46話 研修旅行二日目 青年の家でのレクリエーション グループ決め
何やら柳田がマイクを持って、壇上に立った。手には書類を持っている。
『え〜、それじゃ今日やることについて説明すっぞ。今日やる事は、青年の家とその周りの自然と山を有効活用したレクリエーションだ。レクリエーションつっても、要はチェックポイントを回って、ハンコを押して貰う。チェックポイントには、先生がいる。ちなみに、チェックポイントの数は教えないぞ。全部回れたグループにはご褒美をやろう。
はい、じゃあ5分以内にグループ組めー。何人でも良いぞ』
柳田のやる気の無さそうなこの声で、生徒たちは動き始めた。これまで何故この日程を説明されていなかったのか、甚だ不思議に思いながら右京は隣の陽色を見た。
「で、グループどうする?」
「どうしましょう」
右京の質問に、陽色は首を捻って返した。
すると、漣が右京の肩を叩いた。
「別にわざわざ考える必要もねぇだろ。いつもの人で良くね?」
「まぁそれもそうだが……」
漣の言葉に、右京は控えめに同意を示した。その横でほんの少し安堵の息を吐いた陽色だった。
しかし、中にはそう思ってもいない人がいるようで、右京達に近づく者もいた。
「ねぇ氏王くん」
「…………誰だ」
話し掛けてきたのは女子で、人好きのしそうな笑みを浮かべている。右京は顔を顰めてそちらを見る。
女子は少したじろいだかのように思われたが、すぐに笑顔に戻すと続ける。
「いや、あの〜…………氏王くんもわたしたちのグループに入らないかなって」
「断る。何でわざわざ俺を誘う」
「いや、えっと……」
「そもそも俺は他の奴らと組むつもりは無いから、じゃあな」
女子が右京からの鋭い質問に言い淀んだ隙を見逃さず、右京は会話を離脱した。
漣がすかさずこの女子との対話に入った。
「いやごめんね。右京は女の子が嫌いだから。君達、多分女の子だけでしょ?」
「ま、まぁ……」
「じゃあダメだよ。右京は絶対におんなじグループにならない。それに君達さぁ、下心は隠した方がいいよ?」
「っっ!」
「それじゃあね」
漣はそれだけ言うと、手を振ってその場を離れた。女子はその場に取り残され、唖然としていた。
陽色は漣の背中をゆっくりと追った。その目は少し伏せられているようだった。
漣は振り向いて陽色の顔を見た。
「あれ? どしたの陽色ちゃん?」
「いえ……ただ、私も下心ありきで近付いたので、それを前提にして遠ざけられている人を見てしまうと……」
「罪悪感がある?」
「…………はい」
漣が陽色の顔を覗き込んで尋ねると、陽色は頷いた。
珍しくしおらしい反応に、漣はぷっと吹き出す。漣のその顔を陽色はギョッと睨み付け、それがまた漣の笑いを誘っていた。
「な、なんですか!」
「いやそれ、陽色ちゃんが今更言うかと思って……あぁ面白い」
「え、えぇ……?」
漣の笑いが一段落して息を吐くと、陽色は困惑したように目を回していた。
そんな陽色に、漣は笑顔で向き直る。
「いやだってね? 陽色ちゃんは最初に右京に告白して自分の気持ちを表してから近付いてる。何回も拒絶されたけど諦めずにね。でもアイツラは違う。気持ちを隠して密かに接点を持とうとしてる。誠実さが無いんだ。それに、陽色ちゃんみたいにしっかりと右京のことが好きじゃないんだ。俺はそういう巫山戯た人種が一番嫌いだ」
漣の表情は終始笑顔のままだったが、陽色には何処か恐ろしいものに思えた。そんな人に認められてほっとしたらいいのか、残念に思えばいいのか、陽色には判断出来なかった。
陽色が数秒後に漣を見ても、その凄みは消え去っていた。
「陽色ちゃん? 行かないと右京に置いてかれるよ」
「あ、はい!」
漣が右京の背中を指差すと、陽色は我に返り足を速めた。
既に右京の周りには、天翼、清那、日奈が集まっていた。いつの間にか漂磨、慶軌、湧誠は消えており、どこか別のグループに入るようだった。
「漣、どこ行ってたんだ?」
「お前の為のフォロー」
「は?」
右京が漣の方を向いて尋ねると、漣は茶化して返した。事実ではあるが、右京には伝わらず、訝しげな顔をされた。
清那と天翼は何となく事情を察したのか、苦笑顔だった。陽色は日奈に抱き着いていた。
「ちょ、陽色?! どうしたの?」
「いや別に……」
不思議がる日奈に、陽色は曖昧に答えた。
「ねぇ、私って卑怯かな?」
「いえ、あなたは真っ直ぐ過ぎるわ。もう少し捻くれても良いくらい」
「そっか」
陽色の質問に、日奈は速攻で首を振って否定した。陽色はあまりに早い返答に目を丸くすると、微笑んで頷いた。
「急になに?」
「べっつにぃ〜!」
日奈がまた陽色をジト目で見ると、陽色は笑って誤魔化した。
右京はそんな陽色を眺める。
「なんかあったか?」
「うんにゃ、自分で解決したよ」
「そうか」
右京が隣の漣にそう尋ねるが、漣は詳しく答えなかった。右京はその答えに、ただ頷くだけだった。
そんな様子の親友を見て、漣は心の中で笑う。
(全く……懐に入れた人にはとことん甘いんだから。優し過ぎるのも良くないんだぞ)
漣がそう思っても右京には伝わらない。
右京は変わらず、少しの憂いが残った眼差しで陽色を眺めた。




