番外編 ケーキバイキング
「へ〜……ここが。またおしゃれな所を」
漣が連れて来られたホテルを見上げてそう呟いた。
「しかも安いからな! 早く行こう!」
右京は目を輝かせてそう言うと、さっさと歩いて行ってしまった。
「なんか楽しそうだね」
「大量にケーキを食えるチャンスだからな」
「みんな。しっかりとコーヒーのブラックを用意しとくんだよ! じゃないと右京じゃなくて、私たちが胃もたれするからね」
天翼が右京にそう言うと、右京は右手でガッツポーズをしながら笑った。そんな二人を尻目に、清那は陽色と日奈に指を立てながら助言をしていた。
陽色と日奈の二人は苦笑していたが、清那の顔は至って真剣で、本当に注意をしていたようだった。
一行が中に入ると、まず目を奪われたのはケーキが沢山置かれた長机だった。ホテルの内部はやはりお洒落で、一つ一つの調度品が凝っていた。
六人は、店員に四人がけのテーブルを二つ繋げてもらって、そこに座った。
中は女性客で満員だったが、予想外にも視線は来なかった。
と、右京は思っていたが、正しくは漣が周りを睨むことでそれが軽減されていたのだった。
また、右京の注意の9割はケーキへと注がれていた為、あまり周りに気を配ることが無かった。
「なぁ、取りに行っていいか?!」
「良いぞ。陽色ちゃん、ついて行って。もしかしたら連れて行かれるかもしんないから。陽色ちゃんが彼氏を装っとけば、周りも少しは静かになる」
「分かりましたっ!」
ウズウズしている右京に、漣は保護者のような感じで許可を出した。そして、陽色に指示を出すと、陽色は敬礼して、もう既にケーキに向かった右京を追った。
右京はトングと皿を持って、長机の端から端まで行ったり来たりしていた。右京の珍しい姿に、陽色は少し微笑みながら右京に話し掛けた。
「どうしたんですか?」
陽色の声に気が付き、右京は振り向いた。
「あぁ……どれが良いと思う?」
右京は楽しそうな笑顔でトングをカチカチと動かしていた。
陽色はそんな右京を可愛いなと思いながらも、「これが良いんじゃないですか?」とケーキを指差した。
「う〜ん……こっちも気になる……」
「あ、これ美味しそうなんで私が取ります」
「あっ! じゃあ俺はこっち取ろ」
二人はわいわいと話し合いながら、ケーキを取っていた。
そんな二人をテーブル席から眺める三人は、笑顔を浮かべていた。日奈は少し渋い顔だった。
「やっぱ仲良くなったな〜」
「なんでなの?! 絶対氏王くんじゃダメだって!」
漣が面白そうに笑うと、日奈は真っすぐのびたストレートの髪をぐしゃぐしゃにした。
「何でそんなに右京が陽色ちゃんの彼氏になるのがダメなの?」
天翼が日奈にそう尋ねた。
「そんなの決まってるじゃない。もし陽色が氏王くんの彼女になった後で、また女嫌いが発動したら陽色が捨てられて泣く羽目になるじゃない! というか、それが一番可能性が高そうだからよ」
日奈がテーブルに手をついて立ち上がりながらそう言った。髪が乱れて顔の半分を隠しているところがまた、その迫力を増していた。
「あ……、なんかごめんなさい」
「日奈ちゃん、怖い……」
「親友を思う気持ちは強いね〜」
天翼は日奈に謝り、清那は天翼に抱きついた。天翼はそれでビクッとしたが、なされるがままにした。漣はからかうような笑みを見せた。
「逆に、日奈ちゃんは彼氏とか作らないの?」
「私はいいわ。興味ないの」
「おう。段々遠慮がなくなってきたね。良いと思うよ? 遠慮なんて長くなりそうな人たちには無駄だと思うよ」
漣の質問に日奈は冷たく返した。そんな反応に、やっぱり笑って返す漣だった。
「出来れば、長くなってほしくはないんだけどね」
「冷たいな〜。友達でしょ?」
「いや、別に」
「ツンデレか?」
「デレを友達にしたら怖いと思わない?」
「まぁそれもそうだね」
漣と日奈の高速会話を天翼と清那は首を行ったり来たりさせながら聞いていた。
そんな風に話していると、右京と陽色が帰ってきた。
「あれ? 取りに行かなくて良いの?」
「あぁ、昼飯に甘い物はやっぱ無理だった」
「なんか悪いな」
右京が漣にそう聞くと、漣は手を上げてそれを断った。右京は申し訳なさそうな顔をした。
「私と天翼は取りに行くよ!」
「えっ、いつの間にか決められてる?」
「行かないの?」
「…………行きます」
楽しそうに立ち上がった清那に、顔を赤らめながらもついて行った天翼だった。
そんな二人を微笑ましそうに見守る漣と日奈だった。ちなみに右京はケーキに、陽色はそんな右京に視線が向かっていた。
右京はケーキを大きめにフォークで切って、口の中に運ぶ。陽色は変わらず、右京をじっと見つめていた。
「ん? どうした?」
「あ、え〜と……」
「あ! これが食べたいのか?! ほれ」
しどろもどろになる陽色に、右京は自分のケーキを切ってフォークに突き刺して差し出した。
それは正しく、バカップルがケーキ屋でやることと同じだった。所謂“あ〜ん”である。
「は? え……?」
「だから、ほれ。食いたいんだろ?」
困惑する陽色に、右京は続けてフォークを差し出し続ける。
そこに天翼が帰ってきて、また場はカオスへと叩き落される。
「(えっと……どうなってんの、これ?)」
「(俺にも分からん。あの距離の詰め方は異常だぞ。これまでにない)」
「(陽色、フォークを取ればいいんだ!)」
天翼、漣、日奈の三人はコソコソと話し合い出した。日奈は陽色に向けてそう言うが、小さい声だった為、伝わることは無かった。
「(まずいな。ここで清那が帰って来たりしたら……)」
「お、どうしたの? そんなコソコソして」
漣が少し焦った表情で天翼を見ると、後ろから清那が話し掛けた。
天翼と漣の肩がビクッと跳ねた。
二人はぎこちない動きで振り返った。
「ん? え?! あれって……うぐっ!」
「(いいから黙れ! いいとこだろうが!)」
「(ごめんって!)」
清那が大声で叫び出した為、漣と天翼が急いで清那の口を塞ぎにかかった。漣が小声で叫ぶと、清那は小声で謝った。
清那の声で一瞬訝しげな顔で、清那達を見たが、すぐに視線を戻し、陽色に差し出した。
「(何であんな感じになってんの?)」
「(う〜ん。多分だけど、一つ秘密を話したことで、心理的ハードルが下がってんじゃねえか? 本当に心を許したってことだろ)」
「(あ〜。なんか右京ってそんな瞬間ってあるよね)」
清那の疑問に漣は疑問形だが、しっかりと答えた。天翼は納得したように頷いた。
そんな三人から戻って、陽色と右京だ。
陽色は固まっていたが、頭の中では思考がぐるぐると回りに回っていた。
(え? 何で急にこんな……え? 思考が追いつかない……。ほんとになんでこんな急に……)
陽色は困惑していたものの、心を決めて、フォークに顔を近付けた。
顔を赤くしながらも、一息にパクっと口に含んだ。
陽色はすぐに体勢を戻して、両手で顔を隠した。
「どうだ?」
「…………おいしいでふ」
「な?」
陽色の感想に、右京は嬉しそうな笑みを見せて、またケーキを食べ出した。
(こんなんじゃ、すぐに致死量だって!?)
陽色の心の叫びは誰にも届かなかった。
思ったよりも文字数が多くなってしまった……。




