10話 体育祭 6
「お〜、出てきた出てきた」
「何か表情ヤバくない?」
「あれは……怒りと諦めが混じった顔だな。てか、諦めてんなら怒んな」
「納得出来てないんじゃないですか?」
「やれやれだな」
運動部の男子にガッチリと足を捕まえられた天翼を見て、様々な感想を言う4人。皆、1人だけが置いて行かれてることに気付いていない。
(え、私ここに居ていいの? なんか、え? どうしよう……)
日奈はだいぶ困惑していた。
陽色はこれを面白がって放置してる感じが強かった。
なんやかんやで話していると、騎馬戦が始まった。
天翼たちは積極的に攻めていく。手を出されてもそれをひらりと避けて、相手のはちまきを取っていく。
それを数回繰り返した結果、天翼たちのクラスの一人勝ちとなった。なお、同じ団のクラスは速攻ではちまきを取られていたための、一人勝ちだ。
「え……、なんか天翼くんおかしくないですか? 強すぎでしょ!」
「ほらね?」
「予想通りだったな」
「派手にやったな〜」
陽色が驚いていると、当たり前かのように3人は頷いた。清那に至ってはドヤ顔だった。
「清那が何でドヤれるのかは分からんが」
「え〜、空井くんスゴイなあ」
右京がそんな清那に呆れていると、日奈からも感心の声が上がった。素直にそう思っているようだった。
「さて、そんなことはどうでもいい。次は……」
「女子の皆さんお待ちかね! 清那さんのハードル走だ!」
そんなふうに話していると、右京と漣が息を合わせて、清那を煽る。もちろん笑顔も忘れていない。
「お前ら、あとで覚えとけよ」
清那は恨みの籠もった目で右京たちを睨んだ。
「って言ってるが?」
「天翼、盾にすりゃこっちの勝ちだ」
そんな怨念を気にせずに、話を続ける漣と右京だった。
日奈はそんな3人を見て、おろおろと困惑していたが、それに気づいた陽色が日奈に言った。
「大丈夫、いつもこの人たちはこんな感じだから」
「いつもこんな感じなの!?」
右京たちの会話のやり取りに素で驚いたようだった。
基本の会話のベースは煽り合いであることは、中々無いことだろう。というか、滅多にないと思う。
初めてここの会話を見た人はこんな風になるのかもしれない。
「ほら、早く行ってこいよ」
「言われなくとも、行くけどさ! あぁ……、やだよ〜。女子からの歓声怖いよ〜」
「それは俺のほうが怖いんだよ」
「あ、うん……なんかごめん」
「別に」
駄々をこねる清那を急かす漣に真面目な表情の右京、普通に謝ってしまった清那という謎の構図が出来上がってしまった。
だが、こんなのもいつまでも続くわけではないので、諦めて清那は「イヤだ……いやだよ〜」と呟きながら歩いて行った。
「アイツ早く腹括れよ」
「いや、それお前が言えねえから」
清那を見て溜息を吐きながら右京が言うと、漣から鋭いツッコミが入った。事実として、百メートル走をギリギリまで嫌がっていたのが右京、その男だった。
すると、天翼が戻ってきた。かなり疲れたような表情だった。
「お疲れー」
「うん、ホントに疲れたよ……」
漣が天翼に労いの言葉をかけると、天翼からは死にかけている人のような声で返ってきた。いつものような落ち着いた、可愛げのある声ではない。
「やっぱお前が勝ったな」
「スゴイですね! 天翼くん!」
勝って当たり前、というような顔をした右京と、素直に称賛している陽色が声をかける。
「うん、次は清那ちゃんだよね……」
「はい、そうですけど」
「よし、じゃあ見ようか」
「静かにしろよ。女子の歓声が上がるからな」
4人とも皆楽しそうだった。
基本的に5人とも性格は悪いのであった。
今度は右京たちは、置いてけぼりの日奈に気付かない。
(私……ここに居ていいの? ほんとに……)
最早諦めの念まで込み上げてきた日奈の背中には、哀愁が漂っていた。
日奈を放置している事実に気付いていない4人は、
「お、出てきたぞ」
「もう既に歓声がヤバいな」
「俺よりもアイツのほうがモテてね?」
「「「それはない」」」
「さいで」
と会話を続けていた。
会場は歓声に包まれている。
右京のときと同じぐらいか、それ以上はあるかもしれない。その人気の理由。
それは、女嫌いの王子様とは違う紳士的な対応だった。
右京は性格上、女子に優しく出来ない。それを補うかのような女子であるイケメンな清那の誠実な対応が人気を博した。
その結果、この非常に高い人気だった。
自業自得とも言えよう。
こればっかりは自分のせいだな、と肩を竦める右京だった。
どれぐらいの女子のハートが撃ち抜かれるか、見ものの清那のハードル走が始まる。
体育祭にかかり過ぎじゃないかな? 不安になってきた。




