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王子様男子と恋する乙女の恋愛譚  作者: シト
1年生、夏休み
37/57

31話 夏休み初日 まさかの遭遇

 右京は昼過ぎに目を覚ました。

 欠伸をしながらリビングに入ると、そこには紫苑の姿は無かった。勿論、仕事である。

 机の上には書き置きと千円札三枚と五千円札一枚が残されており、書き置きには『これで研修旅行に必要な物でも買っときなさい』と書いてあった。


 右京は急いで残したと思われる字に、苦笑した。


「何の為に俺がバイトしてると思ってるんだよ。こういう時に自分で払えるようにって言った筈なんだけどな……」


 頭をかいて、右京は冷蔵庫の中を覗いた。


 少なくとも、今日の午後の予定は決まった。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 陽色は昼ご飯を自宅にて食べ終わり、少々の勉強をしていた。ふと、右京が何をしているか気になったが、一旦後回しにして休憩することにした。


「グリ? いる?」


 陽色は和風の自分の部屋の中を見て回った。

 畳が敷き詰められた上にカーペットを敷き、勉強机とテーブル、ベッドと本棚を置いた部屋だ。それなりに部屋には気を使っており、ピンクだったりオレンジだったり明るい色で統一している。二つの部屋を障子を外して一つの部屋として使っている。


 それなりの部屋なので、ベッドの下だったり、本棚の周りだったりを探す。


 可愛らしい鳴き声が聞こえた方を見れば、勉強机の足元にいた。


「あぁ、ここに居たの。グリ」


 陽色はブルーグレイのアメリカンショートヘアに近寄って抱き上げた。

 この家で飼っている猫の一匹、グリであった。


「ねぇグリ。どうやって右京くんを遊びに誘えばいいかな。私一人だったらやっぱり来てくれないよねぇ……」

「ニャアァ?」


 陽色はモフモフの毛皮を自分の顔に持っていって、顔を埋める。グリは分かっているのか分かっていないのか、返事をした。


「よし、とりあえず外に出よう!」

「ニャア!」


 陽色が意気込んで立ち上がると、グリは返事をまたもや素晴らしいタイミングでして、陽色はそんなグリに笑いかけた。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




「……え〜っと、必要なのは……」


 右京はショッピングモールに来ていた。基本的に色々な買い物はこの辺で済ませていた。

 頭の中で情報を整理しつつ、無数の商品を見て回っていた。


 必要なものを選別しつつ、値段を考えていた。


(紫苑から貰ったのは、出来るだけ返したいから……安いのを探すかな)


 そう考えて、ちょっと値段が高めの店を出て、別の店へと向かう。女子からの視線は止まないが、最早慣れ切ってしまい、気にすることすらしなくなった。

 中学生の頃は何処へやら。


「えっ?! 右京くん?!」


 そこに慣れ親しんだ声が聞こえてきた。


「ん? 柊か……」


 そちらを向けば、ベージュ色のフワフワな髪、もとい、陽色だった。右京は少しホッとした雰囲気だった。


「よう。お前は何しに来たんだ?」

「う〜ん、なんとなくお出かけですかね。右京くんは?」

「俺は研修旅行で必要な物を買いに、だな」

「そうですか。どうせなら、どこか甘い物でも食べに行きませんか?」

「おぉ……行く! ていうか、よくお前は昨日食べたのに食いに行けるな」

「右京くんの方がですけどね」


 陽色は不思議そうな右京に苦笑した。昨日散々ケーキバイキングを食べた後なのに、甘い物を食べに行く。よくよく考えれば、てんでおかしいことである。

 陽色にしてみれば、折角会ったんだから少しでも一緒にいたい、という思いだ。

 連絡先は交換しているのに、少しでも連絡しようと思わないあたり、こういったことに慣れていないのだろう。


 ちなみに、陽色が右京に話し掛けた瞬間、ギラついた視線を送っていた女子たちは消え去った。陽色の方が可愛い顔立ちをしていたのか、勝手に絶望して帰っていったようだ。


 ショッピングモールの中にあるカフェに立ち寄った。名前は言わないが、非常に有名で期間限定でものすごいカロリーのメニューを作って、数多の女子を困らせるあのカフェである。もっと言えば、オシャレな人がコーヒー飲みながら仕事してそうな所だ。


 その長い列に並び、二人はゆっくりと待った。


「右京くんはこういう所よく来るんですか?」

「ん? どっちだ? ス◯バか? ショッピングモールのことか?」

「あ、ショッピングモールです。どうせス◯バは期間限定が出る度に来てそうですし」

「お、よく分かったな。ショッピングモールはよくっていうかそこそこ来るかもな。漣とかに服買うぞって言われて。お陰で俺の今着てる服は漣が選んだものだ」


 右京は軽く両手を横に広げて自分の姿を見せた。右京の服は、上は黒の半袖ジャケットにインナーは白のTシャツ。下は黒のタイトパンツ。右京らしくモノトーンコーデだ。ただ、非常に大人っぽく見えてしまう為、女性から狙われる確率も上がるというところもあった。


「へ〜。流石漣くんですね。右京くんのことよくわかってますね。モノトーンでキメてますし」

「俺はあんまり頓着しないからな、服のことは。よく分からん。柊はしっかりと自分で考えてるんだろ?」

「まぁそうですね。夏ですし、爽やかなのが一番です。右京くんはちょっと暑そうです……」


 陽色は自分の服をチラッと見て、右京の服と見比べた。黒を基調とした服は、やはり夏場では暑そうだ。

 ちなみに陽色の服は、水色のシャツワンピースである。


「まぁ……ここに来るまでが中々キツかったな。日差しを吸収して」

「でしょうね」


 その時のことを思い出したのか、右京はげんなりした表情を陽色に見せると、陽色はくすくすと笑った。


「次のお客様どうぞ〜!」


 列はいつの間にか最前列まで来ていたようで、レジはすぐそこだった。


 二人は急いでレジに向かい、メニューを見た。


「どれにしますか?」

「とりあえず俺はこれかな」

「私はこっちにします」


 二人は手早く注文すると、お金を払い、レシートを持ってドリンクを待った。


 意外にも早く来た為、さっさと店を出ることにした。


「右京くんのそれ、クリームいっぱいですね」

「そういうのを頼んだからな」

「流石ですね」


 二人はお互いのドリンクを眺めて笑い合った。


「ねぇ、あそこカップルかな」

「カップルでしょ。謎にビジュいいけど。あんな彼氏居たらデート楽しそう」

「確かに!」


 女性の二人組はそう言って通り過ぎて行った。

 位置関係から、右京には聞こえていなかったようだったが、陽色はしっかりと聞いてしまった。

 そして、改めて今の状況を再認識した。


(あ、これ……デートだ)


 陽色の握力が一瞬無くなりそうになったのは言うまでもない。

 そんな陽色を甘さたっぷりのドリンクを飲みながら、不思議そうに眺める右京だった。

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