1話 女嫌いの王子様
ここは、私立桔梗学園高等部。偏差値70を超える、進学校でもあり、様々なスポーツにおいて、優秀な成績を修めている名門校である。その高校の校舎裏にて、男女一組がいた。どうやら、女子の方が男子に告白するようである。いわゆる、青春の1ページだ。女子の方も薔薇色の高校生活を送りたいのであろう。
男子の方を見てみれば、なるほど、顔立ちが整っている。少しフワフワとした毛先、色素の薄い金色に近い色をした髪、すっと通った鼻筋、涼し気な目元、スラリと伸びた足。非常にモテそうである。
そんな男子に向かって、緊張しつつ
「し、氏王くん、好きです! 付き合ってください!」
と顔を赤らめながらも言った。
それに対し、氏王と呼ばれた男子は、
「アンタ、誰? 俺は知らないけど。別に興味ない」
とだけ言って、その場を去っていった。
女子はというと、泣きながら別の方向に走り去っていった。
氏王の方はというと、
「右京〜! また告られたのか。女子の皆さんもよくやりますな〜」
と元気の良い声が聞こえてきた。
その声の主は、氏王――下の名前は右京のようだ――の友達のようだ。その男子は、氏王の友達なだけあって、こちらも少し軟派な印象を受けるが、美青年ではある。パーマのようにうねった髪、少し赤みがかっている。優しそうな印象を受ける目元。2人が並ぶと中々絵になる。
「うるさいな。つか、着いてきたのかよ。キモいな、漣」
と氏王は返していた。
「ホントにお前は女嫌いだな。そこまでしなくて良くないか? 泣いてたぞ〜」
「それを見てるお前も悪趣味だぞ」
2人は仲が良さそうな感じで話していた。
すると、そこに
「あ、漣、右京。どうしたの〜? 2人してこんな校舎の裏で」
と中性的な声が聞こえてきた。
2人が向いた方向には、140から150センチほどの低めの身長に少し長めの髪という。女子のような男子であった。こちらは、美少年といった感じの可愛い雰囲気だ。
「ん? あ〜、また右京が告られてたの。高校入って何回目?」
「知らん。そんな何回も数えてられん」
「またなんだ。多いね〜。右京も大変だね」
この3人はどうやら友達のようであった。
その時、チャイムが鳴った。
「あ、予鈴だ。昼休みが終わるよ。5限目、体育じゃない? 急ごうよ」
天翼は2人を急かすように言った。
「大丈夫! 体育は谷さんだから! 別に遅れても怒られないよ〜」
と頭に両手を回して、暢気な声を上げたのは、漣だった。
「まぁでも、遅れないにこしたことは無いだろ。天翼が怒る」
冷静に言ったのは、右京だ。
「じゃあ、走りますか……」
と言って3人は更衣室へと走り出した。
「おいおい……。ギリギリに来んなよ……。面倒だろ。次からは、早めに来いよ、氏王、風凪、空井……」
と体育の教師は面倒くさそうに言った。
「まぁまぁ。次からは気をつけますんで、ね?」
と親しげに話しかけたのは、漣だ。
「ごめんなさい! 次からは気を付けます」
「いや、ごめんなさいじゃなくてだな。敬語はどうした」
頭を下げながら言ったのは、天翼だ。
「さ〜せん」
短く言葉を発したのは、右京だった。
「お前ら……、もう良い。早く並んどけ。はい! 準備運動やれよ〜!」
と先生は呆れた様子で、クラスの全員に呼び掛けていた。
列に戻った右京に
「おい、またやらかしたのか?」
と一瞬男子に見える女子が、話しかけてきた。彼女は、女子にしては短く切った黒い髪、少し冷たい印象な目尻、男子と比べても高い身長といった、完全にイケメンな女子であった。
「うるさいな……、清那もよくやらかしてるだろ」
と右京は頭をかきながら言った。
「いや、私は一応優等生で通ってるからな。そんなことは無いんだよ」
「くっそ! 俺のほうが成績はいいのに! 何でだよ!」
と清那は自慢気に言い、右京は悔しげに言った。
「まぁ、日頃の行いだよね。右京はいつも女子をこっぴどくフッてるからね」
「別に良いよ。もうダルいから、真面目に授業を受けるぞ」
「は〜い」
と言って2人は今まで全く聞いていなかった、先生の話を聞き出した。
その後、放課後になって、
「よし、帰るぞ〜、右京」
「ん? あぁ、誠に残念ながら本日は2度目の校舎裏だ」
と呼びかけた連に右京は返した。
「え〜、今日告られるの2回目だよね~。すごいじゃね。」
「いや、ここまで来るとただただダルいだけだから。さっさと帰りて〜」
「なら、さっさと行きなよ。ほら、お相手さん待ってるよ」
嫌がる右京を急かしたのは、清那だった。
「あ〜もう! 分かったよ! 早く終わらせてくるから待っとけ!」
と言って右京は走って出ていった。
「何分で帰ってくるか、賭けない?」
とふざけた調子で言ったのはやはり漣だ。
「良いね〜」
「ちょっとそんなことしたら、相手側が可哀想だよ」
と、3人は話しながら右京を待っていた。
一方、右京はというと、
「うわ、やっぱり待ってるよ……。行きづれぇな。うし、早く終わらせよう!」
と言って校舎の角から相手の方へと向かった。
「あ、氏王くん、来てくれてありがとう。わたしの名前は、柊陽色です。私はあなたのことが好きです。付き合ってください」
と目の前の女子――陽色は言った。彼女は、少しフワフワとして肩ぐらいまでのベージュ色の髪に、キレイというよりかは可愛いという感じの顔立ち、天翼より少しだけ高くなったぐらいの身長という、中々モテそうな見た目ではあった。
それを見た右京は、いつも通り
「あんた誰? 知らないな。興味ないんで、帰ります」
と言って去ろうとした。
その時、陽色は、
「待って! 氏王君……、あなたはずっとこんな感じで女子をフッてきたの? うわ〜、いつか女に殺されるね。あれ〜? 優しい人だと思ったんだけどな」
と1人で首を傾げながら言っていた。
「は? お前何言ってんの? 俺は女子に優しくすることは無いぞ!」
と右京は、急いで振り向いて言った。
「まあ、ベタな捨て猫拾ってるところとかは見たこと無いけど、あなたが迷子を交番に連れて行ってるところは見たかな? あれ、あなたでしょ?」
と陽色は、笑いかけながら言った。
すると、右京は思い当たるところがあったようで、
「あ、あれか〜……。くっそ、見られてたか。つか、ここでその話をしたら……」
と急に右京は焦りだしたかと思えば、
「あれあれ〜? 右京君そんな優しいことしてたの〜? 良い人だね!」
とどこかからかうような感じの声が聞こえてきた。
声の主は、漣だった。
「漣! 何で来た! よし、今からお前を殺す!」
と右京は怒ったようだった。
「あ〜、なんかすみません。フラレちゃったな。まぁ、諦めるつもりはないので、漣さんでしたっけ? ラインを交換しましょう! できれば協力を」
と陽色は言った。
「お? 良いね〜。君、見所があるよ。右京に顔でなくて、中身で惚れるとは。いいよ、協力してあげよう。そろそろ、女嫌いを直して欲しかったからね」
と言って連絡先の交換をしだした。
右京の日常はここから少しずつ変わり始める。