番外編 甘い物が好き
30何話か書いて、初の日常回ではないか? 何かのイベント事しか書いてないよね?
時期は、7月。期末テストが終わり、ゆったりとした時間が流れている。校内の空気も何処か浮ついているような雰囲気だ。
一方の右京は、昼休みの教室でブスくれていた。理由としては単純明快で、期末テストの結果に関して、散々陽色に煽られたからだった。
「すみません……もう言いませんから」
「……………………」
陽色は手を合わせて謝るものの、右京はムスッとした表情でそっぽを向いた。
「すみません……」
「………………………………」
陽色はどうしたら良いのか分からなくなって平謝りするが、右京は変わらぬ顔で外を見ていた。
陽色は肩を落として、周りでニヤニヤ笑いながら見ていた漣たちの所へ戻った。
「ダメです……全然見てくれません」
「ありゃガチギレだな」
陽色が潤んだ目でそう言うと、漣はやっちまったなとでも言いたげな表情だ。
「陽色ちゃん、よく右京をあそこまで怒らせたね」
「うっ!」
天翼は一周回って感心したように笑うと、陽色は呻き声を上げて倒れた。
「だって、あんな風になるなんて知らなかったんですですもん!」
「そ〜れにしても、外から見るのは楽しいな〜」
「ぶっちゃけ、陽色の困り顔はかわいいから全然オッケー。でも、陽色を困らせてるのはちょっとイラつく」
陽色が頬を膨らますと、清那はニタニタしながら鼻歌を歌い、日奈はサムズアップして笑ったあとに怒った。
「陽色ちゃん。ここはあれしかないよ」
「あれって……?」
「あ ま い も の」
陽色が首を傾げると、漣はわざわざ1音ずつ区切りながらそう言った。
「ああ! 右京くんの機嫌取りにはいいですね」
「そそ! 売店はまだ開いてるから、チョコでも何でも買ってきな」
「分かりました!」
漣の言葉に陽色は笑って手を上げながら走って行った。
「そんなんで機嫌取れんの?」
「う〜ん……五分五分かな。大抵は取れるけど、あそこまで行ったときに確かめたことはないからな」
「あんた、陽色に無駄な動きさせたの?!」
「いやいや! 可能性の話だから!」
漣は日奈に詰め寄られて、焦ったように手を凄い勢いで振った。事実として、チョコ一つで右京の機嫌は大きく変わる。
普段から糖尿を心配される程甘い物を食べている右京は、それだけ甘い物が好きだった。
かなりの自信が漣にはあった。
「買ってきました〜!」
「え、速?!」
「足の速さを存分に使ったねー」
あっという間に帰ってきた陽色に、漣は驚き清那はのんびりとした反応を見せた。
陽色の手にあるチョコは、個包装された20枚程入ったチョコだった。
「ねぇ……これ割と買うには高いやつじゃない?」
「金銭感覚狂ってるから……」
「これだけあれば、右京は大丈夫だな」
清那は指差して苦笑、日奈は呆れて、漣は歯を見せながら笑った。陽色は日奈の言葉に首を傾げていた。天翼はそんな光景と右京のムッとした顔を見て笑っていた。
負けず嫌いでありながら、寂しがり屋という一面を持つ右京としては、4人で騒いでいるのは目に付くのだった。
そんな右京の顔に気付いた陽色は、直ぐ様右京の元へ小走りで向かった。
「すみませんでした。これで機嫌なおしてください」
陽色は頭を下げながら、チョコを差し出した。右京は何でチョコを自分にくれるのか分かっていなかったが、甘い物を差し出されたことで食べたい気持ちが勝った。
「ん。ありがとう」
右京はお礼を言って、チョコを受け取った。既に笑顔に変わっていて、陽色は胸を撫で下ろした。
右京はその場で封を開けて食べ始めた。
「さっき、お前らは何を話してたんだ?」
「あ〜…………どうしたら右京くんの機嫌はなおるかーってことですよ」
「お前が怒らせたのにか?」
「だから謝ってるじゃないですか!」
「はは、悪かったよ。俺だってこんなに悔しがるとは思ってなかった……。意外に強い感情が残ってるもんだな」
「?」
「いや、何でもない」
「そうですか。それにしても、子供っぽ過ぎませんか? 甘い物が好きで、負けず嫌いで……」
「…………悪かったな! 子供っぽくて!」
「いえいえ、褒めてるんですよ? 可愛いって」
「はぁ? 俺は男だぞ? せめて天翼に言えよ」
「それは清那ちゃんの特権ですからね〜」
二人はそう話した。ふざけて顔を顰めたりすることはあるが、基本的には笑顔だった。もう右京はいつも通りで、安心した表情の陽色だった。
陽色はそうして笑い合いながら心に誓った。
(これからふざけ過ぎて怒らせたら、一緒に甘い物を食べに行くことにしよう)
と。
この後、この行動は幾度となく繰り返されることとなる。




