43.5話 凸凹コンビの肝試し
清那は天翼に後ろから抱き着きながら、真っ暗な道を歩く。明かりは月と懐中電灯のみだ。
懐中電灯は天翼が手に持って道を照らしている。
清那は天翼の頭に顎を乗せながら歩いていた。どうにも歩きにくそうで、天翼は思わず尋ねた。
「ねぇ、それ歩きにくいでしょ」
「え? べっつにぃ〜!」
天翼の尋ねる声に、清那は適当に答えた。
そんな清那の様子に勘付き、天翼は再び尋ねる。
「なんかあったでしょ。同室の子にでもなんか言われた?」
天翼の清那の顔を振り仰ぎながら出されたその尋ねに、清那は押し黙った。
天翼はその反応を図星と受け取った。
「そっか……じゃあゆっくり回ろっか。案外、夏の夜の森も面白いかもよ?」
「……うん」
天翼が再び前を向いた歩き出すと、清那はその背中に抱き着きながら頷いた。
清那は小さい背中に甘えてしまっていることが、恥ずかしい様で、嬉しくもあった。
「あのね、同室の子からなんで部活に入らないのか〜って聞かれたんだ」
「…………へ〜」
清那がふと話し出すと、天翼は少し間を置いて相槌を打った。
清那はその間が、自分のことについて考えてくれていることを分かっていた。
天翼はちらっと自分の頭の上の清那の顔を見た。
「それで、清那ちゃんはどうしたいの? 部活、入りたい?」
「いや、良いよ。入りたくはないな……」
「じゃあ入らなくて良いじゃん。」
清那の反応を聞いて、天翼はあっさりと結論付けた。
今度は天翼の視線が清那を向くことはなかった。
「僕はもう、あんな清那ちゃん見たくないからね……」
「私だって、天翼にあんなカッコ悪いの見せたくないよ」
「あれは! 清那ちゃんは悪くないじゃん!」
「私が悪いよ……。責められてもしょうがないの」
「でも!」
「ほ〜ら、今は肝試しに集中するの」
清那は天翼が上を向こうとするのを妨害した。側頭部を両手で掴んで、視線を前に固定する。
清那からは天翼が唇を尖らせるのが見えた。
二人の脳裏に浮かぶのは、中学校三年生の初夏の頃の記憶。甘いなんてものではなく、寧ろ苦い記憶。
清那ですら参ってしまう、そんな昔の話。
それを出来るだけ記憶の再生をスキップすることで、気持ちに影響が出るのを防いだ。
天翼はもろに思い出したのか、苦い表情だった。
そんな天翼にどうしても少し微笑んでしまう清那だった。
辛い時も、楽しい時も、色々なことを共有してくれるのが天翼だった。
同性の友達よりも、遥かに長い時間を共に過ごしている、男――――というよりも性別の感じられない、可愛い友達。
清那にとっては、見ると必ず触りたくなる。愛でたくなる。そんな友達だった。
距離が近いと言われても止める気はなかった。
中学一年生の時に初めて見た時からずっと可愛いと思っていた。あわよくば仲良くなろうとも思っていた。
すると、偶然にも神様がチャンスをくれた。
放課後の教室でいじめに近い現場を目撃した。
それを止めた。
天翼と話す機会を得た。
無理矢理に近付いて、可愛過ぎたから抱き締めた。
その瞬間、言い表せぬ多幸感が溢れたことは覚えている。
それからは、ずっとベッタリしていた。
嫌そうな顔をしてても、結局一緒にいてくれた。
そんな可愛い可愛い友達だった。
最近では、右京や漣とも四六時中一緒にいるせいで、二人でベッタリすることが少ない。
ちょっと寂しくも思っていた。
ここが狙い目と言わんばかりに、清那は天翼に抱き着く。
二人にとって、静寂とは気不味い静寂等ではない。二人が安心してお互いに身を預けている状態だった。
清那は天翼によって鼓動が速まることはない。
天翼は清那にとっての精神安定剤であり、愛でるべきペットに近かった筈だ。
だが、どうしてだか、最近二人でいると落ち着いた雰囲気が落ち着かない。
頭を撫でても、抱き締めても、何処かに視線が行く。
可愛らしい小ぶりの唇に目が行き、あわよくばという考えが頭に浮かぶ。
そんなことは断じて許されないと、清那は頭からその思考を追い出す。
可愛いは正義なのだ。
それを何人たりとも汚すことは許されていないのだ。
清那はそう思った。
(だって、私がそんなことしても、気味悪がられちゃうからね……)
天翼の腰から腹に回された清那の腕に力が籠もった。
天翼はそれに気付いて、頭上を見上げる。
「どうしたの?」
「ん?」
「なんか、苦しそうだけど……」
天翼が心配そうに清那を見つめた。
その言葉に、清那は目を見開いた。
(苦しそうって……)
清那は自分の感情がどうにも分からなくなった。
そして、釈然としないまま、肝試しは終わった。
建物から溢れる明かりは、フィルターが掛かったようにぼやけていた。




