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王子様男子と恋する乙女の恋愛譚  作者: シト
1年生、夏休み
39/57

33話 夢と思惑

 その夜、右京は夢を見た。


 幼い頃の夢だ。


 まだ小さい、小学生になるかならないかの頃の。

 小さい右京は、大事そうにガラスのコップを抱えていた。まだ身体の小さい彼と比べると、少し大きいように思われるコップだ。


 それはかつて彼が気に入っていた、透明なガラスのコップだった。

 それを抱えて歩いている場所は、家ではない。

 外だった。


 夕暮れ迫る秋の日、右京は一人で近くの公園へと歩いていたのだった。

 スコップも共に持っている。


 右京には少し考えがあった。


 今、家は荒れている。皿はもう半分程無くなってしまった。いつこの綺麗なコップまで被害が及ぶか分からない。ならば隠してしまおうと。自分にしか分からないところに。


 それが右京の考えだった。


 壊れてしまうなら、それを隠せばいい。無くなってしまうなら、最初から無ければ良い。


 右京はそう思った。


 公園に着き、木の根元近くで穴を掘った。深く、誰にも取られないように。上から踏まれても壊れないように。


 右京は埋めるだけ埋めて満足したのか、さっさと走り去って行った。小さい子供が歩いていると、怒られてしまうような時間である。もっとも、それは母親にではないが。


 右京の記憶にあるのはそこまでだ。だが、夢は続いた。


 丁度右京が今の歳になった姿で、再びあの公園に現れた。手には何も持っていない。

 そして、木に近寄り、幹に触れる。


 そこで、はっと思い出したように地面を見た。そして、手で地面を掘り始めた。

 数分後、すっかり汚れて土を纏ったガラスのコップが出てきた。昔の輝きは見る影もない。

 しかし、洗えば、洗ってしまえば、再び元の綺麗な姿に戻るのは見て取れた。


 そして、右京は何処かから箱を取り出し、そこにしまった。


 夢の中ではあるが、何処から取り出したとツッコミたくなる右京だった。


 そんなただの傍観者の右京とは違い、夢の右京は光が溢れんばかりの笑顔で立ち去って行った。

 その行く先に、陽色が居たのを右京は認識した。


 意外にも、彼女の存在は自分の中で大きくなっていたようだった。

 そうして、いつものメンバーで公園を去って行った。



 そこで右京は目が覚めた。

 時計を見れば、朝6時だった。右京にしては、早い目覚めだった。

 カーテンの隙間から朝日が漏れて、右京の顔に直撃した。


 右京は思わず目を細めた。視界が明るかった。

 何故か、肩が軽い。モヤモヤとした気持ちは消えていた。そもそも何故モヤモヤとしていたのだろうか。

 陽色が誰かと付き合うことを想像したからか。そもそも何故嫌だと思ったのか。


 右京はその感情の名前を知らなかった。

 しかし、これはまだそれに至っていない。まだ芽吹いたばかりだ。

 なんとなく、右京はそう思った。


「早く起き過ぎると、良くないな。余計に考える。俺は考え過ぎると良くないって言われるからな……寝るか」


 右京は頭をかくと、二度寝することに決めた。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 陽色はげっそりとした顔でベッドから起き上がった。


「あぁァァァァァァ!!! 何であんなことしちゃったんだろぉぉぉぉ!! 絶対に引かれた……!」


 陽色は再びベッドにダイブすると、枕に顔を押し当てて、悶絶した。昨日のことを恥じていた。


「詰め寄っちゃった時、凄い顔をしてたもんな……」


 右京の顔を思い出し、少し悲しくなった陽色だった。途中までは普通にしてたから、余計にそれが心にきたのだった。


「よし! らしくない! 研修旅行でもガンガン行こう!」


 陽色はベッドから立ち上がると、拳を握り締め、誰に言う訳でもなく、そう宣言した。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 漣は朝とは言えなくなった時間になるや否や、家から出て行った。

 特に何かをする気はない。


 今日は右京のバイトも無いし、起こしに行く必要はなかった。


 何となく、本屋に立ち寄った。


 夏休みの旅行と題された雑誌を見つけて、少し笑った。


(陽色ちゃんが本当に右京が好きか確かめないといけないような気がしてきたんだよな〜。本当に好きか、はたまた推しの好きか……神のみぞ知るってね)


 漣は悪戯を思い付いた悪ガキの顔をして、肩を回した。いっちょやったりましょうか、という気合が入っていた。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 天翼は、家でゴロゴロとしていた。

 元から外に出るタイプではなかったし、暑いのが嫌いだし、日に焼ければ赤くなって痛いだけだ。

 夏が大嫌いだったが、清那が一緒にいれば、それは全て吹き飛んだ。


 研修旅行も、清那と一緒にいれば全て万事上手く行きそうな気がした。


(出来れば、清那ちゃんとの関係が進展しますように)


 天翼は神にでも祈るような仕草でそう思った。


 そんなことを露も知らない清那は、


「暑いね! テニスしない?!」


 と兄に迫っていた。「やだよ。一人でやれ」と無下にされていたが。

 そして、約十秒後、天翼の携帯が鳴った。



※※※※※※※※※※※※※※※



 斯くして、それぞれの思惑(?)が入り乱れた研修旅行が幕を開けようとしていた。

次回から急にぶち込んだ感が半端ない研修旅行編です。

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