49話 研修旅行二日目 青年の家でのレクリエーション 3
陽色は訝しげに右京の顔を見た後、先程のチェックポイントの先生を見る。
中年――――失礼、まだ三十路といったところだろうか――――の女教師は、人当たりがよく、割合生徒たちからの人気は高かった。
そんな先生が彼に触れると、彼は恐ろしげな事が起こったかのような顔をする。
違和感を覚えなくもない。だが、触れてはいけない。
陽色はそんな気がして、取り敢えずの笑顔をその顔に貼り付けたのだった。
「次、どこですか?」
「あぁ……近いところと遠いところ、どっち行くか?」
「遠いところから行ったほうが、後は帰り道で楽そうじゃないですか?」
「確かに。そうするか」
陽色の提案に、右京は頷いて返した。
他の四人にも伝えておこうと、二人が振り返ると、いつの間にか後ろにいたはずの人影が消えていた。
「え?」「あれ?」
二人は思わず同時に驚きの声を上げる。
そして、顔を見合わせてお互いの目を見た。
「いや……さっきまでいたよな」
「はい……」
右京からの問い掛けに陽色は頷く。
やや困惑気味の表情で、目は忙しなく辺りを窺っていた。
――遡るは数分前。
先生がいた最初のチェックポイントから百メートルも離れていない地点。
そこには川が流れており、橋が架かっていた。
適当に考え事をしながら歩いていた右京と陽色は気付かなかったが、清那がいち早く気付いた。
「あ、あっち涼しそう!」
「え? 清那ちゃん?!」
散歩中の犬の如く勢いで方向転換した清那に、天翼はリードを引っ張られる飼い主の様にその後を付いていった。
漣はそんな二人を顰め顔で見送った。
すると、何か思い付いたような顔をして、日奈を見た。
「ねぇ、日奈ちゃん。右京としゃべりたい? 諸々のこと込みで」
「……あっちがまともに話せるのなら」
「そう、じゃあちょっと消えよっか」
「へ? あ、ちょっと?!」
漣は日奈の覚悟が決まった顔を見ると、すぐに腕を引っ張って別の道へと進んで行った。
こうして、四人は消えたのだった。
さて、その後の漣の行動と言えば――――
『(漣だぁぁぁぁ!!) ちょっと右京と陽色ちゃん二人にしてやりたいから、協力よろ』
『(つばさ) わかったよ。遂にこっちも動き出すのね』
『(漣だぁぁぁぁ!!) そういうこと』
というように、天翼に連絡して協力を仰ぎ、
「日奈ちゃん、陽色ちゃんについてどこまで知ってる? 特にあの子の家について」
「え……? あの子の家、確かに豪邸だけど……」
「あぁ、そういうことね。分かった。とにかく、俺も話を聞きたいんだよ、陽色ちゃんから。これはギブアンドテイクだ」
「まぁいいわ。ノッてあげる」
日奈との共同戦線を張ることとなったようだった。
そして、漣の携帯に着信が来た。画面を見れば右京からだった。
「もしも〜し! お前らどこ行ってんだよ?!」
『お前が言うのか……』
漣の元気の良い応答に、呆れた顔が目に浮かぶ右京の返事が返ってきた。
そんな声に、思わず漣は込み上げそうになった笑いを押し留める。こんなところで笑ってしまえば、ひとしきり右京から説教を受けることになってしまいそうだ。
「どうする? そっちに清那は……」
『いねぇよ。なんか消えてるんだよな……』
「オッケ。じゃあとりあえずお前らは次のチェックポイントに向かって」
『地図、そっち持ってないだろ』
「写真、写真」
『あぁ……分かった。俺たちは一番遠くから回るからな?』
「りょうか〜い!」
漣はそう言って通話を切った。
右京はもう電話をかけたくないだろうと思い、天翼に漣は電話をかける。
「もしもし、天翼?」
『あ〜、漣。何?』
「多分右京からグループチャットに地図の写真が送られてくっから。一番遠いところから回ってくらしい」
『あぁ、そういうことね。わかったよ。とにかく、僕はこの清那ちゃんをなんとか制御するよ
(制御ってなんだ! 私は機械でも、暴れ馬でもないぞ!)
あ〜はいはい』
「じゃ頑張れよ〜」
漣は僅かに聞こえてきた清那の大声に笑いながら通話を切った。
それが少し聞こえてきていたのか、日奈も苦笑いを浮かべている。
「清那ちゃんは元気ね……」
「自然がいっぱいで喜んでんだよ。野生児だから」
「想像がついてしまうのが可哀想なところね……」
漣からの返答に、すぐそこの木を見上げながら捨てられた子犬を見るような目をしていた。
漣はそんな日奈を見て、この人も大概辛辣だよなと思った。
(自分がまとも枠とか思ってる人ほど、ヤバいって印象が否めないよな〜……)
そんな風に失礼なことを漣は思っていた。
レクリエーションは早速、三組に分かれてしまった。
ここからどう転がっていくのか……。それは首謀者の漣次第とも、天然の右京・陽色ペア次第とも言えた。




