36話 研修旅行 大学にて 2
学内見学は終わった。なんだかんだで、経済学部以外も見てしまった様な気がするが、そこは恐らく案内してくれた人の興が乗ってしまったか、ここに入学してほしい気持ちが強かったかのどちらかだろう。
経済学部は面白かったと右京は思った。
(起業を考えてる人もいるんだな……。この面子で、会社を興したら、どんな風になるかな)
右京はそう未来のことを考えると、口角が上がってしまうのだった。
「どした、右京? 早く選ばねぇと、後ろ詰まんぞ」
「あぁ……そうだな」
前にいた漣は振り返り、きょとんとした顔だ。右京はとりあえず頷いて、漣の横に並んだ。
ここは、大学のカフェテリアだ。
予め渡されていた食券を渡して、昼食を貰うところで、それに桔梗学園高等部の生徒は並んでいるのだった。
当然、列は中々の長さになり、流れをスムーズにしなければ時間がかかってしまう。
食券を職員の人に渡して、昼食を受け取る。先に受け取っていた三人と合流した。
昼時ということも相まって、カフェテリアは非常に混雑していた。
カウンター席は大体埋まり、テーブルもほとんど長テーブルの席しか空いていなかった。
「どうする?」
「空いてるとこ座るしかねぇだろ」
天翼がそう尋ねると、漣は表情を動かさずにそう言った。
なんのことはない会話だ。
「あ、テーブル席空いたよ」
「じゃあそこ行くか」
清那がたった今空いた席を指差して叫ぶと、右京が頷いて移動を始めた。
四人は着席すると、先ずは一息吐いた。
「ふぅ〜、流石に疲れたね」
「なんだかんだで色々な所見て回らされたからな」
「ていうか広いね〜。大学だね〜」
「清那は大学を何だとおもってんだよ、本当に」
各々適当な感想を洩らす――一部ツッコミが混じってはいるが。
「午後からは体験授業だっけ?」
「そうだな。何するんだろうな」
「経済学部だから、利益計算とかじゃね?」
「え〜、計算やだ〜!」
四人は談笑していた。
漣は周りをチラリと見ながら、何かを警戒しているように。
天翼はそれに気付きつつ、清那を見つめる。
清那はやけにじっと見てくる天翼に首を傾げながら。
そして、右京は過去最高のぼんやり具合を記録しながら。
そこに近付くのは二人の影。
「あれ? どうしたんですか、皆してぼーっとしちゃって」
「あ、ホントだ。疲れたんでしょ」
陽色と日奈だった。陽色はこてんと小首を傾げ、日奈はそんな陽色を片手で押しながらそう言った。
「おわぁ! びっくりした! 陽色ちゃんか!」
漣は急に現れた陽色にやや過剰に驚いた。
「はい、そうですよ」
「いや〜、右京が話しかけられかねないと思ったから、警戒してたんだよね〜。大学生でもワンチャン可能性があるかと思って」
「む、それは由々しき事態ですね。私も一緒にやります!」
陽色が漣に笑顔で返答すると、漣は頬を掻きながら自分のやっていたことについて、説明をした。それを聞き、陽色は鼻の頭に皺を寄せると、右京の横に座って周りを見始めた。
「それで、どうして右京くんはそんなにぼーっとしてるんですか?」
「ん? いや……多分眠いだけだな」
「あ、そうなんですか。右京くんらしいですね」
「らしいってなんだよ……」
陽色の笑顔にツッコむ右京には、キレが無かった。本人が眠いと言っていたこともあるのだろうが、それ以外にも別に何かありそうだ。
俄にカフェテリアの喧騒が遠のく。
右京の意識は、隣に座る体温へと引き寄せられる。
今まで意識もしなかった、自分に好意を向けてくれる数多の女子の一人。
しかし、彼女の意志は強く、右京の警戒を突破し、今ではすっかり友人として馴染んでいる。
(俺の彼女にこいつが良いって? 俺がこいつの告白をOKしたとすると、こいつに迷惑がかかるのは明白だ。やっぱりこいつとは、友達ぐらいが良い。第一に、紫苑も彼女を作れと言ってる訳じゃない)
右京はそう一人で考えた。
それなりに納得いく考えが得られたからか、その表情は満足気で、陽色の顰めっ面も思わず見惚れてしまう程だった。
「なんだ?」
「……っ! いえ、別に。楽しそうだなって」
陽色の視線に気づいたのか、右京が陽色の方を向くと、陽色ははっとした様に我に返ってニッコリと笑った。
「あぁ、そうだな。楽しいよ」
右京はそう言って、笑顔で返した。
「…………そうですか! まだまだ研修旅行は続きますよ!」
「あぁ、ちょっと楽しみだよ」
陽色は笑顔で返されたことに驚き、動きを止めるが、すぐにいつもの笑い顔に戻ってそう言った。右京もそれに笑ったまま頷いた。
そんな二人を、他の四人は見守っていた。
「(いつの間にあんなに仲良くなったの?)」
「(ヤバい……突っ込んで良い?)」
「(そうだな、清那。お前がそれをやった瞬間、天翼がお前から離れるぞ)」
「(おお! それはマズイ! 残念、出来ないな)」
「(それで止まるんだ……)」
清那の言葉に、日奈は思わず呆れたが、その顔には苦笑が浮かんでいた。無論、心の中は陽色の心配でいっぱいではあるが。
(う〜ん……これは悩むまでもないか?)
漣はそう笑顔の下で考えた。




