙は

何言ってんだこいつ、早く帰ろうぜ感を隠せないディルドーの美しい顔を更に歪ませた


「ま、まぁダンジョンに食事の美味しさを求めてもさ」

「ダンジョン!メシ!」

「あッぶねぇ!」

諭すエドをよそに俺は辺りを見回した

ふう、どうやらまだバレて無いようだ

…って何がだ?


冒頭にも話したが、ドワーフって連中は基本酒が大好きなんだが

このギル坊だけはとにかく酒が好きな割にはめっぽう弱い


あ?坊って?

ひげもじゃだけどこいつまだ18歳だからな、俺より6個も下なんだ

それでも冒険者としてはもう10年、俺よりちょいと先輩なんだ


「ギルよぅ、そりゃ同意なんだけどだから早く宿に帰って美味いメシを」

「だが!ワシは気づいたんじゃ!」

人の話を聞きやしない、ドワーフってみんなこうなのか?

こうなんだよ残念ながら

アンタも4年付き合えばわかるって


「フォン・ド・ヴォーが足りんのじゃ!」

今度こそ飲みかけた水をディルドーが隣のウッディに向かって盛大に吹き出す

ウッディ、驚きと共に恍惚とした表情をするんじゃない

美女の唾液に興奮するな


「フォ?」

「フォン・ド・ヴォーじゃ、フォン・ド・ヴォー!つまりは味の素じゃ!」

味の素?

料理研究家が使いそうなワードに訝しそうな視線を向けるスラインに

「つまりは味の素となるモノが必要なんじゃ!スラインの魔法で言えばマナじゃ!」

と直球を投げつけるギルにあぁーと納得したスライン

いやたぶんパーティーで一番頭の良いお前がそれでは困るんだ


「そこで、だ!ワシは用意をしておいたんじゃ!」

パンパンに膨らんだザックからギルがざらりと俺たちの前に並べたものは

乾いた肉片らしきものが付いた状態の


骨だ


骨?


なんの?


「こいつがシャドウウルフ、こいつがゴブリンチーフ、こいつがコボルドリーダーじゃな」


待て!吐くなディルドー!

さすがにそれはジャンルが変わってしまう!

俺は期待に満ちた恍惚のウッディをよそに迅速にディルドーの態勢を変える

舌打ちが聞こえたが、無視して背中をさすってやる


「こいつをな、野菜と一緒に煮込むんじゃ!そうすれば凝縮された旨味、そう、味の素が」

「誰がそんなもん食べると思ってんのよ!」

口元の吐しゃ物を拭いながら涙目で訴えるディルドーを尻目に

ギルは先ほどまでとは打って変って虚空を見つめながら

「百聞は一見にしかず、じゃな!」

と自分の盾をちょうど良い石の上に裏返し

そこにジャバジャバと水を注ぎ始めた


ダンジョン内なら奇行だが…いやもうじゅうぶん奇行なんだが

すぐそこに川があるのを知っている俺らは水の事は気にせず

目の前の行為をただただ見守った


近くの枯れ木を集めて手際よく火打石で火をつけ

そこに先ほどのモンスターの遺骨をぶち込むギルの姿を呆然と見守る俺たち


「種類は多い方が良いと聞いたので、ゴブリンの耳、コボルドの尾

 シャドウウルフの睾〇、ゴブリンの睾〇、コボルドの睾〇、あとよく知らんやつの睾〇!

 おっとそうそう野菜も入れねばな」


ザックがまだ膨らんでいることに嫌な予感がしていたが

ギルは満面の笑みで俺らにそれを見せつけてきた

「ほれ、マイコニドとマンドラ」

「ゴゥラーーーーーッ!」

ギルが言い終わらぬうちに、例のモノを引き抜いた時のような奇声とともに

ディルドーの綺麗なサイドキックがギルの側頭部を的確に捉えた

後衛職は接近戦に弱いはずなんだが

徒手空拳でもこの蹴りなら犬っころくらいなら一撃だな


「…ふう、みんな!帰るわよ!」

ディルドーの声で我に返った一同は慌てて立ち上がり

盾を蹴飛ばして火を消しながら

俺は意識を失い地面に転がったギル坊を肩に抱えて歩き出した


火元の確認も踏まえてちらりと遺骨&遺骸鍋の残骸を目にしながら俺は思った

どんな味がするんだろう?


俺の冒険者魂にちょっとだけ火が付いたのだが

そんな事言えばきっとディルドーにぶっ飛ばされると思うからそれは内緒だ


ギル坊を寝かしつけてから馴染みの酒場に

煮込み料理でも食いに行くとするか

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