38話 研修旅行 1日目の夜 1
青年の家に2、3時間かけて到着すると、まずは部屋に案内された。
部屋の人数は大体6人部屋だった。
右京の部屋のメンバーは、右京の他に漣と天翼のいつものメンバーに加え、同じクラスの北本慶軌、西村漂磨、田沼湧誠だった。
慶軌は卓球部所属の何かと気に掛けるタイプで、漂磨は帰宅部だがスポーツは出来るお調子者。湧誠は落ち着いて周りを見ているしっかり者でもあるリーダーの様な人だった。
慶軌、漂磨、湧誠の三人はよく一緒におり、三人組で話しているところをクラスでもよく見かけた。
慶軌はスポーツ部らしく短髪、漂磨はモテたいらしくセンターパート、湧誠は少し長い髪を右に流していた。
部屋に入った六人はまず何を決めたかというと、寝る場所決めである。
畳の部屋には、二段ベッドが二つしかなかった。つまり、六人の内二人は布団で寝るということだ。
それは誰も耐えられなかった様で、やはりじゃんけんとなった。
「最初はグーっ!! じゃんけんポンッ!!」
漂磨の掛け声で六人はそれぞれ手を出した。結果は、グー、グー、グー、グー、チョキ、グー。
一人だけのチョキは漂磨だった。
「だぁぁぁっっ!! なんで?!」
「はい、漂磨は布団な」
「あと1人決めなきゃな」
頭を抱えて叫ぶ漂磨を軽くスルーしてじゃんけんを続けようとする慶軌と湧誠だった。
「おぉ〜! 素晴らしい連携だ! お互い一瞬で役割の把握……格が違う!」
「やかましい! お前は何にコメントしてるんだよ」
「いってぇな!」
「はい、最初はグー、出さんが負けだよ文句なし!」
漣の謎の感動に、右京は漣の頭を叩いた。漣が怯んだ隙に、天翼はじゃんけんを再開。そして、漣以外の四人は全員手を出していた為、自動的に漣の負けとなった。
「よし、よくやった天翼」
「漣、これが連携ってやつだよ」
「お前ら、逆にすげぇよ。この一瞬で俺をハメにくんの」
右京は天翼と片手でハイタッチして、天翼は不敵な笑みで漣を見やった。漣は普通に驚いて目を丸くしていた。
「おぉ! お前らもスゴイな! やっぱりハメるのは風凪になるよな」
「そっちも、やっぱり西村くんだったね」
「それは何となく分かってたわ……」
「おい、何でだよ!」
「俺達が何をしたって言うんだよ!」
慶軌と天翼と右京の言葉に、敗者の二人は野次を飛ばした。
「敗北者は何も言う権利がないんだぞ」
「黙って布団でも敷いとけ」
慶軌は笑って漂磨に言いつけ、湧誠は冷ややかな目で二人を見た。
「けッ! 何だよ!」
「俺らを何だとおもってんだよ!」
漣と漂磨は悪態をつきながら布団を敷いたのだった。
そして、夜ご飯は1日目は青年の家の食堂だった。それを各自食べれば、次は大浴場へ向かった。
右京が上のシャツと肌着を脱ぐと、漂磨が声を上げた。
「うわ……すっげ! 割れてんじゃん!」
「なんだかんだで、筋トレはしてるからな」
右京はふっと微笑みながら返した。漂磨は眩しそうに目を細めていた。追加で目の前で手を翳して、光を遮るようにしていた。
「……おい。なんだよ」
「いや、笑顔が眩しかった……。俺がモテない理由が分かった気がする……」
「安心しろ漂磨。お前は顔が良かったとしてもモテない。勘違いするな」
そんな漂磨に右京が訝しむと、漂磨は俯いてはぁと溜息を吐く。漂磨の肩を慶軌は叩いてサムズアップした。
漂磨は拳をわなわなとさせた。
「なんだよもう〜〜!! お前は!」
「ははは! にげろ」
拳を振り上げた漂磨から逃げるように、慶軌は大浴場へと向かった。その背中を漂磨が追った。
「じゃ、俺達も入るか」
「そうだね」
「あぁ」
漣の肩を竦めながら溢した言葉に、天翼と右京は頷き、大浴場へ歩いて行った。
ガラガラと引き戸を開けて、湿気の多い浴場に入る。割とシャワーの前は埋まっていて、三分の二は人が使っていた。
早目に使って身体を洗おうと、三人はさっさとシャワーに向かう。
「お、また会ったな。氏王」
「いや、同室だし当たり前だろ」
「なはっ! そうか!」
漂磨は快活に笑う。右京もそれにつられるように思わず笑った。
周りの人を笑顔にする様な雰囲気を持つ男だった。
身体を見れば、右京なんかよりも線が細く、長ひょろい印象だ。
「おぉ〜! やっぱがっしりしてんな! なんかスポーツしてたのか?! やっぱり王子様だからテニスか?」
漂磨は右京の腕をニギニギと触りながらそう問い掛けた。思わず右京の身体がピクッと止まる。
「ん? どした?」
漂磨が不思議そうに右京の顔を見上げた。
「…………いや、なんでもない。そうだな……テニスは好きじゃないな。難しいだろ?」
「なはっ! 確かにそうだな! あれコントロール定まんないよな!」
「あぁ……」
右京は笑って答えた。誤魔化しとも言える解答に、漂磨気付く様子もなく笑っていた。右京はそんな漂磨にチクリと良心が痛んだ気がした。
漂磨の隣、湧誠はただ目を右京に向けていた。そして、右京の隣の漣は、ちらっと右京の方向を見ただけで何もしなかった。天翼はそもそも声が聞こえておらず、泡をモコモコにして身体中を洗っていた。
その頬は紅潮し、まるで女の子のようだった。
そんな風にして、同室六人のお風呂の時間は過ぎていった。
大浴場を出て、部屋に帰る道すがら、右京は湧誠に肩を叩かれ、親指で談話室を指差された。
「どうした?」
「いや、少し話そうかと思ってな」
「良いぞ。なんか話がありそうだと思ってた」
そして、二人はすぐそこの少しだけ区切られたスペースに向かい、湧誠はソファに腰を下ろした。右京は自動販売機に向かい、抹茶ラテを買っていた。そして、湧誠の向かいに座る。
「で、何だ? 話は」
「そうだな……漂磨がなんか悪いこと言ったような気がしたからな。そのフォローだ。まぁ、あいつはそんなことも気付いてないだろうがな」
右京が深く背もたれに身を委ねると、逆に湧誠は少し身を乗り出した。
「なるほどな。まぁ、そうだ。ちょっとテニスとは因縁があってな。出来なくもないが、今じゃ嫌いなスポーツだな。別にそんなに気を遣ってもらう程じゃない。田沼も気にすんなよ」
右京は顔の横でひらひらと手を振って、気にしてないという意を伝えた。湧誠は少しホッとしたような顔をした。
「そうか。なら良かった。漂磨も悪い奴じゃないが、人を慮るという点に於いては少し不得手だからな。俺がフォロー役って感じだ。
あぁあと、湧誠で良い。そんなに他人行儀になるな。俺がむず痒い」
湧誠は乗り出していた身体を背もたれにぐっと凭れさせた。深く脱力している。少しがっしりとした筋肉質の身体に、160程の身長。
その身体には、他人への気遣いで満ちていた。
「そうか。よろしくな、湧誠。西村が悪い奴じゃないことは分かってる。仮にもクラスメイトだからな」
「そりゃありがたい」
二人はそう言って笑い合った。




