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王子様男子と恋する乙女の恋愛譚  作者: シト
1年生、1学期
23/57

23話 陽色の論

 さて、時はかなり飛んで、7月の末――終業式の日となった。その式も先程終わり、クラスの集まりも終わってクラスの担任からは既に解散を告げられている。

 生徒たちはやはり笑顔が圧倒的に多い。一部の人――恐らくは赤点を取って補習を受ける人たちであるだろう――はかなり暗い表情だ。

 また、夏休みだから何時でも会えるのだが、何故か別れにくくなってしまうのも、当たり前だろう。かなりの人たちが残っていた。


「じゃ、俺は行ってくる」

「おう。並ばなければ良いな」

「それはフラグになるから止めろ」


 右京は軽く手を上げて教室から出て行こうとした。漣はそんな右京に嫌味を投げ掛けた。右京は血相を変えて言葉を返した。


「アハハ〜、行って来い。早く終わらせろよ〜」

「分かってる!」


 漣が笑いながらそう言うと、右京は肩を怒らせながら歩いて行った。


 漣はそして、天翼たちに向き直った。


「さてさて、どれぐらいで帰ってくっかな〜?」

「さぁ〜? 並ぶんじゃない?」

「君たちほんとに……性格が悪いね」


 ニヤニヤと話し出す漣と清那を見て、天翼は呆れた顔をした。


「そう言えば、右京は毎回毎回呼び出されてるけど、どうやって呼び出されてるんだろうね。わざわざ話しに来てる様子は無いし……」


 天翼がふと気になったようで、小首を傾げている。それを見て、清那が少し目を輝かせた。恐らく、その様子がかわいいとか思ったのであろう。


「あぁ、それかぁ……。簡単な話、右京の机の中にノートの切れ端でもメモ用紙でも良いから、それに場所と時間を書いて呼び出すだけなんだよな。あいつはよっぽどのことが無い限り、大抵のものには出て行くからな。

 なんだかんだで優しすぎるんだよ、あいつは。きっぱりと拒絶することもし切れないし、冷たく当たり切れない。だから、そのために陽色ちゃんとくっついて欲しいんだけどなぁ」


 椅子に座って、船を漕ぐように動かしながら漣は言った。呆れと他の感情がないまぜになったような顔だった。


「まあ、どうせそのうちにくっつくよ、あそこは」

「だろうと思うし、俺も協力は惜しまないさ」


 清那はそんな漣を見ながらそう伝えると、漣は廊下の外の窓を軽く微笑みながら見ていた。


 清那と天翼がそんな漣を見て、2人して顔を見合わせて、溜息を吐いた。


「あんたもうずっとそんな顔しときなさいよ」

「多分そっちの方が人気出ると思うよ……」


 清那は漣を指差しながら言い、天翼は首を振りながら呆れたようだった。


「いや……俺別にモテたいとかいう願望無いんだけど……」


 漣が頬を掻きながらそう言った。


「え? そんな性格で?」

「漣……すぐにバレる嘘はつかなくてもいいんだよ?」


 清那と天翼は2人して、酷いことを言った。全く漣のことを信じていなかった。


「ひっでえな、お前ら。俺が少しちゃらそうだからって、そりゃねぇだろ!」

「いや、だって……ねぇ?」

「そうだよ……ねぇ?」


 漣が立ち上がって文句を言うと、清那と天翼は顔を見合わせた。


「まったく……お前ら覚えとけよ。ん? 誰からだ?」


 漣が少し息を吐きながら椅子に座ると、漣のスマホから着信音が鳴った。


 漣はスマホの連絡アプリを開き、トーク画面を見る。


『(ひな) 陽色が綾瀬たちに連れて行かれたって!』

『(ひな) 急いで探さないと!』

『(ひな) 何されるか……』


 日奈から一気に連絡が来た。この連続した連絡から、かなりの焦りが感じられる。


『(漣だぁぁぁぁ!!) オッケイ。分かった。取り敢えずそっちのクラス行くから待ってて!』


 漣はそう返信すると、スマホから顔を上げて、2人の方を見た。


「どした?」

「何かあった?」


 2人は漣の表情から何か読み取ったようで、既に立ち上がって漣の近くに来ていた。


「陽色ちゃんが、綾瀬に連れてかれたって」


 漣が日奈から来た内容を伝える。


「それは……マズイね」

「探さないとだ」

「あぁ……だから日奈ちゃんと合流する」

「「分かった」」


 2人は名前を聞いただけで全てを察したようだった。漣の言葉に頷き、最低限持っておくべき財布とスマホを持って漣の元へ戻って来た。


「よし、行くぞ」

「「うん」」


 漣の声に2人は続けて返事をした。


 そして、3人は日奈の教室に移動した。日奈は3人の顔を見て、すぐに廊下に出てきた。

 かなり焦っていることが顔と様子から察せられた。


「まさか、私がお手洗いに行ってる間を狙われるとは思わなかったわ……。私が陽色を一人にしたから……」

「一旦落ち着いて、日奈ちゃん」


 日奈は漣たちの顔を見て、後悔を始めた。深刻に受け止め過ぎているようだった。清那が取り敢えず、日奈を落ち着けさせる。


「そうだね……綾瀬さんたちのグループは5人くらい。それに陽色ちゃんを何処かで制裁を加える場所と言えば、校舎裏か部活棟か……」


 天翼が腕を組みながら考えていた。既にかなりの候補が絞られており、あまり急いでいる様子は無い。


「そんなにゆっくりと……陽色が危ないかもしれないじゃない!」


 日奈が少し大きな声を出した。


「だから、落ち着けって。陽色ちゃんは強いから多分やり返してるぜ? 俺達はそれを止めるための係。後は、証拠を掴む、とかね?」


 漣は少し悪い顔をして、企みを明かした。


「よし! じゃ、まずは校舎裏からだな」


 清那がそう言うのを皮切りに、4人は行動を開始した。


 とは言え、1番目立たない校舎裏がこの1年生棟の校舎裏なので、校舎裏の候補は一つしか無かった。


「お、いたいた。何話してんのかな〜?」


 漣が遠目で陽色を見つけ出した。とても楽しそうな様子だった。

 校舎裏には植木があったり、室外機があったりと、かなり視界は悪くなっていて、人を探していなければ、見つかることはないだろう。


「あんた……何でそんな楽しそうなの?! 陽色が何されてるか……」

「じゃ、天翼。動画回しとけ。凸るぞ」

「……了解」


 日奈が文句を言おうとすると、漣がそれを遮りながら歩き出し、天翼もスマホを構えながらついて行った。


「ちょっと!」

「まぁまぁ、見てなさいって」


 日奈が怒ろうとするのを、清那が止めた。


「あの人達なりに考えがあるからね。大丈夫」

「……分かったわよ」


 清那がそう宥めると、日奈は不貞腐れた顔をしながら動きを止めた。


 一方で、叫ぶ綾瀬グループと陽色たちの元へと歩いて行った2人は、面白そうに見物していた。

 校舎の大きい室外機の裏に隠れながら、天翼は動画を撮影していた。


「(しっかり写ってるか?)」

「(うん。大丈夫。材料にはなるよ)」

「(よし……これであいつら抑えれんな)」


 2人はそうコソコソと話していた。


 話していた内容は大体、こんなものだった。


「あんた、氏王くんから離れなさいよ!」

「あんたのせいであたしを見てくれないでしょうが!」

「あんたさえどっか行けば……」


 綾瀬のグループはそうやって陽色たちに詰め寄る。壁を蹴ったり、壁に手を置いて顔を近付けたりもしていた。


「……流石にあなた達バカなんじゃないですか?」

「はぁ?!!」


 陽色が溜息を吐きながらそう言うと、余計に綾瀬たちは眉を上げて怒った。


「あんた、そんな事言ってる場合?!!」

「はい。だって、あまりにもバカ過ぎるので説教でもしてあげようかな〜と」

「いい加減にしなさいよ!」

「全然怖くないですよ、それ。私は一切こういうのに屈しないタイプですし、なんならこんな風になるだろうなとは思ってましたよ? 右京くんはモテますが、ひっどいフリ方をするので。

 まぁ後はそうですね。あなた達はほんとに何なんでしょう?自分が好きな人に振り向いてもらえないのを人のせいにして、自分には何も悪いところが無い聖人とでも思っているのでしょうか?」


 綾瀬の怒鳴りすら、陽色は何処吹く風といった様子で、宣言通りに一切気にしていなかった。そして正論で綾瀬たちを潰しにかかった。グループの3人は衝撃で何も話せていない。


「だとしたら、相当なバカですよ、バカ。結局はそれなりに自信があった自分が無下にあしらわれて、逆ギレしてるだけじゃないですか。本当に恥ずかしいですね。

 そんな事をしている暇があったら、少しでも自分を磨いて振り向いてもらおうとしなさいよ! 少なくとも、私はだったらそうします」


 陽色は毅然とした態度で続けて述べた。そこまで言って、気が済んだのかふと視線を逸すと漣たちの姿を見つけた。

 アッという顔をする陽色と、笑いを堪えている2人の目が合った。


 そんな漣の脳裏には、ある少年の言葉が過っていた。


『お前らは1ミリも自分が悪かったとは思わないんだな。好きな人が自分を好きになってもらえなかったのを、好きな人の好きな人に八つ当たりして。恥ずかしいな、本当に。少しは自分を磨くとか、そういうのをしようとも思わない訳? だからだろ、お前を好きにならなかった理由』


 それは、中学時代の右京だった。


 それを思い出して笑いそうになりながら、漣はこう思った。


(お前ら、やっぱり付き合った方が良いよ。似た者同士だ)


 漣は堪えきれず、笑い出してしまった。

 それに気付いて綾瀬たちは、一斉に漣の方を見た。大いに驚き、困惑し、今度は弁解をしだした。


「いや、これは……その……そう」

「いや、良いよ。全部撮らせて貰ったから。これ、右京が見たらどうなるかな? 相当怒るだろうな〜。どうしよっかな〜?」


 しどろもどろになる綾瀬に、漣は畳み掛けた。


「くっ……」


 綾瀬はそれに唇を噛むことしか出来なかった。


「じゃ、もう良いでしょ。二度と、右京と右京の関わる人に近付かないで貰えるかな。悪影響だ」


 漣は先程まで爆笑していたのを一瞬で消して、無表情にした。最後の方は吐き捨てるように、綾瀬たちへ言った。


「ひっ……。ごめんなさい……」


 綾瀬たちは俯きながら早足で去っていった。その顔には恐怖が浮かんでいた。


「じゃ、陽色ちゃん戻ろっか」


 驚いた顔で突っ立ったままの陽色に漣は呼び掛けた。


「すみません。ありがとうございます」

「いんや、別に〜。おもろいのが見れたから良いや。なぁ天翼」

「ちょっとね……これは面白すぎるよ」


 陽色がお礼を言うと、漣は再び笑いが込み上げてきたようで、天翼もやはり笑った顔をした。


「ひどくないですか?! ウソでしょ?! 助けに来たんじゃないんですか?!」

「いや……最初はそうだったけどね。でもやっぱり……」

「陽色ちゃんが強かった」


 漣と天翼はそうして、陽色をからかいながら日奈たちの元へと歩いて行った。

 絶対これは2話に分けて書くべきだった……。まぁ良いや。

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