22話 右京の諦め
本編の書き忘れを書こうと思って書いたら、予想以上に後々に繋がってしまう風に書いてしまった……。ということで、これはこの流れっていうことにしたいと思います。
陽色の告白から2日後、漣と陽色の腹の探り合いの翌日の話だ。
「こんにちは! 右京くん!」
「またお前か……」
廊下で陽色に話しかけられ、右京はげんなりとした顔をした。
それもそのはずで、本日、3回目程の挨拶だった。休み時間の度に、必ず話しかけられていた。
流石の右京もかなり冷たく当たったのだが、全く意にも介さず、こうして3限と4限の間の休み時間にまたこうして、右京のクラスである、3組の教室に訪れていた。
「何でこんなに来るんだよ!」
「え〜、ほら、よく言うじゃないですか。好きな人の好きな人になるためには、少しでも視界に入ることが大事だって」
「まあ、確かに言うけども……」
右京の言葉に動じず、飄々と言ってのける陽色に、右京は呆れたようで、額に手を当てた。そんな右京を見て、陽色は首を傾げていた。
「お〜、仲が良さそうで」
「隣のクラスと言っても、別のクラスの教室によく来るね」
「おまけに右京に会いに行くなんて、女子の目が……おお、恐ろしい!」
天翼は感心したように言っていたが、漣と清那は確実に煽っていた。そのニヤけた2対の目は右京へと向いている。
「はぁ……別に俺には関係無いだろ」
「ま、そうだわな。陽色ちゃんはちょ〜っぴり危ないかもだけどな」
右京が溜息をつきながら窓の外を見た。そんな右京に漣は忠告でもするかのように、言った。
「危ないって、何でですか?」
陽色はやはり、首を傾げた。天然のパーマが入ったフワフワの髪が揺れる。
「あちゃ〜、知らなかったか」
「意外だね。有名だったと思うんだけど……」
「結構な騒ぎにならなかった?」
「知らん!」
漣はマズいというような表情をし、天翼は苦笑し、清那は右京に問いかけ、右京はまたそっぽを向く。
綺麗な役割分担が為されていた。
「え〜と、そうだね。右京に告白した、4組の女子がいたんだよ。まあいつも通り、こっ酷く振られました〜、と。それで諦めなかったんだよね。しかも、右京に近付く女子を片っ端から嫌がらせだの、何だのして遠ざけたりとか」
天翼が指をピシッと立てながら、説明をした。
「結局、それを右京が現行犯で押さえて、その時やられてた女子を助けて……告られて。で、その陰湿な女子は歯噛みし、キレて……あれは修羅場だったな……」
「私でも笑えなかった…………」
漣が補足をして遠くを見た。清那ですら、無表情になり、顎に手を当てて、遠い目をした。
「え、え〜……。なんか怖くなっちゃうじゃないですか。ぶっちゃけ、そんなことされたぐらいで負けるんだったら、かな〜り弱かったんですね、その女の子たち」
「はははっ! やっぱ強いわ! 面白いわ〜!」
陽色は不思議そうな顔をしたが、漣にはそれを見て笑われてしまった。
「漣。嫌なこと思い出させんな」
「おっと、当事者がいらっしゃった。っていうか、その時に助けた女子は、うちのクラスの子だったんだよね〜。可哀想なことに、ただ近くにいたってだけでそんな風にされちゃっんだから。
挙句の果てに、右京に助けられて、惚れちゃう、と……」
右京からストップがかかったが、漣は聞かずに詳細を述べ出す。
「漣、黙れ。本人が聞いたらどうする」
「悪かったよ。でも、これだけは言っとかないとね。陽色ちゃん。今聞いた話みたいに、嫌がらせされるのが日常茶飯事になっちゃうかもしれない。それでも、右京の近くにいたい?」
右京が漣を止めると、漣は軽く謝り、そのまま陽色に忠告をした。
「別に大丈夫ですよ? 私はそれをぶちのめして、右京くんの彼女になります!」
「よし、その意気だ!」
「その意気だ、じゃねえよ! 彼女なんかいらない! お前はさっさと帰れ!」
「分かりました。じゃあ、また昼休みですね」
「じゃ〜ね、陽色ちゃん」
「二度と来るな!」
陽色は帰って行ったが、右京の憂鬱なことがまた1つ増えてしまった。
そして、陽色は宣言通りに、昼休みに右京の教室を訪れ、放課後にも押し掛けた。
なんだかんだで、右京も流されて、一緒に校舎を出る。漣たちも後ろからついてきている。
「何でこんなに話しかけて来るんだよ! 普通は諦めるだろ!」
右京は呆れというか、最早驚きで叫んでいた。ここまで積極的になられることが無かった。
多少自分に自信がある人はいたが、最初の告白の段階での右京が冷たい反応で、心が折れていた。
だが、目の前の不思議な少女は諦めることはなく、寧ろ更にヒートアップしている。
「う〜ん。普通ってなんですか?」
「は?」
陽色は右京の言葉に、真剣な表情で返した。
「普通って言うのは、一般的という意味ですよね」
「そりゃそうだろ」
「ですよね。でもそれが、全員に当てはまる訳ではないのは分かっていますよね」
「例外は何事にもあるからな」
「だから、私はあなたの普通を壊すんですよ。じゃないと、あなたは私に振り向いてくれない。そのためには、その普通を超えないと、絶対にあなたが私に気付いてくれない。だから私は、あなたの高い壁の外から、あなたの名前を呼び続けます。
そうすれば、その内答えてくれるようになるでしょう?」
右京の前を歩いていた陽色はくるりと回転しながら振り向いた。その顔に浮かぶ笑顔は、右京ですら見とれてしまう程、綺麗で、輝いていた。
右京は暫く固まった後、はぁ〜、と深く溜息を吐いて頭をかいた。
「もう良いわ。お前に関して、俺は考えるのを一切やめる。好きにしろ」
「言われなくても、好きにしますよ」
「そこは自重しろ!」
諦めた右京に、陽色は当然と言わんばかりの顔で返した。つくづく、癇に障る奴だと右京は思った。
右京は先程の陽色の笑顔を思い出した。
それは、記憶の片隅にあるような、そんな気がした。




