姉弟仲良しでなによりだね
ちなみにやけに軽々しく神様の声が聞こえたと思ったら、この応接室には簡易祭壇こと神棚が設置されていた。
取引を行うにあたり、契約魔法とは別に形式として神に誓いを立てる事も多いため、貴族や商人の家の応接室ともなれば神棚は標準装備らしい。
……実際神様がそれで覗き見てるとは知らないでやってる人も多いんだろうなぁ。
「着替えて、きます……っ」
「私、着替え手伝ってきますね」
「ま、まって! 姉様は来ないで。ボク一人で着替えられますからっ」
「あらそんなこと言わないで。これからの事も話したいし」
「ううっ……」
そういってディア君とクミンさんが隣の部屋へと着替えに向かった。
下着が女物なの、ガッツリ見られちゃうね……! がんばれディア君!
「はぁー、ディア君のお姉ちゃん美人だなぁ。惚れちゃいそう」
「なんだいカリちゃん、もしかして男嫌いかい?」
「嫌いってわけでもないけど、パーティー組む分にはともかく、側に置くなら男臭いのは御免だね」
「ああ、だからあの子を女装させてたのかい」
まぁ、それも無いわけではない。メインは男の娘の靴下狙いだけど。
「なぁカリちゃん。話は変わるんだが、錬金王国が滅んだ理由ってなんなんだい?」
「いやぁ、それが超下らない事で――」
『は? 下らなくなんてないんですが?』
「――はないんだろうけど、私には分からないなぁ、神様のお考えなんてねぇー」
神様、雑談にインターセプトするの止めてください。
「そうかい。神様のお考えが分かれば、錬金王国の跡地を切り取ってもいいのかとか判断できるところなんだが」
「それは大丈夫でしょ。新たに『混沌神』が出たなら別だけど」
「ふぅん?」
「気になるなら教会で神様にお祈りしてお伺い立てたらいいんじゃない? しらんけど」
「ああ、そうだね。そうするよ」
マリア婆と雑談していると、ディア君とクミンさんが戻ってきた。
ディア君の顔が真っ赤なのは、着替えた時に下着をバッチリ確認されてしまったからに違いない。
……にしても、男の子に戻ったというのにもはや女の子が男装してるようにしか見えないな。ずっと女装姿を見てたからだろうけど。
「やっぱりディア君はワンピースの方が似合うかなぁ」
「そう、ですか?」
「太もも丸出しにして大丈夫? 白くて眩しくて可愛いよ?」
「はぅ」
すべすべの白い足をもじもじさせるディア君。
「……ねぇディア君。やっぱり実は女の子だったりしない?」
「しませんっ!」
しないかぁ。こんなに小さくてぷにぷにで可愛いのになぁ。
「そうだ。海賊から奪い返した荷物なんだけど、どこに出そうか」
「え? 荷を返していただけるんですか?」
私の提案に驚いた風なクミンさん。
「そりゃ返しますよ? 元はと言えばクミンさんやディア君のものでしょ」
「ただでさえ弟を助けていただいて、その上荷を返していただけるとなったら……なんとお礼をしたらいいか。あ、ディーを差し上げましょうか? 随分と可愛がっていただいたみたいですし」
「姉様!?」
「ディーもまんざらではないんでしょう?」
「そ、それは、そうですけど……」
もじもじと足を内股にして恥ずかしがるディア君。
うーん、白い太ももが眩しいぜ。
「とりあえず、お礼ならクミンさんの靴下をください」
「……はい?」
当然の如く、クミンさんは首を傾げた。これは聞こえたけど理解できなかった感じだな。
「クミンさんの今履いている靴下をください。事情があって集めてるんです、靴下を」
「そういえば先程ディーの靴下もどこかに仕舞っていましたね……では私が履いているものと同じ靴下の新品を手配して」
「違います! 今、クミンさんが履いている靴下。その脱ぎたての現物でないと意味がないんです! 私を助けると思ってどうかひとつ!」
私は頭を下げて、誠心誠意お願いした。
「……まぁ、構いませんが」
「あ、代わりの靴下はこちらをどうぞ」
「準備が良いですね。では脱いでしまいましょう……ところで、靴下を集めてどうするのでしょうか?」
「食べるんじゃないですかね。しらんけど」
「食べ!?」
びくっと靴下脱ぎかけで手が止まるクミンさん。
「え、たべ、え? しかもカリーナさんが集めてるのではなく?」
おっと。ほんのり頬が赤くなってるぞお姉さん。
そうか。同性の私がただコレクションするだけというより、見知らぬ誰かに食べられるとかいう訳の分からないシチュの方が恥ずかしいよね!
「……ええ、私の上司が靴下大好きなんですよ」
「上司!? カリーナさん、そ、その、上司さんとはどのようなお方ですか?」
「ノーコメントで!」
ド変態でも少女だと分かったら羞恥心半減だろうからね。秘密にしておこう。
と、クミンさんが意を決して靴下を脱ぎ切った。脱いだ靴下を丁寧に畳むあたり、育ちの良さが窺えるというものだ。良き良き。
「……どうぞ、カリーナさん」
「ハハッ、ありがとうございます姫様! 間違いなくお届けいたしますので!」
宝剣を下賜される騎士の如く、跪いて恭しく靴下を受け取る。
「ううっ、先程のディーの気持ちが少し分かりました」
「ボクは逆に先程の姉様の気持ちが少し分かりましたよ」
姉弟仲良しでなによりだね。私は靴下をしまった。
(まだストックはあるでな!!)
 








