25話 躊躇い
右京が倒れそうになっているとき、漣達はそれなりに走り回っていた。候補地は意外にも少ない為、当たりを付けて探し回っていた。
「どう? 1年校舎の裏は?」
『いや、いないね』
漣がスマホで天翼に話しかけると、天翼は冷静に返した。
「そうか……」
『うん。もうちょっと探す範囲広げてみるよ』
「頼んだ」
そう話して、2人は通話を切った。
「じゃ、俺は部活棟裏に行くかな」
漣は独り言を呟きながら、少しは小走りで廊下を歩いて行った。
「(も……、どっ…………行け!)」
漣が歩いていると、微かに右京の声らしい音が聞こえた。
(お、いたな……やれやれ。時間がかかってんな)
珍しく手間取っていそうな雰囲気に、漣は思わず顔を綻ばせた。厄介なのに引っかかってるな、というのが少し面白かったからだ。
足取り軽く、校舎裏へと漣は駆け込んだ。
「うきょ〜、なにして……右京?!」
呼び掛けながら覗き込めば、そこには息荒く倒れ込んでいる右京がそこにいた。
急いで駆け寄ると、少し体が熱かった。
「右京! 大丈夫か?!」
「……漣か……。あぁ、ちょっとやばいかも……」
「黙っとけ! とりあえず保健室運ぶわ」
「頼む……すまんな」
「死にかけてるやつが言うセリフじゃねえ!」
右京の腕を肩にかけながら、漣はゆっくりと保健室へ連れて行った。できるだけ揺らさないようにしながら。
そして、運びながらトーク画面を開いて、連絡をする。
『(漣だぁぁぁぁ!!) 発見! やられてるから保健室連れてくわ』
『(つばさ) わかった』
『(清那) 陽色ちゃんと日奈ちゃん連れてくね』
漣が報告をすると、天翼と清那がすぐに返信をし、了解の意を伝えた。
しばらく歩いて、管理棟に着いた。大会議室や生徒会室がある管理棟の1階に保健室はある。漣は養護教諭がまだ残っているかが心配だった。
いなかったらいなかったで、勝手に入ってベッドに寝せる気ではあったが。
「すみませ〜ん!」
漣はそう声を上げながら、ドアをスライドさせて開けた。そこには生真面目そうに眼鏡をかけた女の先生がいた。
「どうしたの?」
「こいつがちょっと倒れちゃって。軽い熱中症かもしんないっす」
養護教諭が眼鏡をくいっと上げながら漣に尋ねる。漣は軽く状況を伝えて、保健室へと入った。
養護教諭は漣から右京を受け取り、ベッドに寝かした。
「大丈夫?」
「はい……ちょっとキツいだけです」
「意識はハッキリしてるし……軽い熱中症ね、ほんとに。少し休んでいきなさい」
「分かりました……」
養護教諭はそう言って、また机に戻って何か仕事をしだした。右京は言うことを聞き、ベッドの上で少し力を抜いた。
「で、どうしてあんな危なくなったんだ? もしかして、アイツに似てたのか?」
「生き写しかってぐらいな。手の差し出し方までそっくりだった……」
「そんな奴を俺が気付かなかったとは、もう少しネットワーク広げるか……」
漣は入口近くにあった椅子を少し動かして、ベッドのすぐ横まで持って来た。
「ほら、取り敢えず水分と塩分を摂って」
そう話していると、養護教諭が経口補水液のペットボトルを右京に手渡した。右京はそれを受け取って、キャップをぐっと開けて、一気に半分程まで飲んだ。
「お前、何も飲んでなかったもんな〜。気づいてなかったわ」
「いや、自己管理の範疇だろ」
「まぁ、そうだな」
右京がベッドの上でペットボトルを握り締めているのを、漣はじっと見ていた。
(相当危なそうだな……。そろそろあいつらにも、話しても良いかもな)
漣はスマホをポケット中のスマホを触りながら、そう思った。
「右京! 大丈夫?!」
「清那ちゃん、もうちょっと静かに」
「右京くん、大丈夫ですか?!」
「陽色! うるさくしない!」
そんなとき、ドアを大きな音を立てながら開けて、4人が入ってきた。かなり息を荒くして、汗もかいていた。走って来たようだった。
「軽い熱中症だ。心配かけたな」
「いやー、良かったよ」
右京がちょっと苦笑気味でそう言うと、清那は椅子を持って来て、ドカッと座りながら笑った。天翼と陽色、日奈もそれに続いた。
「…………。何かあったんですか?」
陽色がそんな右京を見て、ただ静かに問い掛けた。漣は陽色を見て、目を丸くしていた。
「いや、何もなかった」
右京は窓の外を眺めながら、そう返した。漣は少し笑っていた。まさしく、こいつ誤魔化したなとでも言いたそうな笑みだ。
視線を戻した右京が、その顔を見て、少しムッとした表情を見せたものの、何も言わなかった。
「なるほど……そちらがその気なら、こっちものってあげましょう。私は何があったか、話してくれるまで動きません!」
陽色はそう言って、腕を組んだ。ついでに、頬まで膨らませている。かなり怒っているようだった。
しかし、なぜ陽色が怒っているのかが、右京にはあまりよく分からなかった。
「何で……怒ってるんだ?」
「ねえ、もう良いですよね。私、キレます。キレますよ、もう。怒鳴らせて頂きますよ?」
右京が不思議そうな表情で陽色に尋ねると、陽色は右京を指差しながら漣を見て、怒りを顕にした。
「どうぞ。言っちゃって」
「ありがとうございます」
漣が手を出して、陽色を指した。陽色は許可を出した漣に礼を言い、右京に向き直った。
「あのですね! 普通、友達ってものは何か元気が無いと気になるものなんです! その原因を聞いて、改善しようと考えるんです! 一緒に! それを右京くんは何なんですか?! 何もなかったなんて誤魔化して、強がり以外の何物でもないじゃないですか!
困った時に、人を頼るのは当たり前なんです! むしろ私たちみんなは、右京くんに頼って欲しいと思っているんです! その気持ちを考えてください!」
陽色は顔を真っ赤にしながら怒鳴った。養護教諭は口を少しだけ開いて、「おぉ」とでも言いたげな表情だ。
漣は苦笑いをし、天翼と清那は拍手をして、日奈は頭を抱えて陽色に呆れていた。
「その前に、私は一度あなたに告白している一人として、気にならないはずがありません!」
陽色はまた続けてまくし立てた。右京は困惑で目が泳いでいる。
「いや、俺のことは、俺で解決を……」
「出来てないから私たちは心配してるんですよ」
陽色は右京の言葉を遮って、右京に訴えた。
「少しは頼ってください……」
陽色は俯きながら、唇を噛んだ。
そんな風に身体を震わしている陽色に右京は何もすることが出来なかった。どうすればいいのかが分からなかった。
「右京」
「ん?」
「良いだろ。早いか遅いかの違いだ。いずれはこうなってた。俺が言うか、お前が言うか。どっちがいい?」
漣はじっと右京の目を見つめて、迫った。右京はしばらくその状況で固まった後、はぁ……と溜息を吐いた。
「分かった。俺が言う。大して面白くもないし、俺の馬鹿みたいな話だ。それでも聞くか?」
右京は念を押すように、4人の顔を見ながら尋ねた。
天翼と清那、陽色は黙って頷いた。
日奈はというと、少し出ていくかどうかを迷った素振りを見せた。
「日奈ちゃん。聞いといた方が良いんじゃない? 親友の好きな人の素性は」
漣がそれを見かねて、すかさず日奈を引き止めた。それで日奈は決心したようで、椅子に座り直した。
「先生はどうします? 聞いて行きます?」
「いや、止めておこう。出とくよ」
漣がそう養護教諭に問いかけると、養護教諭はさっさと席を立って出て行ってしまった。
「それじゃ、話すぞ。これは俺にとって黒歴史に近い話だ。適当に聞き流してくれ」
右京はその後ろ姿を見送って、たっぷりと時間を取った後で、そう語り始めた。




