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王子様男子と恋する乙女の恋愛譚  作者: シト
1年生、夏休み
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39話 研修旅行 1日目の夜 2

  そして、湧誠と右京の二人は部屋へと戻った。

 ドアを開ければ、四人はババ抜きをしていた。


「え……? 俺達、5分も話してないよな?」

「あ、あぁ……。早すぎるだろ、遊ぶまで」


 湧誠の確認を求める様な声音に、右京は同意しながら、スマホの時間と目の前の光景との間を視線で行ったり来たりさせた。


「お、やっと帰ってきた! 早くやろうぜ!」

「四人でババ抜きは人が少な過ぎるわ」

「早く入ってくれぇ! ババを持ってるのは嫌だ!」

「西村くんが持ってきててね」


 漣、慶軌、漂磨、天翼の順で発言したが、尤もらしい解答としては天翼しかしていなかった。

 それ以外はただのババ抜きへの勧誘だった。一人だけ泣き言が混じっているが。

 いや、もう既に涙目ではあった。


「いや、漂磨が持ってきてお前が負けかけてんのおかしいだろ」

「西村、ババ抜き弱そうだな……」

「氏王! お前、覚えとけよ! お前がババ抜きに参加したあかつきには、ボッコボコにしてやるからな!」


 湧誠が呆れつつ円陣を組んで座っている所に混ざると、右京もそれに続いた。右京の言葉に、漂磨は反応してわざわざ膝立ちまでして右京を指差し、ガンを垂れたのだった。

 思わず笑いを交えながら、西村を見る右京だった。


「でw、出来ればなww」

「お、お前な!」


 どうしても声に笑いが滲んでしまう右京に、漂磨は怒ろうとしたがその表情は崩れ、一緒に笑ってしまった。

 右京は一応謝罪を入れておこうと、必死で笑いを抑えた。


「い、いや……悪い。流石に面白かった」

「笑う要素無かったよな!」

「漂磨……存分にあったぞ」

「テスト200番以下のお前が、一桁順位の氏王に勝てるわけないんだって」


 漂磨の叫びは誰の心にも届かず、湧誠は目を閉じて頷くことで右京に同意し、慶軌は笑いながら漂磨の肩を叩いた。


「うるさいな! 出来るかもしれねぇだろ?!」

「そ、そうかもな……」

「右京、笑い隠せてねぇぞ」


 漂磨が慶軌の手を払いつつそう言い返すが、右京は違う方向を向いて必死に笑いを堪えようとしていた。漣はそれに苦笑しながら、敢えて指摘した。

 漂磨はもう飽きてきたのか、また座り直して畳を叩いた。


「ほら! やるぞ!」

「はいはい……」

「あぁ」


 漂磨の拗ねたような言い方に、苦笑いしつつも結局は参加する湧誠と右京だった。

 いつの間にかカードを回収していた漣が、シャッフルして配り直す。


 右京がチラリとカードを手に取って見れば、ババは持っていなかった。そして、メンバーの顔を隠れて見るが、少なくとも漂磨がババを持っていないことは分かった。

 漂磨に関しては、完全に顔が喜んでいたからすぐに分かった。

 漣の方を見ればいつも通りのニヤニヤとした顔だが、重複したカードを抜けば、一つに纏めて持っている。カードを広げて持っていない。


(あいつ……持ってんな)


 右京は漣を見てそう思った。

 昔から漣はそうなのだ。ババを持っている時程、一つに纏めて周りと話すのだ。分かり易いのだ。


 座り方はドア側が入ってきた湧誠と右京で、湧誠の左が右京だ。そのまま時計回りに漣、天翼、漂磨、慶軌だった。


「じゃ、俺から時計回りにやろうぜ!」


 という漂磨の鶴の一声で引き方は決まった。

 そして、漂磨が慶軌のカードから引く。揃わなかった様で、あちゃーとでも言いたげな表情だ。

 次は慶軌が湧誠からカードを引く。


 これが段々と繰り返され、一周しただろうか。特に何も話すことはなく、真剣にしていたのだが、そこで漂磨が痺れを切らした。


「だぁっ! こんなマジメにやれるか! 何かないの?! 話すこと!」


 カードを持った両手を上に突き上げ、そう叫んだ。漂磨は自分の手元を見て、ハッとして手を戻した。

 それを見て笑いながら、湧誠は漂磨の言葉に反応する。


「いや、ガチ勝負もおもろいだろ」

「そうかもしれないけどさ! なんか聞きたいじゃん! 特に……恋バナとか」

「乙女か!」


 漂磨は最後の部分で少し顔を赤らめたせいで、慶軌がそれを目敏く見逃さず、ツッコミを入れる。


「そんなんじゃ彼女も出来ねぇぞ」

「うるせぇ! 俺はいつか作ってやる! は! そういえば、氏王はどうなんだ? あんな告られてんのに彼女作らねぇじゃん」


 漣が飛ばした野次に、漂磨は叫び返しつつ右京の方を向いた。

 右京は急に矛先が向いたことに目を丸くするが、すぐに唇だけを動かして笑った。


「作りたくはないな。女は怖いから」

「え?! 何で?! てかいつも可愛い子といるじゃん!」


 右京の言葉に、漂磨は首を傾げた。

 漂磨のその言葉に、右京と漣の二人が同時に天翼の方を向いた。


「「可愛い子…………」」

「何で僕を見るの?!」

「「いや、なんとなく…………」」


 天翼は思わず頬を膨らませながら怒鳴った。その声に、二人は肩をビクッと跳ねさせつつ、すぐにそっぽを向いて言い訳をした。


「もう!」

「え、俺の質問……ほら、あれだよ。柊さんだ」

「あ〜……」


 天翼は怒りつつペットボトルの水を口に流し込んでいた。漂磨は質問を無視された事を悲しく思いつつ、無理矢理の方向転換に成功した。

 右京は真っ暗な窓の外を見ながら、気の抜けたような声を上げた。


「あれ、彼女じゃないの? この前もショッピングモールに一緒にいたっていう話が上がってんぞ!」


 漂磨が意地の悪い笑顔を浮かべながら、そう尋ねる。


「おい、右京! そんなの聞いてないぞ!」

「行ってないからな。まぁそうだな。あの日は偶然会ったな。そのまま何となく二人で周っただけだし、付き合ってはないよ。何でか向こうは来るけど…………。

 あ、今のはあいつに言うなよ。俺が殺されかねない……」


 漣が右京に詰め寄ってそう問いかけるが、右京はあっさり躱し、その日の説明をしたが陽色に迫られたことを思い出し、自分の言葉がかなり不味いラインに抵触していそうだと思った。

 急いでオフレコにする様に頼む。


「ほえ〜……じゃあ俺狙って良い?」


 漂磨がそう尋ねる。別に普通の反応だ。

 付き合っていない。好きでもない。

 なら、別の人から告白されたり、アプローチされるのは当たり前だ。それを止める権限は右京にはない。


 言葉を継ごうとしたが、喉から出ない。近くの森から、やけに木の葉が揺れる音がした。


「…………あ、」

「それはダメだ! 俺が許さん!」


 右京が声を捻り出そうとした時、漣が結婚を申し込んできた娘の婚約者に父親言うように、腕組みして首を振った。


「えぇ〜! 何で風凪が言うんだよ!」

「そりゃな。俺はこいつと陽色ちゃんにくっついて欲しいんだよ。それに、陽色ちゃんはこいつが好きだからな。もうお前が入り込む隙はない!」


 漂磨のブーイングに、漣はニヤニヤとしたり顔で言い切った。

 その言葉に、漂磨は絶望を感じたのかがっくりとさせた。


「なんでだよぉぉ! 可愛い子見つけたと思ったのに!」

「「可愛い子…………」」

「だから僕を見るな!」


 漂磨は畳を拳で叩いて悔しがった。そしてまたその言葉に反応して、右京と漣は天翼を見た。天翼もまた、怒鳴り返したのだった。


 そして、六人からは笑いが飛び出た。


 楽しい空間。

 右京は座りが悪かったからか、あぐらをする足を組み直したのだった。

 妙に首の裏が痒かった。

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