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王子様男子と恋する乙女の恋愛譚  作者: シト
1年生、1学期
30/57

30話 漣の覚悟

 そんな大騒動のケーキバイキングも終わり、それぞれが帰路に就いた。漣、右京、陽色の三人は、横一列に並んで帰っていた。


「そういや、今回のことで忘れてたけど、夏休みに研修旅行あるよな」

「あぁ、8月の半ばにあったな……嫌なこと思い出したせいで、抜けてた」

「大学の見学とかするんでしたね」

「一応どこの学部にした?」

「私は経済学部ですね」

「マジで?! 良かった〜! 俺と右京も一緒! ついでに清那と天翼も」

「こういうのは友達と合わせるだろ、普通。天翼は別に経済学部に興味が無さそうだったけど、自分の行きたいところが無くて、俺達がいる所にしたじゃねえか」


 右京が前を向きながら、そう言った。右京はふと、何で陽色と帰っているのかを疑問に思ったが、最寄り駅が同じだったという事を思い出し、一人納得した。


「天翼くんはどこに行きたいんですか?」

「幼児とかの研究がしたいんだと。まぁでも、今回行くところにはその学部が無くて、行けないって残念がってたけど」

「へぇ〜! もうそんなに決めてるんですね」


 右京の言葉に、陽色は驚いたような反応を見せた。


「羨ましいことだな」

「まぁ、俺は何となく決まってるけどね〜」

「例えば?」

「経済学部で起業」

「良いんじゃないの。向いてるよ」

「その時はお前も一緒にやろうぜ」

「悪くないな」

「素直にやりたいって言えよ〜!」

「いや、そういうのちょっと……」

「お前なー……」


 漣は変わらない態度の右京に苦笑した。そんな漣を陽色はじっと見つめていた。

 右京はそんなことには全く気付かずに、自分のマンションに着いたため、手を振りながら建物に入って行った。


「じゃあな」

「バイバ〜イ!」

「また今度ですね」


 そんな右京の背中に、漣と陽色は別れの言葉を投げ掛けた。


 右京の姿が見えなくなった後、陽色は漣に向き直った。


「起業するんですか? 風凪を継がずに」

「元から継ぐつもりはないよ。親父からも好きにしろって言われてる」

「私もですから、別に言いませんけど……」


 少し顔を顰めながら陽色は言った。そんな表情を見て、漣は陽色の気持ちを読み取った。


「さては、その為に右京と関わってるんじゃなかろうかと疑ってんな?」

「うっ!」

「図星か」


 漣がニヤニヤとした顔で指差しながらそう言うと、陽色は唸った。正しく言い当てられてしまった。


「やっぱりか。一応お前よりもあいつとの付き合いは長いぞ」

「だとしても、ですよ」

「長年かけてやる意味はあるってか」

「はい」


 戯けた調子の漣に陽色は真剣な顔をして頷いた。そんな陽色に漣は笑った。


「……ふはっ! 確かに、あいつは何かと有能だし、顔も良いから広告塔にもなれる。俺が起業する際に丸めこめば、一気にそこそこの企業にはなれるな」


 漣はそこで笑っていた顔を戻した。


「俺がそんな風になったら、陽色ちゃんが俺を止めてよ。俺はそれに気付けば、腹切ってでも詫びる」


 漣の真剣な表情に、陽色は息を呑んだ。


「俺があいつと関わる理由はさ、あいつが俺の救世主だからなんだよ。右京はまるっきし忘れてそうだけどな」


 漣は右京が入って行ったマンションを見上げながらそう言った。


「あれ? 陽色ちゃんはどうする? 迎え呼ぶ?」

「送ってくださらないんですか?」

「仰せのままに」


 陽色の言葉に、漣は慇懃な礼で返した。それを見て陽色は、上品に笑った。


「帰り道の話題が楽しみなので」

「じゃあ話すよ。大して面白くもないし、人間の少しだけ醜いところだ」


 陽色がいたずらっぽく笑って見せると、漣はセットした髪をぐしゃぐしゃにして話し出した。


「俺、実は昔は人見知りだったんだよ」

「え……?」

「うそ、信じられない! みたいな顔は止めてよ。傷付くわ。

 今でこそ、こんなにチャラくしてるけど、元々は知ってる人の影に隠れるかわいい男の子だったんだぜ?」


 漣は目を見開く陽色に、戯けた笑みを見せた。


「それをまぁ、なんだ。ある人に直してもらった。正しくは、人との繋がりの大切さを教わった。それからは人としっかり関わるようになった。手っ取り早く人のネットワークを広げられるのが、この性格だったってだけで、俺の元々の性格は人見知りだよ」


 漣はそう言って歩き出した。少し遅れて陽色もその背中を追った。


「すると、俺はそこそこ顔が良いからモテ始める。気付いたのは小学校の5年か6年かってところかな。小学校のうちは、まだそんなに無かったけど、中学になると男子からの嫌がらせが増えた。あからさまなのが。それがちょっとだけ右京に流れてしまった時があったんだ。

 つっても、俺への悪口を右京に言う程度だったけどな。その頃には、俺達は十分仲が良いのが知られてたし、2年の終わりだったから、右京の冬野とのいざこざも終わってた。だからそういう話が出来たんだ」


 漣は遠い目をした。陽色にはその目がただ昔を思い出しているだけなのか、それとも嫌な記憶でなんとか誤魔化そうとしているのかが判別出来なかった。


「単純な話、その男子が好きな子が俺に告白してきた。分かり易い話だろ? 陽色ちゃんも、今日巻き込まれたあんな感じだ。そいつは右京とも俺とも話してたから、偶然話の流れでって感じではあったけどな。

 俺が席を外すと、悪口大会が始まったらしい。やれ生意気だの、やれうざいだの。右京はやっぱりイラついたらしいな。真正面から言えないくせになんなんだコイツ等ってね。後から聞いた話だと。

 そんな時に俺が教室の入口に立ってそれを聞いてんのを目撃したことで、爆発したらしい。ありゃすごかったな。丸々陽色ちゃんと似たような内容だったよ。だから思わず今日は笑っちゃった。

 あんな風に啖呵切ってくれて、気持ちは晴れたよ。俺はあいつにあの時確実に救われた。だから、俺があいつを裏切ることは絶対にない。これだけは俺の指針っていうか、絶対的に大事なことって決めてる。破ったら死ぬ覚悟だ」


 漣はそう言って、笑った。その表情はかなり明るかった。陽色はそこからあまり悪い思い出ではないことが分かった。


「そうだったんですか……」

「かな〜り長く語っちゃったね。陽色ちゃんの家は?」

「あそこです」

「うわ……予想通りっていうか、う〜ん金持ち!」


 陽色が指差した方向を見ると、立派な日本家屋があり、漣は驚いた。門がまず立派で、真っ白な塀がどこまで続いているのか、よく分からない。

 漣もそれなりに自分の家は金を持っていると思っていたが、まだまだだと思った。


「それでは、また……」

「うん、またね〜」


 陽色と漣は軽く別れの挨拶をして、陽色は門――ゴゴゴと音を立てながら自動で開いた――の中へ、 漣は来た道を戻った。


 その二人の顔は明るかった。

この後からは少し番外編を書こうと思っています。都合上、省略したケーキバイキングでの話や、漣と右京が出会った時の話。清那と天翼に漣が会った話や天翼と右京が仲良くなった話など色々と書いていきたいです。

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