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0003:誰も知らない黒歴史


スピカ・エルトランゼが魔力過多症と診断されたのは、スピカが20台半ば歳だった頃である。

スピカの成長は、小さい頃は同年代の子供たちと変わらなかったが、10代はじめ頃から徐々に減速し始めた。多少の個人差があるとはいえ、20代にさしかかってもせいぜい15歳程度にしか見えない、周りから距離を取られ始めたスピカに助言を与えたのは養父だった。


「神の愛し児とか、あるいは単純に愛し児と呼ばれる人間がいるのを知っているか?」

「いえ。師匠。ごめんなさい。」


緩く頭を振ったスピカに、老齢の養父はふむ、と考えた。


「農村の人間の平均寿命は60年か70年、貴族は70年を越えて100まで生きる者も少なくない。これはもちろん個人差や持病、体質、食事の質や量、かかれる医療が関係はするが、持っている魔力の量が関係していると考えられている。貴族は特に魔力が多い者が珍重される。貴族の血統には魔力が強い者が優先的に組み込まれる。」

「へー。」


まるで牛馬や草花のかけあわせのような話だ。耳に心地よい話では無いが、しょせんは他人事なので軽く流す。


「だがどういうわけか一般庶民の家系にも時折魔力が極端に高い人間が生まれる。貴族のそれとも桁が違う。それが魔力過多症というやつだ。

簡単に言えば遅老長寿というやつだな。詳細は不明だが数百年若いままの姿で生きるという。」

「それは病気、なんですか?」

「生まれ持っての体質を病と呼ぶか個性と呼ぶかは自分自身で決めるのが良いだろう。

まあしかし・・・この魔術師崩れの弟子が愛し児とは。皮肉なものよ。」


スピカは孤児だ。年齢も親も、自分の名も知らない。


スピカの最初の記憶は育ての親であり、魔術の師でもあった老人とともに暮らした日々である。

養父は貴族の末端として生まれ、魔術師を目指したが、残念ながら最低限の魔力しか持たないとわかり、生家を追われたそうだ。

攻撃的な魔術の適正は無く、生きる糧を得るために薬師として薬草を煎じ、とある田舎の村の人々と静かに暮らしていた。水を出したり炎を出したりといった珍しくもないちょっとした魔術しか使えなかったが、薬師としての仕事を十分に楽にしてくれた。

彼は貴族の魔術師でなく平民の薬師として細々と暮らすことになった。


妻を娶るわけでも子をなすわけでもなく淡々と暮らしていた老人は、庭先に捨てられていた子供を弟子としてを迎え入れた。それがスピカだ。


老い先短くなって心が弱くなったのかもしれないし、あるいはこのまま自分が培ってきたものを途絶えさせるに忍びないと思ったのかもしれないし、気まぐれだったのかもしれない。ともあれスピカは彼の養子となり弟子になった。


スピカの親のことは養父も全く知らないと聞いた。

碧の目はともかくとして、軽く癖のある艶やかな黒の髪に碧の瞳は東方の民との混血に思われたが、赤ん坊をくるんでいた布にすら何の手がかりも残されてはいなかったとのことで、手がかりも何もない。

とはいえ、養父のもとスピカは薬師見習いとしてすくすくと育った。

師が教えてくれたのは薬の作り方だけではない。火のおこしかた、水のくみかた、文字の読み方、計算方法。人として生きるのに必要なことを順に教えてくれる老人は厳しくはあったが優秀な師でもあった。


スピカが愛し児であると判明したのは10代の半ば、老人がいよいよ弱ってきた頃だった。


愛し児は10代半ばまではふつうの人間と見分けがつかない。魔力量を測る機材は王都には存在するそうだが、一般庶民がそんなものを必要とすることはまずない。そもそも愛し児自身がとてもまれな存在であるため、成長する前にその子供が愛し児だと事前に知ることはまずないとも言われる。

スピカ自身も例外でなく十代の半ばになるまで自分が愛し児だとは知る由もなく育った。


十代半ばごろからゆっくりと成長が遅れはじめ、二十代半ごろにはぴたりと止まった。それをいぶかしんだ養父が調べてそれがわかったのだ。


愛し児はゆっくりと成長し、20代半ばほどの見た目で成長が止まってしまう。そこから数百年同じ見た目で生き、寿命間近になると老化が始まり、数十年かけて老化し亡くなるそうだ。

何百年生きるのか、正確なところはわからない。これは愛し児の記録がほとんど無いことが大きい。愛し児のほとんどが表舞台に出ることはない。世界のどこかで生まれ、どこかで没する。


拾い子が愛し児と知り、老人があきれたように笑ったのを今でもよく覚えている。魔術師になるには魔力が少なく、結局は日々の糧を得るために薬師として生きざるを得なかった男が拾った子供が愛し子とは。運命も皮肉なものよ。と。

結局老人はスピカに生きてゆくための知恵と薬の知識と簡単な攻撃魔法をほんの少しだけ、そしてちょっとした財産を遺して亡くなった。


老人の知識と小さな家を受け継ぎ、スピカもまた薬師として暮らすことにしたが、養父が没して数十年してその村を離れることになった。

幼なじみとして育った友人たちはどんどんと年をとり、昨日生まれた子供に背を抜かされる。かわいがってくれた大人たちは亡くなってゆく。そのことさらに冷たくされたわけでもないが、いのちの長さの違いにだんだんと居心地が悪くなっていったのだ。


この世界には魔王がいる。一度倒せば千年は蘇らないとは言われているが蘇っても数百年の間は休眠期でほぼ無害。そのかわりに居場所もわからない。徐々に魔物が凶悪になり、これを覚醒期と呼ぶ。徐々に徐々に、人の世界は浸食され、世界は絶望へと彩られていく。


その頃はすでに魔王は北の果てに存在はしたものの、覚醒期にはいったばかりだったそうだ。

さほど魔物のはたらきはまだ活発ではなく、それほど危うい時代では無かったのだな、というのは後日アーサーと旅だってからの感想である。



次の町に行っては十年、また移動しては十年、と暮らすうち、いつしかとある森の中の小屋に流れ着いた。

その小屋には古い魔術の教本が転がっていて、スピカはそこを終のすみかと決めた。薬をつくり、近くの村へ卸したり魔術を勉強しながら過ごした。


そこで暮らすこと約100年したある日のことだ。


近くの村で生まれ育った少年、アーサーがスピカの住む小屋までやってきたのは。


スピカの小屋には村人たちは好んで近づかない。薬師として定住してくれていることに感謝はするが、同時に薄気味悪いと思われていることは知っていた。反面子供たちはときどき現れた。それは偏に一種の肝試しとしての目的ではあったが。


スピカにとってもそんな子供たちは、踏破記念にと軒先に吊してあったハーブを一本引き抜いていく敵であり、同時に気まぐれに季節の変わり目を知らせる鳥の鳴き声のような時候のしおりのような存在だった。


スピカの家の庭先からひょいと窓ごしにのぞき込んできた若干10歳にも届かないような少年。これがのちに勇者として旅立つことになるアーサーだった。


勇者候補とは神殿から祝福を受けた武器を授かり魔王を倒すべく旅に出る者のことだ。魔王はこの武器によってしか倒せない。

武器を授かるには資質がいるというが、何人がそれになるかは一般庶民には知らされない。その並みいる勇者候補の中で魔王を倒す栄誉にあずかれるのはたった一人。勇者候補のなかたった一人が魔王を倒して初めて勇者と呼ばれる。

かつて魔王を倒した勇者たちは神話となり、国の美姫を娶り王となったり新しく国を興した者もいるという。


スピカが村に居着いてすぐに魔王が現れたという噂を聞いた。

そんな勇者となることを夢見る子供たちは多い。アーサーもまたそんな一人であり、彼が生きた時代には運良く魔王が現れたのだ。


アーサーは変わり者だった。そんな幼い夢を単なる夢ではなく、真剣にそうと決め、努力をする子供だったのだ。


ほとんどのこどもたちが一度スピカの小屋を訪れると、スピカがおそろしい老婆でも異形の化け物でもないことに気付いてそれきり興味を失うのに、アーサーはそんなこともなく毎日のように小屋までやってきた。


アーサーがほしがっていたのはスピカではなく村のだれにもからかわれずに剣を振るう場所だった。アーサーは魔王の侵攻により国が弱っていくのを憂い、勇者として旅立つことを夢見ていた。


どちらかといえばスピカもまた村の大人たちと同じことを思っていた。


こんな貧しい辺境の村から勇者など出るはずもない。


口に出さなかったのは単に、この子供を追い返してしまえば、また自分が聞くのは時折聞こえる鳥のさえずりだけ。いつのまにかスピカはその子供の声が聞こえなくなることに寂しさすら感じるようになっていたのだった。


そんなことをしている間にも子供はいつの間にか大きくなっていた。成人となる15になると同時に村を出て王都へ向かい、勇者として魔王を討つために旅立つと。


5年間毎日のように繰り返されてきたその言葉に、口からこぼれたのはいってらっしゃい、でもまあがんばれ。でもない。私も行く。だった。


この村に来るまでの間に旅もしていた。ノウハウはあったし、日銭をかせいだり素材を集めるのに冒険者として登録もしていた。

いつのまにこれほどにほだされていたのだろうか。悔しくもあったがそれ以上に嬉しかった。

スピカとアーサーでは生きる時間が違う。そんなことはわかりきっている。だがいつか訪れる、いつもと同じ離別を、これほど先延ばしにしたいと思ったことはなかった。


王都までの間に多くの別れと出会いがあった。


その中でも忘れられない出会いがある。弟子であり、息子として迎えることとなった、スピカ自身がルークと名付けた幼いドラゴンだ。


それはとある忘れ去られた地下迷宮へと迷い込んだときのことだ。

迷宮の核となる祭壇の中心には美しい水晶のような魔石があった。これまでに見たことがないほど大きな魔石だと思ったスピカが触れた手の中でそれは割れ、中から小さな小さなドラゴンの幼体が出てきたのだ。


それまではワイバーンなどの下等竜種などとは戦ったことがあるが、こんな小さな個体にはあったことがなかった。というか、ドラゴンの幼体という概念自体がなかった。

ドラゴンは人間の敵だ。たとえ下等だといえども油断できない敵でもある。この鱗がやわらかいうちに殺しておくべきだと、そうも考えた。

けれど結局、スピカはその小さなドラゴンはルークという名をつけ、スピカが契約魔獣として冒険者ギルドにそう登録し、連れ歩くことになった。運よく幼竜を見つけたのでテイムすることになった。と言えば、驚かれ目を離すなよ。と忠告をもらうことはあったが、調教して従えた魔物はその魔術師の財産だ。直接的に排除するような者は少なく、時折声を大きくして非難したならずものにはスピカが直接喧嘩を売り返した。


王都へと着く頃には、ルークは変身能力を得て五、六歳の子供に化けて歩くことが出来るようになっていた。

能力が弱かったからなのかそれともそれ以外に何かがあったのか、どれほどがんばっても頬に青銀の鱗が残る癖はあったが、呪いをかけられた子供として深くローブのフードを被せれば同情する者も多く、ただの子供として扱われた。


思えばそこがスピカにとって、旅の最高潮だったようにも思う。


王都に着いて、アーサーは出会った少女と恋に落ちた。


それがおしのびで城下にやってきていた姫君だったというのは、後日聞いた話だった。


そこからはまあ珍しくもない話だ。


姫君とアーサーは将来を誓い合い、この国を脅かす魔王を退治した暁には結婚しようと約束をした。


スピカはそれを聞いてちゃんとアーサーをからかい、おめでとう、と言った。ルークを抱く手は震えていたけれど。


王都を出てからが旅の本番だ。北へ北へ、旅をしながらまた出会いと別れを繰り返した。

その中で残ってくれたのが旅をした仲間たちだった。


癒しの力を持つ聖女サーシャ。

義賊の頭領の娘ベルガ。

田舎者の騎士見習いリゲル。


そしてアーサー、スピカ、ルークの六人で旅を続けた。




彼らは優しく、ルークを見ても驚きはしてもちゃんと仲間として認めてくれた。特に女子二人とは仲良くできた。ベルガとリゲルの喧嘩ップルはサーシャといっしょにからかいながら応援したり、いっしょに繁華街に出かけて女子会を称して酒を飲んだり。


増えた仲間とともに北へ、北へ、北へ。


魔王の住まう北の果てへ。


魔王を倒せばこの過酷な旅が終わる。皆が解放される。国は平和を取り戻し、そして、そして、そして。



アーサーは勇者として、王家に迎え入れられる。




その事実は、スピカの胸の奥ちくりと刺さったとげのようなものだった。

普段は忘れられても、ふとした瞬間に思い出す。星のきれいな夜に、朝焼けの空に、不意に。


そこでたとえば一歩足を踏み出すのをためらえば、それきり二度と動けなくなるだろう。たとえばほんの一瞬詠唱をためらえば、魔物が首を刈り取ってくれるだろう。


けれどスピカも、仲間たちも生きたまま魔王のいる北の果てへとやってきた。


空は四六時中曇り、朝か夜かもわかりづらい不毛の大地。

大地にも水にも毒が混じり、特殊な装備をしていなければ息をすることすら難しいようなそんな場所。絶え間なく凶暴化した魔物が襲ってくるし、精神から体まで、誰も彼もがぼろぼろで。


それでも生きてそこまでたどりついていた。




そうして明日には魔王の住む山へと向かおうと、最後の休息になるかもしれないと、かつて村か何かがあった残骸の中で、スピカが大盤振る舞いで強固な結界を作り上げ、そこで食事をして、それぞれ適当な物陰で横になった。

スピカも小さなドラゴンの形をしたルークをいつものように胸に抱え眠って。


スピカは真夜中にふと目を覚ました。


腕の中で眠るルークを起こさないように、そっと腕を抜き出して体を起こす。


静かな夜だった。

どこかの物陰で眠る仲間たちの気配もしない。真っ暗な世界に目は慣れ、けれどいつものどろどろとした疲れは不思議とどこかに行っていた。


明日にはすべてが終わるのだ。


こんな風に朝か夜かもわからないところで絶え間なく戦って、美味しくもない保存食と魔物を食べ、泥のように眠り疲れがとれていないのに起きて進んでまた戦う日々が終わるのだ。


過酷な日々が終わり、王都へ戻って報償をもらう。


魔王を倒した冒険者はかなりの報償をもらうことができる。


願えば平民でも貴族として取り立てられるし、領地をもらって領主となった者もいる、年金を生涯もらった者もいるし、冒険者のまま気楽に暮らした者もいる。


そう、姫を賜り、王となった者も歴史の中には存在する。


だからきっとアーサーも王となるだろう。




・・・・・・・・・そんなの、見たくない。



こんな土壇場で怖じ気付くならまだしも、何で今更一度はあきらめたものを諦め悪く駄々をこねなければならないのか。スピカはうんざりしながらため息をついた。


生まれておおよそ200年。師匠が死んでから180年近くになる計算だが、それからほんの数年前までの年月はほとんど思い出らしい思い出は無い。

そしてそれ以上にここ数年の旅の思い出は濃厚であった。


アーサーと出会い、幼いルークを見つけて、魔術を教えながら旅をした。

それからリゲル、ベルガ、サーシャと出会い、それからまた旅を続けた。


楽しい思い出はたくさんある。苦しいこともあったけど、やりがいもあった。



・・・・・・・けど別に私、魔王を倒したかった訳じゃないのよね。


始まりはただアーサーと離れたくなかった。それだけのこと。

今だって魔王を倒すための戦いが明日に迫っていて、それが嫌なわけでもない。怖くもない。


むしろ、その戦いが終わるのが怖い。


スピカは長命だ。どうあがいたってアーサーが死ぬところをスピカは軽々と通り過ぎるだろう。


だからこそスピカはアーサーに思いを伝えることができなかった。振られたらそりゃ悲しいだろうが、もしも受け入れられたら、どうなるのか予想すらできなかった。

いったい何十年をいっしょに暮らして、何百年置いて行かれるのだろうか。

アーサーが死ぬ瞬間、スピカはどうなるのだろう。悲しむか嘆くのか、それとも狂うのか。


多分、狂うのだろう。と、ふと思った。


だって、今ですら狂いたくなるほどに苦しいのだ。

アーサーが凱旋して、隣にあの姫君が並ぶ。二人は祝福されていっしょに年を取っていく。想像だけでこれほどに苦しくなるのだから。


いっそルークを連れて国を出ようか。報奨金はかなりの額がもらえるだろう。どの国でも働きもせずに生きていけるだろう。


そうすれば国を挙げての結婚式も、折りに触れて報道される国王夫妻の様子からも逃げることができる。


その思いつきはいいもののように思えた。だが不穏な思いつきがそれを否定する。魔王はめったに出ない。それはつまり勇者もめったに出ないということだ。

その存在は、現状は、大陸中どこでいても聞こえてくるだろう。


見たくない聞きたくない帰りたくない。・・・・・・なら帰らなければいいのか。


ふと、スピカは目を開いた。


眠気は無い。疲れもない。むしろ頭は冴え渡っている。


魔王は強い。常人では傷さえ付けることはできない。何より神殿で祝福を得た武器でしか倒せない。だが、とどめを刺せないだけで倒す直前まで削ることは可能なのだ。


六人全員が生きて帰る前提であれば魔王を倒すのは大変だろう。


だが、生きて帰る必要がないのなら、スピカには心当たりがあった。


魔力を暴走させる。ただそれだけの魔術ですらないただの事故。


スピカの持つ魔力を杖に注ぎ込み、そうしてぎりぎりまで強くした衝撃で辺り一帯を焦土にする自爆技だ。


大切な杖はおろか、スピカも髪の毛一本すら残らないレベルでの爆発だ。

あわよくば魔王を核の状態にすることができる。

いちど核にしてしまえば、自力で動くことも攻撃もできない。徐々に回復してはいくだろうが、動けるまでに十日はかかるだろう。


それまでにアーサーが核を見つけ、貫けばいい。


そこだけは不確定要素だが、さすがにここまで旅をしてきた仲間たちである。見逃すことはしないだろうと判断することにした。



書き置きとマジックバッグ、財布などを残して寝床を出た。


書き置きにはできる限り魔王の体力を削るのでとどめを頼むこと、みんな幸せになってくれ、と頼み、そして、アーサーには加えてルークの養育を頼んだ。養育費は残していく財布にあるものを使ってほしいこと、足りなければマジックバッグの素材を売るように。


魔術を習わせるのか、それとも野生に返るのかはいつかルークが決めるだろう。心残りはルークだけだ。それさえなんとかなるなら心残りはなくなる。





心残りは無くなる?本当にそうだろうか。


スピカがふとそう思ったのは魔王の眼前で、その杖に力を込め始めたまさにその瞬間だった。



すでに高濃度の魔力に杖の核としている石から魔力がこぼれ、ぱちぱちとはじける細かな衝撃が手に伝わってからのことだった。


アーサーを幸せにしたかった。


・・・・なんか違うな。


ルークを幸せにしたかった。


・・・・これも違うな。



「・・・・・・・・私が、幸せになりたかった。」



ふ、と、少しだけ呼吸が楽になった気がした。


そうか。それで良かったのか。


アーサーが姫君に取られるのが嫌だったのも、ルークを残してゆくのが心残りなのも、多分結局はスピカがいやだったからだ。


仲間たちはきっと泣いてくれるだろう。アーサーもルークもきっと泣いてくれる。けれどそれで十分だとは思えない。


身勝手な話だとは思うけれど、死に望んだたった今欲がふと沸いたのだ。



もっと自分勝手に生きればよかった。誰のためじゃなく自分のために


なんだ。それでよかったのか。



ふと、息を吐く。



杖に細かな罅が入り、魔石がじわりと震え、膨れて。














魔王の生態


発生から数百年の間は休眠期間であり、自我のない魔力の固まり。ただしその魔力の固まりの影響を受けて各地で魔物が凶暴化する。休眠期間は倒す術がない。

特に魔王の住むお膝元は徐々に毒に満ちた地となり、人が近づくことすら困難になっていく。

発生から数百年してからようやく倒せる状態となるが、同時に凶暴性も一気に増える。

HPは魔術や剣術などで減らすことができるが、ガッツ状態が残り少しずつHPが回復する。このガッツをはがせるのが神に加護をもらった武器である。スピカは自爆特攻で一度HPをゼロにし、魔王をコアのみの状態まで追い込んだ。翌朝にはアーサーたちがコアを破壊してくれると判断していた。




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