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幸せの見つけ方―大正妖恋奇譚  作者: 麻路なぎ


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34 夢を見た

 夢を見た。

 私は小さくて、おっかあと一緒に暮らしていた。


『なんでおっとうはいないの?』


『一緒にはいられなくなったからよ』


 そう答えたおっかあは少し悲しげだった。

 でもおっかあはおっとうのこと、悪く言ったりしたことないなあ……

 なんで鬼の子を生んだんだろう。

 なんで、おっとうはおっかあを捨てていったんだろう。

 ……なんで私は昴さんに会ってしまったのかな。

 あの時あの場所で、昴さんに出会わなければ何も知らずに済んだのかな。

 寝ながら頭がぐちゃぐちゃになって、目が覚めてもなんだか寝た気がしなかった。

 意識がはっきりしないなか、慣れない匂いに包まれてることに気がついた。

 まだ室内は暗く視界がぼやけてしまう。

 目が慣れたとき私は大きく目を見開いた。

 あれ……? 私の目の前に昴さんの顔がある。

 ……って、え?

 何、何がおきてるの?

 昨日の夜、昴さんに抱きしめられて……その後の記憶がない。

 どういうこと?

 私、昴さんにしがみついたまま寝てしまった……とか……?

 動いたら起きてしまうよね、昴さん……

 そう思うと動くわけにもいかず、私はうつむき彼が起きるのを待つことにした。

 昴さんからはやっぱり不思議な匂いがする。

 そしてこの、抱きしめられた状況は落ち着かない。二度寝できるかな、と思ったけどそれは無理そうだ。


「……ん……」


 昴さんの声がして顔を上げると視線が絡む。

 すると、昴さんはぱっと、私の身体から腕を外し、


「ごめん……起こした、かな」


 と言い、顔をそらしてしまう。


「い、いいえ、私、さっき起きたところなので……」


 私も恥ずかしさに顔なんて見られないから、下をうつむくけれど、昴さんの胸に頭を押し付ける形になってしまう。

 昴さんの鼓動の音が大きく聞こえてくる。


「昨日……僕にしがみついたまま君が眠ってしまって……起こしたら悪いからそのままここで……」


「あ、やっぱりそうだったんですね。すみません」 


「何もしてないよ。というか僕が何かできるわけはないし」


 聞いてもいないのに、昴さんはそう弁明をしてくる。

 なぜだろう。

 根拠なんてないけど、昴さんの言葉には説得力がある。

 確かに何かするとは思えないし……身体に違和感はない。


「そ、そんなの疑ってないです大丈夫です……それよりあの」


 私はゆっくりと顔を上げて尋ねた。


「髪の色と目の色……どうなってますか……?」


 不安を抱きながら尋ねると、彼は私の顔を見て頭に触れた。


「金色のままだよ。目の色も紅い」


 その言葉に私は動揺してしまう。

 この姿では部屋の外に出られない。

 こんな姿、誰にも見られたくないもの。


「私……お部屋にいます」


「わかったよ。食事は僕が運んでくるし、ここには近付かないように言っておく」


「お願いします」


「僕は今日、軍に報告に行かなくちゃいけないから」


 報告、という言葉にびくっとしてしまう。

 昨日の鬼退治は軍の偉い人の依頼だって言っていた。

 昨日の報告をするってことは……私のことも……?

 怯えが顔に出たのだろう。

 昴さんは首を横に振って言った。


「君のことを話す気はないよ。嶺樹のことは報告するけど……もし、君のことが知られたら……最初に言ったように生きたまま解剖されてしまうかもしれないから」


 生きたまま、解剖……?

 そういえば昴さんと劇場の前で会って、私が利一さんに飛びかかってそれを止められたとき、そんなこと言われたっけ……

 解剖、という言葉に身体が震えてくる。


「人と鬼の子なんて他にいないだろうし……だから誰にも言うつもりはないよ。せめて目の色だけでも戻ればいいけど……」


 そう言ったあと、頬に手が触れた。

 そうか……珍しいから捕まって解剖とかされてしまうかもしれないのか……

 見世物小屋に売られるとかそんなこと考えたけど、それよりももっと怖い目に合うかもしれない……

 そんなの嫌。

 私は人として生きたいのに。


「かなめ」


 名前を呼ばれたかと思うと顔が近づきそして、ためらいがちに唇が触れた。

 触れるだけの口づけの後、昴さんはなぜか驚いた顔をしてばっと、身体を起こした。


「ごめん、顔を洗ってくる」


 そしてばたばたと音をたててベッドからおり、部屋を出て行った。

 ……何だったんだろう、今の。

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