41話 研修旅行 1日目の夜 4
右京は取り繕った笑みを浮かべていたが、それぐらい陽色は分からない程馬鹿でもなかった。
「右京くん、無理しないでくださいね」
「あぁ、分かってるさ」
陽色の心配そうな表情に、右京は手をひらひらと振って応えた。何も問題ないとでも言いたげな仕草は明らかに何処か変だ。
だが、無理矢理休ませても一生に一度の研修旅行をあまり良い思い出にならないと考え、陽色は右京を尊重した。
「ほい、それじゃあ適当に順番決めて、適当に回ってけ! 目標とかはねぇけど、道沿いにぐるっと回って一周してここに戻って来い! 四百メートルもねぇから!」
柳田の指示を出す声が聞こえた。適当が連呼された様な気もするが、既にそこに関しては誰もツッコまない。そういう人、という共通理解が成されていた。
陽色は右京の服を引っ張った。
「あ、あの……私懐中電灯持ってないんですが……。真っ暗な中とか、歩いていけませんよ!?」
「そ、それに関しては、俺もだ……。暗闇とか、ホントに……」
陽色の怯えた目に、右京も目を逸らしながら頷いた。顔は青白さを増していた。
そんな顔の右京に、陽色は目を見開いた。
「ま、まさか! 右京くんも怖いの苦手なんですか?!」
「い、いや……俺の場合、怖いのは大丈夫なんだけど、暗いのがダメなんだよ」
右京は弁解でもするかの様に、陽色に答えた。顔色からも十分に察する事が出来る程の怯え具合だった。
そして、その傍らに立つ陽色の顔もまた、頬を引き攣らせている、恐怖の表情のそれと同じだった。
「が……、頑張りましょう!」
「あ、あぁ……そうだな」
二人は自分を奮い立たせる様に、ガッツポーズをしたりして元気付けた。
そこから少し離れた地点。
凸凹が目立つ影があった。
それは見慣れた二人――――天翼と清那だった。
「一緒に回ろっか」
「そうだねぇ。それよりも私は、あそこの二人組が気になるな」
「右京と陽色ちゃん?」
「そそ」
天翼の疑問の声に、清那は頷いた。
天翼は夜空を見上げて澄まし顔だ。清那は右京と陽色の二人を見つめてニヤニヤとしている。
「是非とも、これで少しは関係が進んで欲しいですな」
「う〜ん……この二人だったら、二人共怯えまくってそれどころじゃなさそうだけどな」
清那が悪い笑みで言うのを、差し止める様に天翼は水を差す様に現実を告げた。
天翼が事実を言う。
「右京、暗闇苦手だし」
「あ、そうなの?」
「そうだよ」
清那の驚いた様な反応に、天翼はあっさりと頷いた。
天翼は立て続けに陽色の様子を確認して、予想する。
「それに、陽色ちゃんも怖いもの苦手そうだから……諦めた方が良さそうだね」
「うわ〜、マジか!」
「マジマジ」
清那が頭を抱えるのを見て、天翼は笑いながら頷いたのだった。
ただし、自分自身のチャンスであることには気が付かない、絶妙にポンコツな男であった。
更にそれまでを見守る二人がいた。
予想通りの漣と日奈だ。
漣が二人を見つめたままで日奈に問い掛ける。
「良いの? 陽色ちゃんを右京と一緒に行かせて」
「私が止められると思う?」
「こりゃ失礼しました」
日奈がチラッと漣を見て言う言葉に、漣は大仰な礼をした。それに少し苛つきながら、日奈は溜息を吐く。
「正直、もうどっちでも良くなっちゃったのよね。陽色があまりにも氏王くんを好き過ぎるのよ。私がどれだけ言ったって、止まりはしないもの」
日奈はそう言って、肩を竦める。
漣はそれに苦笑するしかなかった。
日奈はぼうっと親友を見つめて話す。
「それに、彼もそこまで悪い人なのではないのかもしれない……」
「お、遂にそこに気が付きましたか」
漣は少し嬉しそうに笑いながら、自分の親友を見た。
彼等にとって、親友は何よりも大事なものだ。
時に、自分よりも優先してしまう程に。
だからこそ、彼等はいつだって親友を思って、時に利害が不一致となる。
しかし、それは本人達が決めるしかないのだ。
どれだけ周りが囃し立てようと、結局のところは本人同士の問題なのであり、何の影響も持たない。
それに日奈は気付いた。
漣ほ既に気付いて、それを考えて動く。
「さて、これからどうしようかしらね」
「どっちでも良いんじゃね? 好きな様に動けば。くっつけようとするも、静観も」
日奈の口から零れた言葉に、漣はポケットに手を突っ込んで空を見上げながら答えた。
真面目に返答する気はないというサインだった。
そんな漣に呆れたと仕草で返した。
「はぁ……そうね。静観が一番楽だわ」
「そう言うと思ったさ。ようこそ、ROM専の世界へ」
漣は両手を広げて、にこやかにそう言った。
日奈は溜息を吐いてこう思った。
(私、毎回この人と話す時、溜息吐いてるわ……)




