6話 体育祭 2
男子100メートル走の一組目が始まった。
右京は四組目で、漣が五組目だ。
この体育祭での100メートルレーンは、トラックを斜めに横切るように白線で書かれている。
要するに、非常に目立つ。
右京は、それがたまらなく嫌だった。
いつも目立ってるのに、これ以上目立ちたくない。そして、これ以上告白されたくない。相手をフるのも中々精神に来る。
右京はあの反応で、意外と優しい性格をしているため、多少は心が痛む。あぁ、今からだと思うと、胃が痛い……とか思ってると、もう自分の組だった。
後ろの漣が、
「まあ、テキトーにガンバれ」
と言ってくる。
「おう、テキトーだ」
と一応返しておく。
「オン・ユア・マークス」
係りの生徒が掛け声をする。
組の男子がクラウチングスタートの姿勢になる。
「セット」
の合図で腰を上げる。
ピストルの乾いた音が鳴り、一斉に走り出していく。
もちろん右京は1番最後からだ。
みんなは、必死に走っているが、右京は涼しい顔で、
(え〜っと、今俺が6番か……じゃあ、あと3人抜くか)
と考えていた。
正直に言おう。これは、真面目に走っている皆にとても失礼なことをしている。これを見た皆さんは、しっかりと走りましょう。
メタいことは置いておこう。
現在、右京は6番。最下位だ。半分の50メートルを過ぎたところで、周りのみんなは疲れてきた様で、スピードが落ちる。
だが、逆に右京はスピードを上げて、一気に3人を抜いた。
そこで周りを見て、
(よし、ここでうまいこと終わらせる)
と笑顔で頷く。
それを見た女子生徒が、
「え、何あれ? めっちゃ可愛いんだが?!」
「あぁ、死ぬ……」
「きゃああぁ」
と黄色い歓声と同時に倒れる人が続出した。
それを聞いた漣は、なんとなく右京がやったことが分かった。
(あ〜……あいつどうせ、3人抜いて目的達したから、気い抜いて笑ったりしたんだろ。バカだなぁ……自分の顔の良さ分かってねぇんだよな……)
逆にそれがモテる原因になってんだよ……と思った、漣だった。
そんなことを露も知らずに、右京はそのままゴールした。
(よし! 目的、完っ遂! 多分、大丈夫だよな……歓声上がってたけど、俺じゃないはず!)
右京は、自分は目立ってないと思い込む事にした。
「次は漣か……ま、ここで待機してりゃ来るだろ」
と言って、右京はゴール地点で待つことにした。
そうやって待っていると、すぐに漣たちの組がスタートした。
漣はスタートから先頭に出る。異様にタイミングバッチリなスタートだっと。そして、全力で走る漣に誰も追い付けず、そのままゴールした。
「流石、元本職! レベルが違うな」
右京は漣を眺めながら、呟いた。右京の時ほどではないが、多少は歓声も上がった。
どこぞの王子様のせいで霞みがちだが、漣もかなり顔は良いのである。ただ、王子様の方が圧倒的な人気であった。
ゴールした後、漣は辺りを見回して右京を見つけると、そちらに小走りで向かった。
「すまんな、俺のせいで。助かった」
「おう!」
右京は謝りながら拳を突き出し、漣もそれに応えて拳を軽く打ち付ける。
「にしても、本職はやっぱり違うな。スタートから違うわ」
「だろ?」
右京が漣に笑いかけると、漣も笑い返す。そのまま、自分たちのテントへと戻っていった。
ちなみに、その間も女子からの視線は止まなかった。
テントに戻ると、
「右京、やらかしたね」
「手ぇ抜いたでしょ! あんたそんなに遅くないじゃん!」
と天翼と清那に突っ込まれた。右京が手を抜いたことが分かったらしい。
「バレたか……って、俺はやらかしてねぇぞ!」
「いや、お前結構やらかしたぞ……」
「えっ……? 具体的には?」
漣は肩をすくめながら言ったが、個人的には、やらかした記憶など無かった。
「お前、3位になったところで笑ったろ、安心して」
「何故それを?!」
漣は呆れたように笑いながら、指摘する。だが、右京には何故それが分かるのか、分からなかった。
「それ見て女子の歓声が上がってんだよ……」
「え、あれ俺だったの?」
「そう……」
やっぱり分かってなかったとでも思っているのが、手に取るように分かる。漣は目を手で覆い、天を仰いでいる。右京はと言えば、やはり分かっておらず、驚いている。
「いや、普通さ、あれぐらいであんな反応する?」
「お前、いっぺん鏡見ろ」
「右京は、顔が普通じゃないから」
清那と天翼が同じように見えた呆れた笑いで言う。
「ま、どうでもいいわ。今に清那も同じ様になる」
「やめてくれ!」
考えるのが面倒くさくなった右京は、清那に諦めた様に言うと、清那は頭を抱えて叫んだ。