7話 体育祭 3
「そういや、天翼と清那はいつあんの? 競技」
と右京は思い出したかのように聞く。
「ん? え〜っと、僕は昼の休憩終わってすぐかな」
「私は天翼のすぐ後」
右京の問いかけに天翼と清那はすぐに返した。しっかりと自分の競技を覚えていたようだ。
「ほう、つまり清那の女子のファンが増えるまであと5時間ぐらいなのか……楽しみだな」
「あ? 殺すぞ」
右京が楽しそうな顔で言うと、清那が冷徹な目で右京を見る。
「何でだよ。モテるのは良いことじゃないか」
「お前が言うな! お前もモテないようにするために、100メートル走、めっちゃ手ぇ抜いただろ! そんな男に言われたくない!」
ニヤニヤとした顔で煽る右京に、キレながらもしっかりと突っ込んでいる清那だった。
ただし、あまり右京には効いていなかった。
「じゃあお前も体験してみるか? この地獄を。エグいぞ? 全く知らないやつから告られる俺の気持ちは」
「はい、申し訳ございませんでした。諦めて女子からモテときます。彼氏が遠ざかる……」
急に真顔になって淡々と言い返す右京に、鬼気迫るものを感じたのか、清那は素直に謝って遠い目をした。
彼氏が出来ないのがそんなに嫌らしい。
そんな清那を天翼は、じっと見ていた。
という様子を漣が見ていた。
(おっと……? ちょっとは進展するのか?)
漣は、全体を見て、中々楽しそうにしていた。
そんな風に話していると、
『1年女子、借り物競走1組目、スタートです』
と実行委員会のアナウンスが、かかった。
「あれ? そういえば、陽色ちゃんが出るんじゃないの、借り物競走って」
「お、そうだったな! 面白いこと起こんねぇかな……」
「何だよ、面白いことって」
「いや、そうまぁ、ラブコメでありがちなやつ」
アナウンスを聞いた天翼が思い出したように言うと、漣が何やら楽しそうな顔をしている。右京には何故そんな顔をしているのか分からなかった。
というか、ラブコメでありがちなやつという言葉で頭がいっぱいだった。ラブコメで起きそうなことが全く分からなかった。
「陽色ちゃんは……2組目だね」
「お、ホントだ。楽しみだな〜」
「さて、どうなることやら」
「え、何が? え?」
天翼は慣れてるのか、混乱している右京をスルーして、清那と漣は楽しそうにしている。
一方、2組目に並んでいる陽色はというと、
(できれば、お題はあれがいいなぁ)
とポワポワしていた。
「ちょっ、陽色? 何ボーっとしてんの! ほら、次始まるよ」
と陽色を呼ぶ声がした。
「ん〜? あっ、日奈ちゃん! おんなじ競技だったんだね〜」
陽色は、見知った相手だったのか、気軽に返す。
すると、相手は
「ほら、もうあんたの組並んでるよ! 急げ!」
「は〜い」
陽色を急かしたが、陽色はゆっくりとした足取りで向かった。なんだか、バランスが取れた2人だった。
「それじゃ、位置について、よ〜い、どん!」
と係りの生徒が口で合図を出す。本格的なのは、ガチの競技だけのようだった。
(あぁ、大丈夫かなぁ? 陽色、ボーっとしてるから……)
と心配そうに見つめる後ろから日奈だった。
そんなことは全く知らない陽色は、走って封筒を取る。中の紙には、〈イケメンな人〉と書いてあった。
少し陽色は肩を落として、すぐに前を向き、右京を探し始めた。
それを見ていた右京たちは、
「あれ? なんか陽色ちゃん、しょげてない?」
「思ってたお題と違ったか……ちっ!」
「くっそ! ざ〜んねん」
「今、舌打ちしたよな。なんだお前ら」
それぞれの反応をしていたが、残念がる清那と漣に、少々怪訝な目を向ける右京が対照的だった。
「あっ! こっち見た。あれ? なんかこっち来るよ」
その間もずっと陽色を見ていた天翼は、右京たちに知らせる。
「え〜、借り物こっちにあんのかな?」
「じゃ、右京持ってけ」
「もう何なんだ、お前ら」
漣と清那の気持ちは一緒だった。2人に呆れた様子を右京は隠さなかった。
陽色が右京たちのところまで来ると、
「右京くん、ちょっと!」
「「よっしゃー!」」
と言ったのを聞いて、漣と清那がガッツポーズと共に叫んだ。
「うるさ……で? お題は?」
耳を押さえて、半目で2人を睨みながら右京が尋ねると、
「秘密です」
「てことは……?」
「違いました」
「「あぁ〜……」」
陽色は答えなかったが、清那が試しに聞いてみると違ったようで、2人で肩を落としていた。
「どっちにしても、お題は右京くんなので、早くしてください」
「はいはい……分かったよ」
陽色が急かすと、右京も腰を上げて一緒に走り出した。
「でも、結局何だったんだろう? お題……」
「「さぁ?」」
天翼が呟くと、2人は肩をすくめた。
走っていった2人はというと、
「で、お題は?」
「秘密ですって言いましたよね」
「気になるじゃん」
「だめです。どうせゴールしたら発表があるんですから、それまでの辛抱です」
「分かったよ……」
再度聞いてきた右京に、人差し指を唇に当てて返し、もう1回返したときには、頬を膨らましていた。
それを見て、渋々了解しながら、なんか小動物っぽいな……と思った右京だった。
そして、そのまま2人はゴールした。どうやら1番だったらしい。すぐにマイクを持った生徒が来て、
「お題を、教えてもらうんで、それを今から発表します」
と伝えてきた。その後すぐに、マイクを持って、
『さあ、1番最初にゴールした人のお題は……』
と言って、一旦切る。陽色もその時に、持っていた紙を広げて生徒に見せる。その生徒は頷いて、
『〈イケメンな人〉!でした。う〜ん、これは文句のつけようがないですね。それでは、1位でゴールです』
と言い切った。これで終わりのようだった。
「それじゃ、もう自分のテントに戻ってもらっても良いですよ」
と言われ、陽色と右京は2人で戻っていった。
なんか漣から言われそうだな……と空を見上げる右京だった。