34話 研修旅行 始まり
「ふぅ〜! 二泊三日の研修旅行が始まるぞ!」
「相変わらずうるさいな、お前」
「元気じゃないと、バテるぞ?」
「お前のせいでバテる」
やたらテンションが高い漣のせいで、右京の顔は不満気になっていた。
集合時間、朝6時。右京にとってはかなり眠い時間帯だった。ただでさえ寝起きが悪いのに、いつも以上の早起きを命じられれば、不機嫌にもなるだろう。
今回は、一度学校に集まった後、バスに乗り込みそこから移動するという形式だった。
所謂、青少年の家という場所に行く。
初日は、そこに着く前に大学を見学するということだった。
午前中はコース別に分かれて見学し、午後は構内の様子を見て回るそうだ。
「元気良いな〜、お前ら」
「仲が良いのはよいことだね」
清那と天翼が笑顔で二人の肩を叩きながらそう言った。
「別にそんなでもないだろ」
「そうだな、めっちゃ仲良いんだもんな」
「……刺すか」
「何で?! 俺殺されんの?!」
右京の仕方なさそうに告げた言葉に、漣はややオーバーな反応を見せた。それにまた右京は顔を顰めた。
「おはようございま〜す!」
そんな時に陽色が手を振りながら、挨拶をしてきた。
そんな陽色に、各々は口々に挨拶を返した。右京に至っては、軽く「よう」と返したぐらいだった。
漣はそんな右京に、少し疑問を抱いた。
(ん? あれ? ちょっとばかし素っ気なくないか? 挨拶ぐらい普通にしてただろ)
言わずもがな、右京は優しい男である。人から挨拶されれば返すし、気遣いを――特に身近な人には――しすぎるきらいがある。
さて、この現状はどうであろうか。
あろうことか、挨拶を適当に返した。
はは〜んと漣は勘繰りを始めた。
ちなみに、陽色は何の違和感も感じずに、話に参加した。陽色と清那と天翼の三人はゆっくりと話を始めた。
漣は右京に近付いた。
「(何? お前紫苑さんあたりになんか言われた? 特に陽色ちゃんについて)」
「!!!」
漣が右京の耳元でそう小さい声で話すと、右京は明らかに驚いた顔をした。
漣はその反応を見て、ニヤッと笑った。
「(なんて言われたんだ?)」
「(いや……別に柊を名指しで言った訳ではないんだが、俺が彼女を作る時は俺のことを可愛いと思ってくれる奴を探せって)」
漣がそんな右京に尋ねると、右京は先日の夜の話をした。丁度、陽色と右京が買い物をした日の話である。
「ふ〜ん……」
漣が適当に頷いていると、天翼が振り向いた。
「え、漣……何笑ってるの? ちょっと気持ち悪いよ?」
「キモいとはなんだ、キモいとは! しかも略さずに言われた方が心にはくるんだぞ!」
天翼の遠慮のない反応に、漣は指を指しながらやや大袈裟に怒ってみせた。
天翼はあははとそれを流した。
「まぁでも、一人で笑ってんのはきしょいよね」
「お前もか!」
「なんかブルータスって続きそうだな」
「何で俺だけこんなにイジられんだよ! 不公平だ!」
漣は清那と右京からの言葉に、空を見上げて叫んだ。それを4人はジト目で眺めていると、日奈が顔を引き攣らせながらやってきた。
「え……? 何、してるの?」
「漣がちょっと気持ち悪かったから言いまくったら、なんか今更なこと言い出したから……うわぁってなってた」
「今更なのかよ!」
珍しくツッコミ側に回り続ける漣は、若干疲弊してきていた。
「もう疲れたよ……パトラッシュ」
「いやお前死ぬのかよ」
「フランダースの◯が出てきて僕びっくりだよ」
漣はその場で寝転びながらそう言うと、右京は冷静にツッコみ、天翼ははぁと溜息を吐きながら漣を立たせた。
「ほら〜、ふざけてないで。バス来たよ〜」
「え?! もうですか?! 離れたくないですよ〜!」
「陽色、行くよ〜」
「え、日奈ちゃん! 早いって!」
清那がそんな風に絡む三人にそう呼び掛けると、陽色はグズり、日奈は躊躇せずにさっさと歩いて行った。そんな日奈に陽色はついて行った。
「さて、じゃあ俺達も乗らねえとな」
「お前が一番騒がしかったぞ」
「そうだね。珍しく横田くんが騒いでなかったからね」
「あれ? てか横田、まだ来てなくね?」
「あ、本当だ」
「アイツのことだから、寝坊とかありそうだけどな」
三人はそう話していたが、清那は普通に柳田――右京達の担任である――の所へ向かって一応指示を聞いていた。
「お〜い。もう乗って良いって」
「お、じゃあ乗るか。あ、俺窓側で」
清那が三人にそう言うと、漣は手を上げてそう宣言した。
「分かってる。お前は酔いやすいからな」
「流石俺の親友」
「よし、親友なら語り合いが必要だな。拳の」
「やめとくわ……」
右京は分かってたとでも言わんばかりの顔で頷くと、それをまた漣はからかった。右京が拳を鳴らしてみせると、漣は手を猛烈な勢いで横に振りながら断った。
そんなことをしている間に、清那と天翼はバスに乗り込んで、二人並んで座っていた。
右京と漣もバスに乗り込もうとする道すがら、柳田に声を掛けた。
「柳田〜! 横田は〜?」
「あ? あいつなら寝坊したから現地で合流するってよ。全く……俺と変わってほしいくらいだ」
「いや、お前は仕事をしろよ」
かなり砕けた口調で問い掛けた漣に、柳田は注意もせずに横田を羨ましそうに答えた。思わず肩を叩いてツッコんでしまった右京だった。
彼等は自分たちの担任に敬語を使っていないが、最初は使っていたのだ。しかし、段々と関わっていく内に、この人はダメ人間ということに気付き、速攻で態度を変えていった。
今では、学年のほぼ全員が柳田呼びである。
漣と右京はバスに乗り込んだ。
清那と天翼の後ろが空いていた為、そこに座った。
もちろん、多少の悪意はあるが。
こういった場合、後ろの席の方が何かと有利なのである。何かをする時には。
「ふぅ……何をするか」
「やっぱり一択だろ」
「なんかやったら、僕は手加減しないよ」
「「はい……」」
シートに座るなり、作戦会議のようなことをしだした二人に、天翼は背もたれの隙間から目を光らせた。右京と漣は静かに下を向いたのだった。
嘘でしょ……2500書いて出発しないの?




