番外編 人が良き
今回は右京と天翼が仲良くなる回!
駅前にて、集まった3人がいた。
右京と漣と天翼である。
一応清那も含めた4人で遊ぶ予定だったのだが、清那は普通に寝坊したらしく、1時間くらい遅れると先程連絡があった。
時期は4月の末。世間的にはゴールデンウィークという期間だ。
まだ陽色との出会いもなく、4人で友達付き合いをしていた頃の話だ。
「まさか寝坊するとはな」
「清那ちゃんだからこんなものだよ」
「寝坊に関しては、右京が言えたもんじゃないと思うけど?」
「……ちっ」
漣の笑みに、右京は舌打ちをした。
「え、どういうこと?」
「良いから、どっか行こう」
「右京が絶望的に寝起きが悪くて、俺が毎日起こしに行ってるんだよ〜」
天翼が漣に聞き返した。右京はどこかに行かせようとするが、漣がそれよりも早く返した。
右京は悪態をつきそうな表情でそっぽを向いた。
「はは! やっぱり右京くんは可愛いね」
「鏡見てこい」
「怒るよ?」
天翼はそんな右京に笑い掛けると、右京はトイレを指差しながらすんとした表情で言った。天翼は笑った顔のままで声にドスを利かした。
そんな時に少し大きめの声が、祝日で人の多い駅前で響いた。
「ちょっと! やめてください!」
「いいじゃん。一緒に行こうよ。お姉さん暇そうじゃん」
「きっと楽しいって」
二人組の男達が、女性の腕を掴んでそう話していた。何処からどう見てもナンパ、しかも悪質な方である。ここまで分かり易いことがあるかと、少しげんなり顔の右京。
「漣、スマホ出せ。空井は……そんままで良いや」
「え? なにするの?」
「りょーかい」
右京はナンパする二人組へと歩み寄り、漣と天翼にそう言った。天翼は混乱していたが、漣は指示に従い、スマホを出してカメラを起動していた。
天翼はぼーっと右京とそれに付いて行く漣を見ていた。
二人組の一人が女性の腕を掴んで連れて行こうとしていた。
その腕を右京は強い力で掴んだ。
「いって! なんだよ?!」
「手、離せよ」
片割れが驚いたように右京を見た。右京はそんな二人を睨み付けた。
「あ、お姉さ〜ん。今のうちにどっか行っといてー」
「す、すみません……ありがとうございます」
漣はその間に女性を誘導し、逃がしていた。女性はお礼を言って、足早に去っていった。
「おい、お前どうしてくれんだ。逃げられたじゃねえか」
「それとも、お前が良い女連れてきてくれんのか?」
二人組は一向に態度を変えず、ゲスな笑い方をしていた。漣は後ろで動画を回し始めた。右京は既に手を離しており、面倒臭そうにポケットに手を突っ込んでいた。
ちなみに天翼は、そこから少し離れたところでちょっと呆れていた。
「お前ら如きに紹介するような女は居ねえし、女は嫌いだ。第一に、女に逃げられるような奴が女誘えると思うなよ。恥ずかしい」
右京は吐き捨てるようにそう言った。完璧に煽りにいっていた。アチャーとでも言いそうな顔で笑う漣。これは喧嘩が始まるなと思って息を吐く天翼。
「あ?! お前ナメたことぬかしやがって、ぶっ飛ばすぞ!」
そして、片方の男が遂に拳を振り上げた。
男と右京との間に入り込む影。しかも、飛び蹴りの姿勢だった。男は思わず後ろに下がった。
「空井……カッコいいじゃん」
「あのねぇ……僕はケンカが好きじゃないんだよ」
「奇遇だな、俺もだ」
「流石に嘘でしょ」
天翼は華麗に着地した後、右京が拍手をしたのに対して怒った。そのまま言い合いに発展した。二人組は置いてけぼりである。
「お前ら! 無視すんじゃねえ!」
再び、男は殴りかかろうとする。
そんな男に上段蹴りを寸止めして、無理矢理止まらせたのは、天翼だった。
「まだ、する? 多分僕が勝つよ」
「……ひっ?!」
天翼が可愛い表情を一気に迫力あるものに変えて、目を光らせた。男は思わず悲鳴を洩らした。
「まぁまぁ、そこら辺にしとけよ。もう良いでしょ。どっか行けよ」
漣がスマホをしまいつつそう言うと、男達は走り去って行った。
周りからは拍手と歓声が沸き起こった。その場だけ一気に気温が上がったようだった。
漣はそんな周りにペコペコと礼をしながら、二人の肩を組んだ。
「そんじゃ、逃げるぞ」
「へっ? 何で?」
「今に分かるからな」
漣の言葉に、天翼は頭の上に疑問符を浮かべた。そんな天翼に、碌な説明もせず漣は背中を押すだけだった。
漣のその言葉を皮切りに、3人は走り出した。
それは物凄いスピードだった為、話し掛けようとした女達だけがその場に残された。
中には諦め切れず、その背中を追う人も居た。
駅前から2キロほど移動したところで、3人は走るのを止めた。
「あぁ、そういうことね」
「そ。こいつがなんか良いことすれば、確実に寄ってくる女どもがいるからな。逃げるが勝ち〜」
「漣はこういうときだけは行動が速いからな」
「何だと〜。お前を守ってんだぞ?!」
「はいはい。分かってるから」
天翼は右京に飛び掛かる漣を見て笑った。
「ありがとな。止めてくれて」
「いや別に大したことじゃないよ。僕が空手を習ってたのはこういう時のためだから」
「あれは空手か!」
「そう」
右京のお礼に天翼は手を降って否定した。そこに漣が入り込んだ。
「まぁ別にどうでもいい。好きじゃないのにわざわざ止めに来てくれたのが、俺にとっては大きいんだ。ありがとな、天翼」
「ふふふ……どういたしまして」
右京の差し出した拳に、天翼は軽く笑いながらコツンと拳をぶつけた。
1時間後に合流した清那はその話を聞いて、「いや……人が良き過ぎるでしょ」と呆れていた。
ちなみに、清那は最初から右京に名前呼びされてます。理由は、清那が右京に名前で呼ぶように迫りまくった結果、根負けしたからっていう小話。




