8話 体育祭 4
テントに戻る途中、右京は疑問に思ったことを、前を歩いていた陽色に聞いてみる事にした。
「なあ柊、お前が欲しがってたお題とやらは何だったんだ?」
すると、陽色は顔を赤くしながら振り返って、
「絶対に教えません!」
と叫んだ。
右京には、何で陽色が恥ずかしがっているのか分からなかった。
テントに戻ると、漣達が話しかけてきた。
「右京、目立ってたな!」
「コイツ、ウザい」
「何故にカタコト!?」
右京は、揶揄われている様な気がしたから、適当に返すことにした。
「まあまあ、この競技で終わりなんだったよね?」
「確か……」
「じゃあ、戻るか」
右京達がそう話していると、陽色が、
「あ、待ってください」
と言った。
歩き出していた右京たちは陽色の声を聞いて、振り返った。
「何かあるの?」
と清那が尋ねると、
「はい、日奈ちゃん……友達がこの後の組で、借り物競走に出るので……その、見て行きたいな〜と思いまして……」
と申し訳無さそうに、人差し指を突き合わせながら、陽色は言った。
「じゃあ、見て行こうぜ。どうせ早めに戻っても暇だし」
と言ったのは右京だった。そっぽを向いていたが、陽色の為を思って言ったのは、この場の皆が分かっていた。
「陽色ちゃんの友達も大事だからね」
「先に言わないとな、そうゆうのは」
「え、誰? 見てみたい!」
概ね、同意の意を示し、その場に残って観戦することとなった。
次の組が、スタートラインに並び出した。
「ねぇ、どの子?」
と漣が聞いた。
「あ、今並んでる子です。1番手前の」
「あ〜、あの子か……」
「何かしっかりしてそうだね」
陽色が、教えた女子を見て、中々に失礼なことだが、感想を述べる。
そんなことをしながら、見守っていると、辺りを見回した後で、こちらへ走ってくる。
「あれ? こっちに来たけど……」
「デジャヴかな?」
と話したのは、漣と清那だ。
コイツラいい加減にしろよ、と右京が思っていると、いつの間にか日奈が近くまで来ていた。
「えっ……? 何か陽色、スゴイ人たちの所にいるじゃん。入りにくい……」
と戸惑った様子で日奈は、陽色に話しかける。
「日奈ちゃん……とにかく、お題は? 何だったの?」
少し呆れた様子で陽色が問いかけると、
「親友!」
と日奈は元気よく返しながら、お題の紙をこちらに見せる。
「え? 誰? 日奈ちゃん、いつの間にここの人たちと仲良くなったの?」
「陽色ちゃん、違うよ、それは……間違いなく陽色ちゃんのことだと思うよ」
「えっ……! そうなの!?」
日奈の回答に首を傾げる陽色に、そっと教えたのは、天翼だった。その指摘に陽色は驚いたように、身を反らす。
「うん……だって、アンタぐらいしか思い浮かばなかった……」
「そ、そっか……ありがと!」
陽色の反応を見て、日奈は少し恥ずかしそうな顔をした。陽色もそれにつられて、顔が赤くなったが、笑顔で返した。
そんな会話をしたあと、2人で手を繋いで走っていった。
「仲、良さそうだね」
「いいね、あんな友達欲しいわ……」
「陽色ちゃんが楽しければ、いいんじゃない」
と日奈と陽色が走っていく後ろ姿を見ながら、漣、清那、天翼は話していた。
(あいつ、こっちによく来てたからあんまり知らなかったけど、友達いたんだな……)
とこの中で1番酷い考え方をしていたのは、右京だった。
もちろん、そう思ってしまうのも仕方ない位に陽色は、右京たちに会いに来ていた。
昼休み、放課後は常にいたし、そもそもこちらから陽色の方に行くことも無かったため、あまり知らなかった。
(あんな顔もするんだな……)
と右京は1人思ったのだった。
そんなこんなで、陽色と日奈は3位という微妙な順位で終わった。
「もっと早く行けた人が、いたんだね……」
「ちょっと話しちゃったせいかな」
「微妙だな」
「それ、言っちゃダメなやつね」
と4人が話していると、日奈と陽色が右京たちのいるところに戻ってきた。
「お疲れー」
「お疲れ様」
と2人に漣と清那が声をかけた。
「特に何もしてないですけどね」
とそれに陽色は、苦笑で返した。
「んじゃ、校舎に戻って、昼飯でも食うか」
「良かったら日奈さんも一緒に食べない? 最近、陽色ちゃんと食べてなかっただろうし……」
右京が皆に呼びかけると、天翼が日奈を昼食に誘っていた。
「え……? う〜ん、じゃあ、お願いします?」
「うん、それじゃ一緒に食べようか」
日奈は、何と返したら良いか分からなかったのか、語尾が上がったが、天翼は笑って返した。
そうして、体育祭の午前の部は終了したのだった。
仲間(日奈)が1人増えました。
いつの間にか、ブックマークが1個ついている……! ありがたや。






