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幸せの見つけ方―大正妖恋奇譚  作者: 麻路なぎ


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12/49

12 ひとりじゃない朝

 いつの間にか私は寝入っていたらしい。

 まどろみの中で、私は声を聞いた気がした。


「……だから君は、朝になると鬼化が進んでいたのか」


 鬼……?

 鬼って何のこと……


「これで安らかに眠れるならその方がいいけど……僕は女の子の扱いがわからないんだよ」


 この声……昴さん……だよね……?

 何言ってるんだろう……

 気になるけど、身体が重くて動かない。


「おやすみ」


 そんな声が聞こえて、私はそのまま眠りにおちていった。

 目が覚めて、私は辺りを見回す。

 確かに声を聞いたんだけど……何だったんだろうか。

 昴さんが同じ部屋にいたからか、それとも別の理由かわからないけれど、落ち着いて眠れたみたいで、顔を出し始めた太陽が、室内を明るく照らし出している。

 ベッドから身体を起こして床を見ると、昴さんはまだ眠っているようだった。規則正しい寝息が聞こえてくる。

 よかった……私だけが寝ていたらどうしようかと思った。

 昴さん……何か私に言っていた気がするけど何だったんだろう……?

 聞けそうならあとで聞いてみよう。

 これだけ明るいってことはもう皆起きているだろうな。

 もう少し早く起きたかったんだけどな。

 私にはすることがあるんだから。

 昴さんを起こさないようベッドから這い出て、服を着替える。

 途中で起きたらどうしようかと思ったけど、幸いそんなことはなかった。

 そっと、足音をたてないように歩いて扉へと向かい慎重に扉を開けると、ばたばたと雑巾がけをするぼたんちゃんと目があった。


「あ、おはよう、かなめさん!」


「え、あ、おはよう」


 元気のいい挨拶に、私は慌てて部屋から出て扉を閉めた。

 ぼたんちゃんは立ち上がると、好奇心の強い目を私に向けて言った。


「ねえ、聞いて聞いて! 昴様がね、私達が起きるよりずっと早くお帰りになったらしいの! でも書斎にはいないらしいし、寝室にもいないみたいなの」


 と言い、首を傾げる。

 ていうことは、普段、ぼたんちゃんたちが起きてしばらくしてから昴さんは帰ってきてるのか。

 私よりぼたんちゃんたちのほうが早く起きてるってことよね……もう少し早く起きるようにしないとな。

 皆、何時に起きてるんだろう?

 その時、背後で扉が開く音がした。


「僕だって家で寝ることくらいあるよ」


 そんな寝ぼけた声が聞こえてくる。


「あ! 昴様おはようございます!」


 そう元気よく言って、ぼたんちゃんは昴さんに抱きついた。


「ああ、おはよう、ぼたん」


 そう答えて、昴さんはぼたんちゃんの頭を撫でる。

 嬉しそうな顔になったぼたんちゃんは、はっとした顔になったかと思うと昴さんから離れ、私と昴さんの顔を交互に見た。

 そして、目を大きく見開いたかと思うとばっと振り返り、廊下を走り出した。


「めいこちゃーん! 美津子おねえちゃーん! 昴様がー!」


 と、大声で叫んでる。

 ……な、何だろうあれ。

 戸惑っていると、背後からため息交じりの声が聞こえた。


「……女の子はほんと、扱い方がわからないんだ……」


「え、あ……それってどういう……」


 不思議に思い、私は昴さんの方を振り返り顔を見た。

 女の子の扱いがわからないのに、なんでぼたんちゃんとめいこちゃんを引き取ったんだろう……?

 眠そうな顔をした昴さんは首を横に振り、


「何でもないよ。たぶん、とし子が注意するだろうから。僕も怒られるかもだけど」


 と言って、小さくため息をついた。

 怒られるっていったい何を怒られるんだろう……?

 昴さんは、私の方をじっと見つめて言った。


「今日は、大丈夫みたいだね」


「え、あ、な、何がですか……?」


「……とりあえず眠れたならよかったよ」


「あ、はい。あの……今日はちゃんと眠れました。昴さん……は……?」


 遠慮がちに尋ねると、彼は私から視線をそらして、小さく言った。


「久しぶりに家で眠れたよ」


「そ、それならよかったです」


 微笑み答えると、昴さんは首を横に振り、


「顔を洗ってくる」


 と言って、廊下を行ってしまった。

 ……どうしたんだろう。あれ。

 戸惑いつつ台所へ向かおうとすると、廊下で美津子さんに出会った。

 彼女は笑顔でこちらに近付き言った。


「おはよう、かなめさん」


「おはようございます」


「ごめんね、ぼたんが騒いで」


 と言い、彼女は苦笑する。


「声上げて廊下を走っていきましたけど……何だったんですか?」


「ああ、貴方の部屋から昴様が出てきて、それで興奮したみたい。『ふたりがけっこんするー!』て騒いでた」


 けっこん……

 けっこんて……結婚……?

 私は顔が赤くなるのを感じながら、必死で首を横に振った。


「そ、そ、そ、そんなことないです! ありえないですそんな……」


「まだ子供だから……いっしょに寝てたから結婚するって思ったのかも」


 そ、そうか……

 そこまで考えてなかった。

 昴さん、男だもんね。

 利一さんが部屋に入ってきたのはすごく嫌だったのに、なんで昴さんのことは大丈夫だったんだろう……?

 異性って意識してないからかもしれない。


「そ、そんな関係じゃないです……ただ、ひとりで眠れなくて、それで私がお願いしてその……」


 言いながら、変な汗が流れてくる。


「わかってるわよ。昴様、奥手っていうか女性に手を出せる人じゃないから」


 そ、そうなんだ……

 そういえば遊郭でも寝てるだけって言ってたっけ。

 華族なら縁談とかありそうだけど、女の子の扱いがわからないって何度も聞いてるから……そういうの、断ってそうだな。

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