45話 研修旅行二日目 2
朝食を食べ終わると、いつの間にか清那と陽色、日奈まで合流して、一団になってしまっていた。
陽色は何故か頬を膨らませて、右京のジャージを掴んでいた。右京は困ったように眉を下げて、それを見守る。
ちなみに、日奈の表情はと言うと、思いっ切り顔を顰めていた。それはもう、眉間に皺を寄せに寄せて、そのまま固まって元に戻らないのではないかと言うほどに。
ガッツリ近付いている二人に疑問を抱いた漣は、素直に尋ねてみた。
「ていうかさ、右京っていつの間に陽色ちゃんとの接触をそんなに許したの?」
漣は頭の後ろに手を組んで、何となく聞いてみた様子を装った。実はこの研修旅行の間に聞き出そうかと考えていたことだった。
ぶっちゃけたところ、漣は夏休みが始まって以降、右京とはバイトがある日に起こしに行く時にしか会っていない。
だからこそ、そこまで引っ付いているところを見てはいない。何となく予想と、現状をみた上での質問だった。
「あ、それ私も気になってた! 別に右京はさ、陽色ちゃんがくっついても何も言わないよね!」
「はっ! 確かに!」
清那が漣に同意する様に、漣を指差した。陽色はその言葉で初めて気付いたようで、目を丸くしていた。
右京は面倒臭そうに、目を細めた。
正直に言うと、右京自身でもよく分かっていなかった。何となく自分が陽色に心を許したことは分かったが、ここまで接触を許している気は無かった。
寧ろ、側に置くことが出来て、少しの嬉しさを覚えていた。ただ、この嬉しさを認めたくは無かった。
だから、何と言えばいいのか全く分からなかったのだった。
「あ〜……分からん」
「そうかい……」
右京がぼーっと外を見ながらそう答えるのに、漣は呆れた笑いで返した。
(やっぱり、分からねぇんだな。いや、まぁ人の気持ちなんざ、他人にゃ分からんもんだから俺も分からねぇけど。自分の気持ぐらいは分かってもらいたいところだな)
漣はふぅ、と溜息を吐いた。
この二人を進展させる為の助けは必要なのかどうか、分からなくなってしまった。ただ、分かることは、右京の方に問題が沢山あるということだった。
漣は仕切りなおす様に、右京を向いて尋ねる。
「体育館に行かなきゃいけないんだっけ?」
「確かそうだろ。なんかやるって言ってたな」
漣の尋ねに、右京は上を向きながら答えた。
そんな二人に、呆れた様な声が掛けられた。
「アンタ達さぁ……流石に日程を理解しなさ過ぎじゃない?」
「しおりとか配られたでしょ?」
「「あ〜……」」
右京と漣は、清那のジト目と天翼の諦められた表情に、そっぽを向くことしか出来なかった。
ぐうの音も出ないとは、正にこのことだった。
日奈からは溜息が飛び出た。
「はぁー………なんていうか、中学の時とかはどうやってたのかしら?」
日奈の呆れ切った雰囲気の声は、右京と漣の胸を正確に貫いた。
二人は顔を伏せることしか出来なかった。
その隣でニコニコと笑う陽色の姿があった。
「え〜と、なんで陽色ちゃんは笑ってるの?」
「ん〜……可愛いからですよ?」
「あぁ、そう……」
天翼が引き攣り笑いで尋ねると、陽色からは満面の笑みで返された。視線を逸らすことしか出来ない天翼だった。
そんな六人を見守る、漂磨、慶軌、湧誠は、何とも言えない微妙な表情をしていた。
「なぁ、こいつらがよく分からないの、俺だけ?」
「安心しろ漂磨。俺もだ」
「なんというか……キャラが濃いんだよな、多分。個性が強いというか……」
漂磨が尋ねるのを、慶軌はサムズアップして笑い、湧誠は顎に手を当てて首を捻っていた。
六人の関係が、三人には不思議に思えて仕方ないようだった。
「まぁそりゃそうだ。女嫌いの王子様に、それが大好きで何度フラレてもへこたれない強い女の子、更にその親友の王子様嫌いに、女の子みたいな男に、男みたいな女。これが濃くないはずがない」
「いや、お前も筆頭だからな、チャラ男」
「マジか?!」
湧誠の背後に回っていた漣からそんな言葉が飛び出た。さも自分は普通と言いたげな顔だが、湧誠はそれを否定した。漣はわざとらしく驚いて見せていた。
そんな風に話していると、九人は体育館に着いた。
もう既に半分程は集まっている様だった。
ステージの上では、柳田が動き回っている。何かの準備があるようだ。
右京は服を掴んだままで固まっている陽色に視線を向けた。その顔はもう笑顔に包まれていて、ほんの少しの安堵が右京の心に雫として落ちた。
それは水に入った色水のように、少しずつ広がる。
右京は頭を掻いて、前を向いた。
レクリエーションとやらが、少し楽しみになった。
眠気はいつの間にか晴れた。




