44 どうしよう
な、な、何これどうしよう。昴さんが私に覆いかぶさっているんだけど、これってどういう状況なの……?
心臓がはち切れそうだ。
なんで私、ベッドに押し倒されているんだろう。
これって……知識が少ない私でも何が起きようとしているのか想像できる。
で、で、でもこういうのってちゃんと結婚してからするものじゃないのかな?
利一さんに襲われた時のことが一瞬頭によぎるけど、あの時みたいな拒否感はない。
相手は昴さんだし私が嫌がることなんてしないだろう。
そうは思うけど……あー、どうしよう私、どうしたらいいの。
こういう時、昴さんの顔ははっきり見えない方がいいと思うのに、闇を闇と捉えない私の瞳ははっきりと昴さんの顔を認識させる。
昴さんは思いつめたような、切ないような顔で私を見下ろしている。
これは……どういう状況なんだろう。
本気になれば私、昴さんを押しのけることくらいできると思うけど、でもそうする勇気なんてなかった。
「あ、あ、あの……す、すばる、さん……」
震える唇から漏れ出る声はもちろん震えていた。
「ねえ、その目の色は嫌?」
「え? あ……は、はい……」
この目を鏡で見ると私は人じゃないんだって自覚させられるから。
そんな自分でも受け入れられたらいいのかもしれないけれど、人を殺す鬼だ、ていう事実はさすがに受け入れられない。
「僕が君に力を分けてあげればたぶん、その瞳は元に戻ると思うけれどどうする」
「わ、分けるってどうやるんですか?」
「口づけだけじゃあどうにもならないから……それ以上のことをすればたぶん」
……それ以上ってどういう……
何度も瞬きを繰り返して私は昴さんを見つめた。
口付けより先って……
しばらく考えてそれを理解し、私は大きく目を見開いた。
「さすがに、何も言わずにその……するのは無理だし……」
言いにくそうに言い、昴さんは私から視線を外す。
そうか、昴さんが今までそれを口にしなかったりしようとしなかった理由が理解できた。
昴さん、遊郭に通っていたけどそういう経験ないんだっけ……
「あ……あの……それって……つまりはそういう……」
言葉にして私はいっきり今の状況を理解する。
そうか、外側から無理なら口づけで内側から干渉してとか言っていたから……ってことは……
すべてを理解して私は顔中が真っ赤になっているのを感じた。
どうしようこの状況。
でも私はこのままの姿でいたくない。
元の姿に戻れるならそうしたいけど……でもこれは、お願いします、って言える状況じゃない。
私は昴さんとその……やだ、考えただけで体中の体温が上がる。
「僕はその……君がその姿のままでもいいと思うけど。そんなに泣くのなら……それもひとつの選択肢にいれていいのかなと思ったんだ」
そう言った昴さんの顔は真っ赤だった。
きっと私も同じような顔をしているだろうな。
この姿でもいい、と言われると嬉しいけど……でも闇は闇であってほしいし、目の色は紅くない方がいい。
「す……昴さん……あの……このまま……は嫌です。だって私が人じゃないって、思い知らされる、から」
震える声で答えて私は、ゆっくりと腕を上げて彼の首に絡める。緊張しすぎて口から心臓が飛び出しそう。
「だからあの……お願いします」
それ以上の言葉は恥ずかしくて言えず、私は昴さんをじっと見つめる。
「かなめ」
低く甘い声で名前を呼ばれそして、顔が近づいて唇が触れた。




