3話 惚れた理由は?
陽色と漣が教室で腹の探り合いをしている頃、右京たちはというと、帰りにいつも寄っているカフェ『キャルム』に来ていた。
「あ〜、雨降りそう」
「え、ちょっとやだな。それは……」
「ていうかあいつらは何やってんだ?」
「「さぁ?」」
と平和な会話をしていた。
戻って学校の2人である。
「なんでこの学校に居るって……、この学校の偏差値をお忘れですか? 70超えですよ。そしてかなりの名門校であるということは分かりきったことですよね」
「それもそうだが、偏差値はまだ上の高校があるし、名門のところだって……」
「あのですね、私だってただの高校生したいんですよ! 好きな人が行く高校に行って何が悪いんですか!」
陽色は漣の言葉に顔を赤らめながら返した。
「へっ? もしかして、マジで惚れてんの?」
「当たり前です! 3年の恋です!」
「えっ! 中1から?」
漣は目を見開いた。陽色はその言葉に顔を赤らめたまま頷いた。
「マジかよ……。具体的にはなんで好きになったのか、聞かせてもらっても?」
漣は目を手で覆いながら言った。
「中1の頃の私はですね……、少し両親と喧嘩気味でして、たま〜にその喧嘩の勢いでプチ家出をしたりとかしてたんですよ」
「軽いテンションで社長令嬢がしていいことじゃない!」
「その日もいつも通り、喧嘩して家出の流れをしていました。ただ、その日は冬の寒い日でした。しかも薄着で出てくるという愚行をしてしまい、寒さで震えるも意地になって帰れないという……、まぁただのバカでした」
「執事はどうした、執事は!」
「なめないでください! バレないように家を出る経路までしっかりと考えました!」
「バカだ! ホントのバカだ!」
漣は天を仰いだ。
「まあ、公園のベンチに座って震えてた時のことでした。ガラの悪い高校生ぐらいに何故か連れて行かれそうになってたんですけど、その時、中1の可愛いかわいい右京くんが話しかけてきました。ただ、もう既に思考が大人のそれでした」
「うん、まあもうあの頃には達観してたな」
「『何してんの?』と話しかけられた私は、『見て分かれよ! 助けて!』と返しました。そしたら、右京くんから『はあ』とため息を吐いて、『お兄さんたち、なんかそこのバカが助けてって言ってるからどっか行ってくんない?』と言いました」
「あいつ……、中1で高校生相手にそれは強すぎだろ……」
漣は肩をすくめながら言った。
陽色はそれを見て頷き、
「それには激しく同意します」
と言った。
「まぁ、その高校生は性欲が強かったようでそれでは引かず……、結果、乱闘騒ぎになりましたよね」
「お嬢様のせいでこの騒ぎ……」
「それは置いておきましょう。何故か3対1だったのに普通に勝ってしまったんですよね……。あの人喧嘩強すぎじゃないですか?!」
「まあ、あいつあんな儚げだけど喧嘩、よく買うんだよな〜」
漣は頭の後ろで手を組みながら言った。陽色はそれを聞いて、
「新しい情報、ありがとうございま〜す!」
と言った。
「とまぁ、こんなのが出会いの話なんですけど……。それから右京くんは私の親が迎えに来るまでずっと隣に座ってくれました。とても寒かったのに……」
「右京はなんだかんだで優しいから、ワンチャン陽色ちゃんのことも覚えてるかもね。あれ? でもなんでお前、右京がここに来るって知って……」
「柊グループの威信をかけて調べさせました!」
陽色は漣の言葉に胸を張って答えた。
「えっ?! ただの一般人に……、うわ〜」
「そんなに引かないでください!」
「いや、だって、ねぇ〜?」
「分かります! 分かりますけども! しょうがないじゃないですか! 初恋だったんですよ!」
「あの〜、初恋を免罪符にしちゃだめだと思うんだけど……」
漣はゲンナリとした顔をした。
「ま、なんとなく事情は分かったからいっか! 早めに行かねぇと怒られるから行こうぜ」
「はい! って漣さんは右京くんに言ってないんですか? 風凪コーポレーションの息子だって」
「言ってないよ。別に言う必要も無いからね」
漣はそう返してさっさと歩いていった。
その後2人は急いでカフェまで行き、
「ごめ〜ん、遅くなった!」
「お前何してたん?」
「ちょっとね?」
漣は陽色の方を少し見て、笑って誤魔化した。
「まぁ、いいや」
右京は頭を右手でかいたあと、
「座れよ。この後どうする?」
と聞いた。
「どうしよっか?!」
漣は笑顔で席に着く。陽色は近くで立ったままだった。
「何してる? 座らないのか?」
右京は違う方向を見ながらであるが、陽色に向けて言った。
陽色は嬉しそうな顔をして、
「座ります!」
と言い、右京の隣に座ったのだった。