16話 勉強会 1
「うん? どうした、陽色と漣。降矢さんの方見て」
じっと降矢の方を見ている漣と陽色を見て、右京は首を傾げた。
「いや、そういや旧財閥の1つが降矢だったなって思っただけだ」
「私もです」
漣は何でも無かったように手を振りながら、陽色は澄まし顔でそう言った。
「? そうか」
右京はやはり首を傾げながら、バイトに戻った。
テーブル席のお坊ちゃんとお嬢様は、
「(あれって、そうだよな)」
「(ですよね。私もそう思います)」
と顔を突き合わせて、聞こえないように会話をしていた。
チラッともう一度陽色は降矢の方を見て、
「(やっぱり、あの人。あの降矢の会長の奥さんですよ)」
と言った。
「(何でこんなとこいるんだ?)」
「(まあ、プライベートですので、詮索は出来ませんよね)」
漣は不思議そうな顔で尋ねたが、陽色は溜息を吐いて首を振った。そんな会話をしている傍らでは、天翼が頭を抱え、清那がそれを見て笑ったりしていた。日奈はそこそこ成績が良いようで、普通に1人で勉強していた。
「お待たせしました。アイスコーヒーとアイスカフェラテです。何話してんだ?」
その時、丁度右京が注文の品を運んで来た。ついでに漣と陽色が話していたので、内容を尋ねてみた。
「いや、何でも」
と言って漣は右京が運んで来たブラックコーヒーを口に含む。
「うわ、お前よくブラック飲めんな。意味分からん。めっちゃ苦いだろ」
右京は漣を見て顔をしかめた。
「そうでもないだろ」
漣は大して何も感じていないように返した。事実何も感じていなかった。
「へ〜、右京くん、ブラック飲めないんですね〜…………」
陽色がニヤニヤしながらそう言うと、
「なんだ? お前もカフェラテのくせに」
「私は今日はカフェラテの気分だったんです〜」
「嘘つけ! 一回も見たことないわ、ブラックなんて飲んでんの」
と右京はバイトを忘れて、喧嘩のように言い合いになってしまった。
「すみませーん、注文良いですか!」
と客から声が掛かり、右京はハッとしたような反応をして、そちらを向き、注文を取りに行った。
「ご注文お伺いします」
右京がそう言うと、大学生位の女性客は
「え、店員さんカッコいいじゃん!」
「マジで! え、連絡先教えてよ〜」
と右京に絡んでいた。
「そういう店ではないので、失礼します。ご注文はお決まりでしょうか」
右京は表情を変えずに、毅然とした様子で返した。
だが、相手はそれでも諦めなかった。
「え〜、いいじゃん。教えてよ」
「そうそう。そんなにカッコよければ、こんなん慣れてるでしよ」
2人は食い下がってくる。その後も右京が強い言葉が出そうになるのを抑えて、優しい言葉で断ろうとしても、ずっと諦めずに、話しかけてこられ、右京は顔が引きつりだしていた。
右京が強く言い返そうとした時、漣が間に入った。
「ちょっとちょっと! お姉さんたち。場所考えてよ。ここは静かに時間を過ごすカフェですよ。あんた達の逆ナンの場所じゃないの! さっきからみんなあんたらにイラつきの視線送ってんの気付こうぜ。いい加減、あんたらもガキじゃないんだから」
漣は歳上の人に言うのにしては珍しく、雑な言葉遣いで2人の女子大生に言った。そして、周りを指差す。
それに沿って、2人が視線を動かすと、店に入っていた客――ほとんど老人だが――が全員そちらを見ていた。
それに気付いた2人は恥ずかしそうにもじもじしながら、注文を言い、静かになった。
漣はテーブルに戻って、
「はぁ〜! 疲れた!」
と息を吐いた。そんな漣を見て、右京は
「すまんな。迷惑かけた」
と謝った。
「いやいや、迷惑してたのはお前だろ。ですよね〜、店長」
漣は笑って手を振りながら、カウンターの向こうにいる店長に向けて話しかけた。
「そうですね。うちの大事な従業員が減ってしまったらマズいですからね」
と白髪の老人は笑ってコーヒーを淹れながら静かにそう言った。
そんな話をしている横で、陽色は1人、頬を膨らませていた。
(まさかこんな所で右京くんが危険に晒される可能性があるなんて! 気を付けなければ……でも右京くんは女嫌いでしたね。思ったよりも大丈夫そうです)
と1人で考えていた。
日奈はそれを見て、少し渋い顔をしたが、すぐに自分の参考書に目を落とした。
その全てを漣は俯瞰して、笑ってコーヒーを飲んだ。
「漣くんは勉強しなくていいんですか」
陽色はふと思い出したように漣に問いかけた。
「あ……」
漣は呆けたような顔をして、間抜けな声を上げた。
その後、急いでテーブルの上に参考書や教科書、ノートを出して、勉強に取り組んだ。
更新がめちゃめちゃ久しぶりなような気がする。




