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0002:イカルガ村にて

スピカ・エルトランゼは自分のことを女子力の高い人間だと思っていない

なんなら文明人じゃないかもしれないと思ってすらいる。

まあ何年も旅枕で虫と眠り、しかも魔王の影響の深い土地を旅して回っていたのだ。清潔は病気に直結することもあって寝る前には洗浄魔術を使っていたから最低限の身だしなみは整えていたが、それだけだ。気を抜けばモンスターに襲われ、その身ぐるみを剥ぎ血を飲み肉を食っていたのだから女子力が云々言うのも野暮というものだろう。何なら虫も食べたし木の根っこも食べたし炭も食べた。


だが苔はない。苔はないだろうふつう。


反射的に洗浄魔法を使えばローブの中の服の腕が取れ、ズボンのベルトが千切れ、ローブが絶対に外せない状態になってしまった。杖がないから繊細な手加減ができなかったのはわかるが、これはいくらなんでもひどすぎる。幸いだったのは防具を兼ねていたローブはすり切れの一つもなく、そこの内側に縫い込んで隠していた小金貨と大金貨が五枚ずつ、55万リフの額面だ。それから特上の魔石がいくつかあったのが確認できたことぐらいだ。腕のいいスリや盗賊に身ぐるみはがされたときの用心だ。さすがにこれは旅慣れない初心者のための用心だが、トラブルに多く巻き込まれたこともあり、何度かこの習慣に助けられたこともあり上級冒険者になっても続けていた。



サイフもマジックバッグも置いてきたため文字通り着たきりの装備のみ。文字通り空手。かなり悲しい事態だった。

だがこのローブがあれば大体のことは大丈夫だ。

このローブは一見粗末に見えるが素材としての防御力と耐久力に関しては折り紙付き。魔術師職には最上級の防具だ。肌に苔が生え、服の糸が腐り落ちるような状態でもこれだけはほとんど痛みは見られなかった。高かっただけのことはある。と、スピカは逃避半分そう思った。


問題はローブの中だ。あ、いや。服は一端置いておこう。無視しちゃダメなのはわかってるけどとりあえず置いておこう。

問題はその中、スピカ自身の体にあった。


苔に気を取られて気づくのが遅れたのだが、スピカの体は見事な退化をしていた。


スピカが生還して静まった湖、その水鏡を恐る恐る覗いてみれば、基本的な顔立ちや、東方の血を感じさせる艶のある黒髪、緑の目や象牙色の肌は記憶と変わらない。だが豊かに育っていた二十台の女性的な胸元やめりはりのあった腹、健やかに伸びた手足の面影はない。

端的に言えばつるぺたすとーん。詳細な説明は自分の傷口に塩を刷り込むだけなので省略するが、端的に言ってニッチな需要を掘り起こす体格であった。

泣きたい。そこまでは泣いていなかった。


杖は結局見つからなかった。あれは自分が素材から育て、魔力をねりこんだ珠玉の一品だった。

ある程度離れていても方向ぐらいはわかるはずなのにまったくわからないということは完全に壊れてしまったのだろう。

記憶を探れば許容量を遙かに越えた魔力をつっこんだ記憶が漏れなくよみがえってきた。そりゃ爆発四散もやむなしといったとことだろう。


ああ、あれ作るのに手間暇金銭素材含めてめっちゃかかったのに。


スピカはもう泣いていた。


ともあれ現金があるのはよかった。仲間たちがどこにいるのかについてはわからないが、実入りが一切無くとも装備をしっかり整えても一人で切り詰めれば半年ほどは暮らせるだろう。その間に方針を立て直す。


「・・・・・・とりあえず服と靴と宿かな。」


立ち直りの早さもあの過酷な旅路の中で培ったものと言っていいだろう。

幸いにも視界には村といっていい規模の集落がある。

ローブの縫い込みから当座の資金として小金貨だけ二枚を取り出し、ポケットに移してからふらふらと裸足で歩き出したのだった。




村はどうも新しいものに見えた。イカルガ村というらしい。


建物の年齢というか、建築時期がどうも近いものばかりだったからだ。そしてそれぞれの建物の雰囲気もほぼ似通っている。

村の人間が突然集まってほぼ同時期に、協力しあって互いに家を建てたような印象だった。


探せば服屋も見つかった。服屋といっても古着ばかりで、端の棚に少しなら新しい反物がある程度だ。村の中で服がぐるぐると回っているらしい。これは典型的な集落の中のシステムだ。新品の布が高価なので仕立てた服が体に合わなくなれば古着を打って新しいのを買うのだ。新しく仕立てるのは数年に一度、よほど裕福でなければ婚姻用の服も古着だ。

そんな服の群れの中から体にあうものを一式探し、ついでに追加料金を払ってサイズがあわなくなっているローブを内側に縫い上げてもらう。次がいつ買えるかわからないが、洗浄魔法があるから洗い替えは必要ない。何より荷物になる。マジックバッグがない以上よけいな荷物はじゃまだ。


「はい、できたよ。これずいぶんいいものだねえ。それ売ってくれたらあっちの反物と交換するよ。」

「ぼったくりじゃん。師匠の形見だから売らなーい。」

「もったいないねえ。靴はそれでいいのかい?」

「うん。これちょうだい。服は捨てといていいよ。」

「そうかい?まいどあり。12000リフ。」


さすがに服を扱う商人だけのことはある。一見ボロのローブにしか見えないこれの価値に気づくとは。しれっとぼったくりにはきていたが力づくで取り上げようとしないだけ良心的だ。こっちも師匠の形見だとはったりを返したのでとんとんだろう。

店の奥で着替えさせてもらい、古いものは処分を頼む。残した服は劣化しているところは切り落とされ、無事なところは刻まれてはぎれとしてつぎあてに使われたり雑巾になるだろう。


小金貨を二枚出すと、いやそうな顔はされたが8000リフ帰ってくる。

肌感覚だと少し高いとは思うが、まあ範囲内だろう。むしろこんな小さな店でこれだけお釣りがあったな。

大金貨もあるが、それはたぶんこんな小さな村だと使えないだろう。


「あ、おばちゃん、きんちゃくある?小さいのでいいんだけど。」

「そっちのでいいかい?まあ服の下取りぶんおまけしといてあげるよ。」

「ありがと。ついでにさあ。聞いていい?この村でおすすめの宿と乗り合い馬車の乗り場。」

「ふん。宿はこの道をまっすぐ行って窓の大きい家を左に曲がってすぐだよ。乗り合い馬車は曲がらずにずっと行ってたらそのうち着くさ。」

「ありがと。」


買ったばかりのきんちゃくにお釣りを入れて出る。


鼻先に屋台料理のいい匂いがついたので買い食いをしながら宿へと向かう。部屋が無くなっては野宿に甘んじるしかない。せっかく雨風しのげる建物があるのだ。スピカ自身は野宿にも慣れてはいるが、人里で金がある状態で好き好んで野宿というのもばからしい。



宿はこぢんまりとした建物だった。宿の名前なんて上等なものはない。ベッドを記号化したシンプルな看板が立っているだけだ。


右から入れば食堂、左から入れば宿屋のカウンターとすぐにでくわす作りだ。迷わず左から入ってカウンターに居座る目つきの悪い男に話しかける。


「部屋ある?とりあえず一晩借りたいんだけど。」

「一人部屋なら一晩3000リフ。」

「はい。」


さっきの古着屋でのお釣りで支払い、鍵を受け取る。とりあえず拠点はできたわけだ。部屋に入ったらそのまま寝そうだし、先に馬車の出発日時を確認した方がいいだろう。


鍵を受け取り踵を返すと呼び止められた。


「部屋には行かねえのか?」

「うん。部屋が埋まる前に借りにきただけだから。ちょっと馬車乗り場に行ってこようと思って。」

「そうか。ああ、イーリャ。おい。」

「なあに?父さん。」


ひょい、と振り返ったのは成人間近に見える少女だった。ワンピースにエプロンという格好をしたなかなかかわいい子だ。


え、親子なんだ。


女の子はどちらかというと少しだけ目つきが鋭くも見えるが、はきはきとした印象がそれを悪く見せない。血縁関係は言われればわかるが、言われないとわからなかった。


「えっ!?お客さん!?」

「今から出かけるなら途中までいっしょに行ってやれ。馬車乗り場だそうだ。」

「うんいいよ!!いっしょに行こう行こう!!」


目を大きく見開いてテンションをあげた少女に手を引かれ、再び空の下に出た。


少女はイーシャと名乗った年は十三。見立てどおり成人まであと二年あるが、問題はそのイーシャよりも現状スピカの視線の方が低いことだ。

いったい他人からは自分はいくつぐらいに見えるのか。知りたくもあるが恐ろしくも思う。

さっきの熊男は父のローガス。母はハンナ。ハンナは食堂で夜の準備をしていて、イーシャはちょうど足りないものを買いに出るところだったらしい。

客商売の子であるせいかそれとも生来の性格なのか、はきはきとよくしゃべる。


「子供ってめったに来ないから嬉しい。名前は?何泊ぐらいするの?」

「スピカ。とりあえずお金は一泊ぶんだけ払ったよ。馬車の出発を見てから決めようかと思って。」

「へえ。スピカ。へえ。スピカもやっぱり巡礼に来たの?」

「巡礼?」

「うん。商売人でもなさそうだしいそれぐらいでしょ。北の果てのこんなド田舎にくる理由なんて。」

「・・・・・・・・こう見えて薬師で。修行中の旅なの。まあ一回ぐらい行ってみようかなーと思って。」

「へえ。そうなんだ。すごいね。小さいのに。」

「・・・・・・いくつぐらいに見える?」

「十歳ぐらい?あたり?」

「・・・・・・・・・・まあだいたいね。孤児なんで正確にはわかんないんだけど。」

「へー。そうなんだ。」


このあたりでは孤児も珍しくはないのでごめんという言葉すらないし、スピカも気にもしない。

ちなみに冒険者になる前は薬師をしていたし、孤児なのも本当だ。

曖昧な言葉で情報を抜き出しながら最低限の情報を渡す。


真実を織り交ぜながら情報を集めながら、出てきたキーワードにスピカは冷や汗を書き始めた。


北の果て、ド田舎。


なんかやな予感がしてきた。


そしてそのいやな予感は馬車の乗り合い所にて実証された。だいたいにおいてそういう実証というものはそんなん望んでもいないって形だ。そして今回ももれなくそうだった。


「えーと、次の便は・・・四日後だね。路銀は五万。」


出発日時と時刻を記した張り紙の隣、この村を中心に五つほど隣の村までの経路を確認できる略図だ。おおまかな地図が描かれた大きめの紙を目の当たりにして、スピカは首を傾げた。はて、どこかで見た地形にも見えるのだが。


「どうしたの?スピカ。」

「い、いや別に。」

「まあいいや。ついでにこのあたりの説明もしてあげる。どうせまだ教会にも行ってないんでしょ?」


イーシャに手を引かれ、視線をやると、そこにはこのあたりを拡大した地図が掲げられていた。村とその周辺、それから村の内部の主要施設が簡単に描かれている。


「これがさっき通ってきたメインストリート、ここがうちの宿、左に曲がるとが商店街、こっちが屋台街。」

「あれ?冒険者ギルドは?」

「だからド田舎だって言ったじゃん。ないよそんなの。」

「公式のド田舎じゃん。」


冒険者ギルドというのは、大陸じゅう津々浦々、無い場所はない、とも言われる冒険者互助会である。永世中立の純利益組織と名乗る。

国家組織や政治というものとは一切の関わりを持たないことを信条としているが、実際にどれほど距離を置いているのかはわかったものではない。

武力組織のためメンツを重視し、一種の治安維持組織としての面も持っている。

反面拝金主義の集まりとも名高く、金さえ積めば王家からも依頼を受けるため、有る意味で動かしやすい相手でもある。

つまり、冒険者ギルドが進出してきていない集落というのは、採算の見込みのない一種の非文明集落というレッテルを貼られるとほぼ動議、と言っては少々過言だが。


確かに新しい村みたいだし、しょうがないのかもしれないけど。


しかしまいった。


冒険者ギルドに登録をすればいろいろなメリットがあるが、その中の一つに素材の売却がある。

素材と一口に言っても、それをほしがる商人は様々だ。

魔狼の毛皮をほしがる職人と、薬草を買い取る業者は別だ。いちいちそれらの商人を別個に巡り。個々に価格交渉をするぐらいなら、多少値が下がったり、手間賃がかかってもギルドに売却した方が手間もかからない。交渉の時間をかけるぐらいならその時間で新しい獲物を一匹でもしとめた方がはるかに効率もいい。

ギルドは手間賃で稼ぎ、商人も必要な素材を買い付けるのにいろいろなところに行かなくて済む、三方よしの制度である。


隣村にはあるみたいだし、そっち移動してからギルド証の再発行をお願いしよう。姿形はずいぶんと違うが、魔力の波長で登録しているので同一人物の証明はできるはずだ。再発行ができればギルドに預け込んでいた貯金も下ろせるようになる。そうすれば新しい杖も購入できるという寸法である。


できれば次の村に移動するときには杖持っておきたいんだけどなあ。


魔術師にとって、杖が無いまま魔術を使うという状況はかなりの負荷がかかる。

魔術自体は使用できるのだが、魔力の効率や繊細さ、魔術の発動までの時間が段違いなのだ。旅をするのには自衛という観点からもあった方が望ましい。

乗り合い馬車に乗ればかなり安全な旅が見込めるが、それでも移動のタイミングというのは襲撃の可能性が高くなる。いざというときのためにも最低限応急的なものは持っておきたい。


・・・・・作るか?


魔術師の杖、というのは自分で一から作るか職人に作ってもらうかのどちらかで手に入れることが多い。

時々はダンジョンで手に入れられたりすることもあるが、それは例外だ。

職人に頼む場合でも自分で有る程度の素材を持ち込んだり、有る程度自分で設計した資料を持ち込み、得意不得意や体格などにあわせて調整をしてもらう。

そして作ってもらったそれをもとに、素材を組み込んで自分好みに育てていくものなのだ。

スピカの杖もそうやって育てたものだった。元は自分の庭で育てた苗木と魔石をを職人に持ち込み、旅すがら手に入れた素材を片っ端からつっこんだ。

それに比べ、自分で一から作る杖、というものは、杖が育つまでのつなぎであったり、サブであることが多い。よほどの知識がない限り、職人の手にはやはり及ばないからだ。

それでも無いよりはずいぶんとマシである。幸いにもローブに縫い込んでいたへそくりには魔石も含まれていた。あの質ならばそれなりのものができるだろう。


はあ、しかし杖がなくなった、というのは精神的にもけっこう来るものだ。

古典文学の魔術師にいわく、『我が最愛の杖は恋人よりもわがままで愛人よりも金がかかりペットよりも手がかかり、妻よりもなお自分とよりそい、子供よりもかわいい』。


なるほどこれがあながち言い過ぎではないわけだ。


アっ待ってちょっと泣きそう。これが杖ロス・・・。うわさの杖ロス・・・?

アイスブルーのコアと滑らかな手触りのにくいあんちくしょうがこの世のどこにもいないの・・・?嘘でしょ・・・?控えめに言って全世界の損失では・・・?フォーエバーマイ杖。ここにお墓を建てよう・・・。


「ねえ!」

「ふあ!!??」

「どうせならこのまま教会に行きましょうよ。この村なんてどうせそこにしか見るとこないんだから。」


ひどい言いようである。

そもそもイーシャは買い物に出たついでの道案内だと思っていたのだが、まあ夕飯までに間に合えばいいから。と腕を引かれてついて行く。


道すがら、イーシャが話してくれたのはこの村の成り立ちだった。


「このあたりは昔はひどく荒廃していたらしくて、王様がそれを憂えて入植から50年の無税と補助金を約束して入植者を集めたそうよ。父さんと母さんはここで出会って結婚したんですって。」

「へえ。じゃあこの村は王様が作ったんだ。」

「まあそういうことになるわね。ただし王様はこの村を作りたかったんじゃなくて、ここに教会を建てたいために村を作ったんだって。」

「教会を?」

「ええ。だからこそというか、教会はこの村の一番の目玉なの。年に一度王都から王様の子供がやってきて祈りを捧げるの。この村に来る人間の八割が巡礼者で、この教会を目当てにやってくるの。」


なるほど、巡礼者と何度も間違われたのはそういう背景があってのことのようだ。

この世界には二柱の夫婦神と、その五柱の子供神が奉られた教会がある。どの神を中心に奉るかは、その地方に住む人間の好みやなんかで変わるが、大陸じゅうほかの国でもそれは変わらない。みな同じ神を信じるがために巡礼者というのは珍しくもなく、ほかの国からの巡礼者というものも時には見ることがある程度にはメジャーな存在だ。

子供の巡礼者というのもいないわけではないから、違和感ももたれなかったのだろう。


村から出ると、そこには一面の草原だった。どこまでも平穏な景色が広がっている。滴るような平穏に感嘆する前にイーシャに手を引かれ、その背を追う。見えてきたのは、さっきスピカが目を覚まし、そしておぼれかけた湖と、その傍らに建つ教会だった。


改めて見ると、その教会は確かに立派なものだった。王命で建てられたと言うならなるほど、と納得できる威容。大きさこそ王都で見たものほどの大きさはないが、窓が大きく取られていて真っ白な建材でできた建物は、確かに神の威信を思わせた。



中に入ると、そこには誰もいなかった。奥には居住区らしいものが見えるので、神官はそちらにいるのだろう。

どうやらここには主に闇を司る母神が奉られているらしい。真ん中に飾られた母神の像の傍らには光を司る夫神が並び、周囲には二人を囲むように姉妹神と弟神が並んでいる。


神々に上下は無い。だからこそこういう教会で奉られる神々の順番に決まりは無い。極論を言えばその教会を立てた人やその地域が欲しがる権威を持つ神が中心に奉られる。たとえば鍛冶師が多い村であれば炎を司る女神神サウリア、農業を主に行う村であれば土を司る女神ウェルトリアのように。この村が母神ナトリアを奉っているのは安らぎや平穏を祈っているからなのかほかの理由なのか。


「ほら、きれいでしょう?これがもっとも新しい神話よ。」

「へえ。」


周囲を彩るのはステンドグラスだ。文字の読めない民衆に神の話をするためのものだが、その内容は教会ごとに異なる。端的に言えば、聖典からどの話を引用するかを決めるのはその教会によって違うからだ。

聖典はどの国でも同一のものだが、神話に加えるにふさわしいことが起きれば中央教会によって承認され内容が更新されるから、その最新の神話を引用したのであればそれはこの教会がかなり新しいという意味になる。


灰色のマントを着た男の後ろには紫色のマーブル模様がついている。よくある、魔王を示す表現だ。対する金の剣を携えた男。この金の剣は勇者のしるしだ。

勇者の背後には鎧の騎士、神職のローブを羽織った女、軽鎧の短剣を構える女がそれぞれモンスターと対峙している。

ここまではよくある話だ。第32人目の勇者譚と、18人目の勇者譚の絵を並べられてどちらがどちらかを当てろと言われて当てられる人間などそうそういない。だが、その後ろにたたずむそれは、今までも見たことのない意匠だった。


黒い大きなドラゴンと、白い小さなドラゴン。



本来ならば魔王の側として勇者一行を襲うモノだろうに、そのドラゴンたちは勇者一行に手を貸すように巨人のの首筋に食いつき、あるいは炎を吐いて焼こうとしていた。


・・・・・・なんかすごい嫌な予感がするんだけど。


ざばっと、冷や汗が背に落ちた。



「これはこの地で四十年前に起きた魔王退治のおはなしよ。」


あなたも知っているでしょう。と言うイーシャの顔は誇らしげだ。この地に伝わる伝説を愛し、そこに住むことを誇るそれだ。

だがそれに反し、スピカの頭はそれを理解することを拒否していた。


「四百年もこの土地を支配していた魔王を勇猛王アーサーが聖剣で倒したときのお話。剣士のリゲル、聖女サーシャ。盗賊のベルガ。

そして獣神セントリード様のお使いで、魔術師の姿をとって王たちを手助けしたドラゴンのスピカ様とルーク様。過去には勇者のお話は数あっても、神様のお使いを連れて魔王を倒した勇者はいない。」


「は?」


「スピカの名前だってこのおはなしにあやかったものでしょう?知らないでこの村に来たのならきっと神様のお導きね。」


そんなわけがない。ともいえず、スピカはひきつった顔のままステンドグラスを見上げた。


きらきら光る鱗をした流麗なドラゴンに、気が遠くなるような気がした。




四十年前、スピカにとってはまるで昨日のような日々が瞬く間に過ぎ去っていたのだった。





*********


解説

この世界には・大金貨・小金貨・銀貨・銅貨があり、

大金貨1枚=小金貨10枚

小金貨1枚=銀貨10枚

銀貨1枚=銅貨10枚


銅貨一枚100リフ(円)、

銀貨一枚1、000リフ(円)

小金貨一枚10、000リフ(円)

大金貨一枚100、000リフ(円)


程度と考えてください。




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