14話 体育祭 10
右京は今までで1番良い笑顔でゴールした。
「はは……あんな顔、見たことねえや」
漣は少しだけ寂しそうな笑顔でそう呟いた。
天翼はそんな漣の顔を見上げて、
「これは、漣くんの努力のお陰だよ。喜ばないと」
と言った。
「そうだな……!」
漣は、そう言う天翼を見て驚いたような顔をした後、いつも通り笑った。
その後、漣は右京の元へと走って行き、
「うきょ〜〜〜〜〜!! よくやった!!」
と肩を組んだ。
天翼もゆっくりと歩いて行って、
「気は晴れた?」
と笑いかけた。
「おう! 最高に良い気分だ!」
右京もピースサインをしながら、笑い返した。
その後、右京は見回すような仕草をした後、どこかを向いて笑いかけた。どこか得意げな顔だった。
その方向からは大きい歓声(悲鳴?)が上がった。
漣は右京の視線を追うように、その方向を見てみると、そこには陽色の姿があった。
陽色は胸元に手を当てて、惚けていた。右京の笑顔にやられたようだった。
(へー……、いいじゃん)
漣は右京の変化を感じて、思わず笑いかけた。
「うん? どうした、漣」
「いやぁ、何でも」
ニヤけかけた顔を隠すために急に俯いたのが悪かったのか、右京が不思議そうに漣に尋ねる。漣は急いで顔を戻して、上を向いて返した。
「氏王! ガチで走ってくれたんだな! ありがとう!」
横田はうるさく叫びながら、右京たちの元へと走ってくる。
「ちょっと、横田! うるさい!」
「ん? あぁ、すまんな」
横にいた清那が耳に手を当てながらそう言うと、横田は申し訳無さそうに顔の前で手刀を切った。
「氏王〜〜!」
「ナイスだ!!」
「すご〜い!」
右京のクラスメイトが次々と駆け寄って来て、右京に対して、感謝と称賛の意を伝える。
だが、あまりにも同時に沢山の人たちが来るため、右京は困惑してしまった。
「え、あ、うん……」
右京は手を横に振ってオロオロとした。
「ははっ! 右京が困ってっぞ。ほらほら、落ち着け」
漣がそんな右京を面白がりながら、周りを落ち着かせる。
それを聞いて我に返ったのか、少し気まずくなって、俯くようになった。
「すまんな……」
「ごめん…………」
口々に皆は謝りだした。
「いや、良いよ。ありがとう」
右京はそんな皆を見て、微笑みながら逆に感謝の言葉を述べた。
「皆があんな風に言ってくれたから、気持ち良く久しぶりに全力が出せたんだ。むしろ、謝らなきゃいけないのは俺の方だ。今まで散々手を抜いてきたから……。ごめんな」
右京は急にばつが悪そうな顔をして、頭を下げた。
それだけで皆はとても焦りだした。
「いやいやいや、俺たちがもっと速ければこんな風になんなかったし!」
「そうそう! 私たちだって、氏王くんが目立ちたくないって思ってたの知ってて、あんな風にしちゃったから……」
と、お互いに謝り出すという不思議な状況になってしまった。
顔を上げた時に皆と目が合ってしまい、思わず吹き出したりした。
「ほら、皆。退場だよ」
天翼の呼び声にその場の全員がハッとして、急いで列に並び出した。
皆笑顔だった。
「右京、良かったな」
「あぁ、お前のお陰だよ。ありがとな」
漣が右京に話しかけると、右京は笑って返した。全て見透かされたような言葉だった。
(この王子様は……)
そう思って、漣は溜息を吐き、頭をガシガシとかいた。
「そういや、わざわざ陽色ちゃんの方見て微笑むとは、どういう気の変わりだ?」
気を取り直すように、漣が尋ねると、
「え、俺そんな事やってた?」
と右京は尋ね返した。
「お前……、いや、良いわ。お前はそういう奴だったな。すまんな」
漣は思わず出そうになった言葉を飲み込んだ。
「なんだよ。そうか……そんなことしてたか」
「してたよ」
驚いたように呟く右京に、漣は冷静に指摘した。
そうして、体育祭は終わった。
優しい世界……あれ? 悪口言ってたやつ……いや、いないな。やっと体育祭が終わった……。




