43話 研修旅行 1日目の夜 6
顰めっ面の右京に、漂磨が近寄った。
「なぁなぁ……本当に付き合ってないのか?」
「……付き合ってないぞ」
「本当の本当に?」
「本当の本当だ」
漂磨が右京の顔を覗き込む様にそう尋ねると、右京は否定した。重ねられた疑問も続けて否定する。
「おい、漂磨! もうすぐ俺達の番だから、早くしろよ!」
「あ、わりぃ! じゃあまた後でな、右京」
慶軌の呼ぶ声に、漂磨は返事をするとそちらに行った。隣にいた漣は右京の顔をちらりと見た。
そのニタニタ顔に、右京は少し苛ついた。
「付き合ってんのか?」
「お前…………死にたいなら早く言えよ。今すぐ送ってやるからよ」
「悪かった。話し合いをしよう」
振り上げられた拳に漣は慌てて話し合いを提案する。冷や汗を垂らした漣に、右京は溜息を吐きながら拳を解いた。
「お前な……バカだよな」
「いやいや〜、それほどでも〜」
「やっぱ殺しといた方が良いかもしれん。お前と再会した時の幼馴染の為にもそれが良い」
右京の罵詈雑言に、漣は頭を掻きながら頰を赤くした。右京はノータイムで拳を再度振り上げ直した。目は完全に殺し屋の目だった。
漣は一瞬で顔を戻して、手を高速で横振りする。
「まだ再会すらしてねぇんだからやめろよ! ほんとにな! 俺の初恋を衝撃の潰し方すんな!」
漣の心の叫びに、右京はとりあえず拳を下げた。安堵の息を一つ吐くと、漣は右京に向き直った。
「まぁこんなことはどうでもいいからさ、結局何でお前は腕組んでたの? いつもなら接触はそんなに許さないでしょ」
漣は右京に疑問をぶつけた。
右京は何とも言えない表情をしたかと思えば、唸りながら頭を掻いた。
「う〜ん……何ていうか――――いつの間にかあぁなってって言ったら信じるか?」
「いや、信じない」
「……うん、知ってた」
右京が目を逸らしつつそう言うのを聞いて、漣は首を振った。右京は顔を右手で覆った。
右京は顔を上げて、何とか弁解を試みた。
「いや、でも本当にそうなんだよ! 俺も知らない内にああなってたんだって!」
「いやぁ……流石にそれは無理あるっすよ、右京パイセン」
「くっそがぁ……!」
漣は右京に笑いながら手を振ることでそれを否定した。右京は叫びを上げたが、漣は笑うばかりで何にもならなかった。
右京の背後から、小さめの影が近付いた。影――天翼は不思議そうな顔で漣に尋ねた。
「ん? どうしたの? 漣、楽しそうだね」
「お、天翼。今な……めっちゃ楽しい!」
天翼の言葉に、漣は満面の笑みで答えた。右京から睨み付けられていても気にしない。これが長年の間柄だった。
「あぁ……そう」
客観的に見ていた天翼は引き攣った笑いを浮かべるばかりだった。
話を戻そうと、天翼は再度質問し直す。
「で、結局何があったの?」
「右京が陽色ちゃんと腕組んでた」
「ついに……付き合った?」
「それが違うらしい……」
「あらら……」
「お前等、何がしたいの?」
漣と天翼のテンポの良い会話に、右京は呆れながらジト目で見守った。
右京は矛先を変えるために天翼に視線を向けた。
「俺よりもお前はどうだったんだよ、天翼」
「ん? 普通に清那ちゃんと回っただけだけど……?」
「漣……俺よりもこいつに気回したほうが良いぞ……」
「すまん……俺も今気付いた。ここまでアホとは思わなかった……」
「え? 何なに?! 怖いんだけど!」
右京と漣が頭を抱えるのを見て、困惑気味の天翼。右京と漣を交互に見ては、首を捻っていた。
天翼の背後から、影が天翼に抱き着いた。
「何なに?! 何の話?!」
「うわ、また面倒臭くなるな……」
影こと、清那は天翼の頭に顎を乗っけながら目を輝かせていた。そんな清那に、少し顔を顰めた右京だった。
「え、ひっど〜い!」
清那が右京の言葉に、唇を尖らせながら反論する。
そして、天翼を抱き締める清那に少し気になったことがあり、右京は口を開く。
「てかお前、女子に友達いないのか? いつの間にかこっち来てるけど……」
「え、いるけど? 何で?」
「いや……もう良いや……」
絶妙に要領を得ない回答に、会話を諦めて右京は遠くを見た。
そんな右京に苛ついたのか、清那は仕方なさそうに天翼から手を離した。
「むぅ〜……しょうがないなぁ。同室の子たちの所に戻ってあげるよ!」
「いや、別にそんなことは言ってないけど…………あ、もう行った」
右京の弁解に、耳を向けることなく清那はさっと身を翻した。
その行動に、意味が分からないとでも言いたげに右京は顔を顰めた。
「はぁ……何なんだ。そういえば、漣は誰と行くんだ?」
「え、俺? 行かないけど……」
「「は?!」」
右京が不意に漣にそう聞くと、漣からはあっさりと返された。その言葉に、右京と天翼の二人は驚いて漣を見た。
漣はあっけらかんとして、肩を竦める。
「いや、だってこれ、自由参加だし……。別に無理に行かなくても良いんだぜ?」
「ま、マジか……」
漣から聞く初めての情報に、右京は肩を落とした。
漣はそんな右京の肩を笑って叩く。
「まぁまぁ、陽色ちゃんと仲良く出来たから良かっただろ?」
「その前に俺は腕を組む程の怖さを味わうことも無かったってことだよ」
「あ…………」
右京の下からの睨みつけに、漣は間の抜けた声を上げた。
そうして、なんとか1日目の夜は終了したのだった。
次は天翼と清那の肝試し回です。これは逃せなかった……。




