37話 研修旅行 大学にて 3
大講義室を何故か使ってもらえるらしく、桔梗学園の高等部生徒は一堂に会していた。
教授は壇上に立ち、マイクを持っていた。
「え〜、皆さん今日の体験授業を担当させていただきます、春原吉義です。准教授ですね。よろしくお願いします」
若そうな准教授はペコリと礼をすると、ニコリと笑った。中々に甘いルックスではあった。
女子からはそこそこの歓声が上がりそうなものだが、上がることはなかった。目が慣れているようだった。
しかし、准教授は顔を崩すこともなく、そのまま話し続けた。
「え〜、私が担当というのにも理由がありまして、他の教授の皆さんはそこそこ忙しいみたいで、准教授とかいう暇な役職に就いてんだからやれやという雰囲気に気圧されてしまいまして、私がやることになりました。
どうぞ、可哀想な私を助ける気持ちで授業を受けてくれるとありがたいです」
准教授は笑ってヘコヘコとしながら続けてそう言った。
「さて、内容は、利益計算……と言いたいところですが、嫌ですよね。こんなところまで来て。というわけで、経済の歴史について、軽く触れながら現在のことを話していこうと思います」
准教授は茶目っ気のある笑顔でウインクしていた。本当にこんなんでいいのかと思い、苦笑を浮かべる漣だった。
清那と天翼は計算が嫌というところで、首が取れそうな程に高速で頷いていた。
右京はただ、その話を聞くだけで、何の反応もなかった。
「それじゃ、始めていきましょう。まず、経済の始まりですが――――」
そして、体験授業は始まった。
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「それじゃあここまでにしましょうか。それでは、本日はありがとうございました。ぜひ、3年後、うちの大学に来てくださいね」
准教授は笑って手を振っていた。
生徒達は立ち上がってゆっくりと出口に向かっていく。顔を見れば、概ね好評のようだった。おそらくはあの人懐こそうなあの准教授のお陰であろう。
それもあって、あの人を体験授業に使ったんだろうなと漣は笑顔の下で考えていた。
「意外に面白かったね。まぁちょっと計算が入ってくるのは嫌だけど」
「え〜、ますます私はどうしよっかな。進路決まってないの怪しいかな?」
天翼は計算という言葉で顔を顰めつつそう言うと、清那がちょっと焦った様子で漣達に話しかける。
「別に良いんじゃねえか? 1年生だし、決まってる奴の方が少ねぇよ」
「そうだな。俺もまだ決まってない」
「そっかぁ! なら良いや!」
漣と右京の言葉に、清那は安心したように笑った。笑ったついでに前を歩いていた天翼に抱き着いた。
「え? 何?!」
「いやぁ……なんとなく?」
「あ、暑いから、離れて!」
「はぁ〜い」
天翼の驚いた反応に清那はイシシと笑い、天翼が腕から脱出を図ろうとすれば、おとなしく解放した。天翼の耳は真っ赤に染まっていたが、清那が気付くことはなかった。
「あいつら、いつくっつくの?」
「いつもくっついてるだろ」
「そっちの意味じゃなくて」
「…………永遠に無理だろ。あの調子じゃ」
「そうだな。お前と陽色ちゃんぐらい無理そうだ」
「まぁそうだな」
「おいぃ……! 認めんなよ! 俺の頑張りを無視するな!」
「厄介な……」
漣の潤んだ瞳を、右京は目を怒らせて睨んだ。漣は両手を上げて震えた。
「なんだよぉ……何もしてないだろ?」
「いや、言ったからな。面倒臭い彼女みたいな奴が言いそうな言葉を。どっち選んでもダメじゃねえか」
「へへへ。そんな褒めんなよ」
「褒めてねぇ」
右京はデレた漣に舌打ちして、さっさと歩いて行った。
漣はその背中を追った。
「まぁまぁ。そんな怒んなって」
「別に怒ってない」
「左様でございますか」
「左様だ」
漣の確認に、右京は鷹揚に頷いてみせた。その仕草に、漣はニヤリと笑った。
「左様の左京さんでしたか」
「残念ながら右京さんだ」
「これは失礼、杉下さんでしたか」
「よし、殺すか」
漣のからかいに、右京は速攻で拳を鳴らし始めた。ポキポキという音は、漣の顔を一瞬で真っ青にした。
「申し訳ございませんでした。もうしません」
「天翼、こいつどうすればいいと思う?」
「う〜ん…………バスの横に括り付ければいいんじゃないかな。ジェットコースター気分だね」
「うお〜! やめろやめろ! 死んでまうわ!」
「え〜、楽しそうじゃん」
「清那! 俺を殺す気か! そんなこと言ったら本気にするだろ!」
「バカじゃねえの。バス会社が迷惑被るからやらねぇよ」
「第一に、柳田先生に止められそう」
「あの人なら真顔で良いぞって言うと思うぞ」
天翼と右京は物騒な会話を始めた。何とか命拾いをした漣は安堵の息を吐くのみであった。
「おい〜〜!! またお前らかよ! 頼むから俺の仕事を増やすな。サボりたいんだ。早くバスに乗れ。青年の家行くぞ」
「「「「は〜い」」」」
柳田の中々にイラついた顔を見て、四人は間延びした返事をしたのだった。そして、わざとらしくゆっくりとした動作でバスに乗る。
「だ〜! もう! 早く乗れ! 蹴るぞ!」
「蹴って良いの?」
「ちっ! 生意気なガキ共め!」
柳田は清那を急かすが、清那はちらっと柳田に振り向く。その言葉に、柳田は盛大に舌打ちしたのだった。
「もう良いだろ。青年の家行けばゆっくりできんだから。お楽しみもあるぞ」
「ちなみにその内容は?」
「お楽しみって言ってんだろが」
柳田の言葉に漣は目敏く反応した。柳田はそれを適当に誤魔化す。
「ちぇ〜! ま、良いや。気に入らなかったら、みんなでブーイングしようぜ。柳田に」
「「「「「「お〜〜!!!」」」」」」
漣の呼び掛けに、クラスの皆は拳を上げて応えた。
しかし、柳田の余裕そうな様子は崩れない。
「いや、絶対に気にいるね。知らんけど」
「いや、保険かけるなよ……」
柳田が腕を組みつつそう言うと、右京は少しげんなりしてツッコんだ。
果たして、柳田の企みは成功するのか。
はたまた、ブーイングを食らうのか。
まだまだ続く、研修旅行だった。
ついでに、ラブコメの短編を出したので、是非見に行ってみてください。何かリンクコピーが上手くいかなかったんで、作者ページまでとんでみてください。気になったらどうぞ。題名は、『ワイヤレスでも近付きたい!』です。




