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幸せの見つけ方―大正妖恋奇譚  作者: 麻路なぎ


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38 お出かけの朝

 お屋敷の掃除に洗濯、お食事の用意。

 引きこもるようになったら私の屋敷でのお仕事が増えた。

 お屋敷の掃除といっても一階しか掃除するところがないし、朝、めいこちゃんやぼたんちゃんたちが廊下や食堂、居間のお掃除をしているから私が出る幕は少ない。

 二階には近づくな。

 そう言われているから私は二階にはいまだに行ったことがない。

 昴さんの寝室は二階にあるはずだし、着替えもそちらにしまわれているはずだけど、私は階段を上ることを許されなかった。

 とし子さんと敬次郎さんだけがあの階段を上ることを許されているらしい。

 だから掃除もとし子さんたちがしているようだった。

 この上に何があるんだろう。

 不思議に思うけれど、行くな、と言われているから私は階段を上らないでいた。



 

 日曜日の朝。

 今日は昴さんと目黒に出掛ける日だ。

 朝食を終えて片付けをしたあと、私は与えられた部屋に行きお出かけの準備をした。

 目の色は相変わらず紅いままだから外に行くのは少し怖い気持ちがあるけれど、目の色なんてそうそう気にしない、と自分に言い聞かせて着替えをする。

 昴さんがくれた濃い茶色のワンピース。腰に太くて黒いリボンを巻いて縛ると可愛らしい。

 スカートの長さは膝より少し下くらい。ちょっと短いけど、まあそこは仕方ないかな。

 そして、美津子さんに教えてもらったお化粧をする。

 クリームの下地におしろい、それにうっすらと頬紅をつけて、紅い口紅をひく。

 鏡の中の自分を見ると、元々の髪色も相まって異人のお嬢さんのようだった。

 黒木綿の靴下を履き、靴を履いたら完璧よね。

 下ろした髪に帽子を被って鏡を見ると、けっこう顔が隠れてみえた。

 目の色なんて気にしない……気にしない……

 鏡の中の自分の顔を見つめてそう繰り返し、口の中で呟く。


「よし」


 そう気合いの声をあげた時、扉を叩く音が響いて私は驚き、裏返った声で言った。


「はい!」


「準備出来た?」


 扉の向こうから昴さんの声が聞こえてくる。

 私は慌てて化粧品をしまい、美津子さんに借りた手提げ鞄を手にして扉へと急いだ。


「お待たせしてすみません」


 言いながら私が扉を開くと、そこにはいつもと少し雰囲気が違う昴さんがいた。

 スーツに詳しくないからよくわらかないけど、ボタンの数とか違うし、背広の形も違う様な……

 いつも黒いスーツだけど、今日はすこし灰色っぽい気がする。

 ボタンは……いつもふたつだったけどこのスーツ、三つだよね。

 それにベストとネクタイ……こんな紅い色のネクタイしていたことあったっけ?

 そこまでちゃんと見たことないけど、もっと暗めの色のネクタイをいつも、していた気がする。

 そしてスーツと同じ色の山高帽子……かな、これは。

 彼は私の姿を見て、ほっとしたような顔をして言った。


「大きさは問題なさそうでよかったよ」


「あ、はい……あの、ありがとうございます」


 そして私は頭を下げる。

 ほのかに香るのはお香かな。

 この匂いがすると、昴さんが近くに感じられて気持ちが和らぐ。

 まだ少し外に出るのは怖いけど……きっと大丈夫。


「お出かけ?」


「お出かけするの?」


 声と共に、ワンピース姿のめいこちゃんとぼたんちゃんが昴さんの足元に立ち、私たちを見上げた。


「言ったじゃないか、ばらを見に行くって」


「ばらってお花だよね!」


「うわあ……もしかしてふたりで行くの……?」


 ぼたんちゃんが目を輝かせて言い、めいこちゃんはほっぺたを両手ではさみ声をあげる。


「こういうの何ていうんだっけ?」


「えーとね、デートだよ! 先生が言ってた!」


 ふたりははしゃいだ声で言い、顔を見合わせて悲鳴をあげた。

 ……デート……て、何……?

 戸惑う私をよそにめいこちゃんたちは弾んだ声で言った。


「私たちのお願い叶うかなあ!」


「絶対に叶うよ、お願い!」


 お願いとは……?

 口を挟むまもなくふたりはふたりの世界を作り、なにやら話しては悲鳴をあげている。

 ふたりの言っていることの半分も理解できない私は、小学校でふたりが何を教わっているのかと不思議に思った。

 昴さんは私の腕をがしっと掴んで言った。


「……行こう」


「そ、そうですね……」


 私たちはデートについて語り合うめいこちゃんたちの横をすり抜け玄関に向かった。

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