空間魔法万能説にまた一つ新たなページが加わったな
銭湯ですっかりきれいになった私たち。
その後は海賊の家にあったベッドを生活空間の方にひとついただき、ついでに海賊の家はディア君の部屋とした。私の毛布に負けず劣らず色々と臭かったり汚かったりしたので、洗浄にたっぷり時間をかけたのは言うまでもない。
丁度あった海水で洗ったら一度ベタベタになったが、空間魔法で上手いこと海水を分離できてばっちり綺麗にできた。
これ、応用すれば塩も作れるな。売れそう……塩は取引に免許要るんだっけ? なら自分用に確保だけかな。
そして新品同様になった寝具でしっかり休んだ翌日。
約束は明日で一日時間が空いたため、私は暇つぶしに錬金術、魔道具作成に手を出してみることにした。
「あれ、お姉さんそれ何の本ですか?」
「これ? 錬金術の教本」
ローションを仕入れた魔道具店で買ったヤツである。ちなみに発行は錬金王国だった。うーん、将来プレミア付きそう。
教本には魔法陣が載っていた。動くものとか現象を起こすものとか。対象に刻んで、魔石を溶かしたインクを流し込めばできるらしい。
「錬金術で、あるものを作ろうと思ってね!」
「あるもの?」
マッサージ器具である。普通に震える球を棒の先に取り付け、スイッチを棒の方に拵えれば完成となる。
ただ、魔石を溶かしたインクや、動力になる魔石が無い――
「あ、魔石インクの作り方載ってますね。インクと魔石。確かインクは海賊の家にありましたし、魔石もゴーレム用のものが船にあったかと」
「お! お手柄だよディア君! 可愛い上に有能!」
頭を優しくなでなでしてあげる。
物があると分かっているなら、空間魔法で手元にお取り寄せだ。いやぁー、海賊から強盗して正解だったわぁ。人んちの拠点丸々強奪したからいろんなものが手に入ったぜ。
……ただ、こうしてある意味不当に手に入れた物品やお金は、商人カリーナちゃんの方で取り扱わない方向である! 商人の私と大魔法使いの私で別存在としておくために、当然の縛りプレイってやつだ。
ただし自分で魔道具に加工するなどのワンクッションを挟めば個人取引レベルでは扱って良いものとしておく!
「えーっと? 魔石を粉末になるまで砕いて磨り潰し、インクに少しずつ混ぜればいいのか。……配分はインク壺1に対して、魔石が小指の爪くらい。こうかなー」
空間魔法で破砕したのち、粉をインク内に均一になるよう上書き移動。……完成! ちゃんと色が青っぽくなってる。成功だな。
「魔石インク作るのって1日がかりらしいんですが……できてますね」
「ほほほ、私にかかればこんなもんよ」
このくらいの空間魔法の操作はチュートリアルで履修済みなのさ。
で、次は振動の魔法陣を試してみよう。
中々に細かくて面倒くさい。ここの線を長くすると振動が大きくなり、こっちの円を大きくすると早くなるのか。ふむふむ。お、店主さんのメモ書き。細かすぎる魔法陣は彫るのが大変だしインクを流し込むのに失敗することが多い、と。なるほど。
……なら最初から木材に魔石インクを上書きコピーで印刷だ!
秘儀、空間魔法インクジェットプリンター!(魔法陣を脳内で微調整済み)
ついでに乾燥! よし、魔法陣完成!
「今、手で撫でたら一瞬で魔法陣が現れましたね!?」
「ほほほ、私にかかればこんなもんよ」
腕を複製して毛細血管や神経繋げるよりずっと簡単だね。
そんで、あとは適当なサイズの魔石を動力源のところにぐりっと埋め込めば……震えた!
「おおおおお、動いた! 動いたよディア君!」
「魔道具がこんな簡単に作れるなんて知りませんでした」
「ほほほ、そこはまぁ私の魔法あっての話だけどね。あ、これスイッチ作ってないから魔石外すまで動きっぱなしになるのか。ふむふむ」
えーっと、さらには魔鉄線という銅線みたいなものを使うと魔法陣同士をパーツ単位で作って繋げたり、スイッチにすることが出来る、と。流石にその魔鉄線は海賊の家にはなさそうだ。
にしてもわりと電子工作っぽいの楽しいぞコレ。
「カリーナお姉さんの作りたいあるものっていうのは、これなんですか」
「これがベースで、あとは形を整えてスイッチ付けるの。……あ、そういえば魔道具店で買った奴にスイッチあるしそれ流用するか」
今回の試作品は売る予定もないからコピーしても全然OK! ということで、空間魔法で形を整えつつ、スイッチ部分と魔鉄線を既存の魔道具から空間魔法でコピーして埋め込み。
木製マッサージ器の完成だ!
電動マッサージ器具ならぬ魔道マッサージ器具。略したら魔マ……言いにくいからデンマって名前でいいや。
「完成ー! 名付けてデンマ!」
「今すごい感じに木が丸まったり削れたりしたんですけど……今のも魔法ですか」
「そうだよ、凄いっしょ」
空間魔法万能説にまた一つ新たなページが加わったな。
「ちなみにこれはマッサージ器具であり、これっぽっちもエッチな道具じゃないんだよ」
「?」
首をかしげるディア君。とても健全なアイテムだからね、想定外の使い方は自己責任なんだ。
「早速試運転……ぁ゛ぁ゛ぁ゛ー、肩にきくぅー」
「へー、そうやって使うんですか」
「ぁ゛ぁ゛ぁ゛、良い感じぃぃぃぃ」
おっぱいの重量で肩こりしてた感じあるもんなぁ。空間魔法で持ち上げて軽減はしてるけど。普通に良いぞー、これー。
「ふぃー。……売れると思うんだよねぇ、デンマ。どうだろ?」
「見ていたかぎりでは、構造がとても単純なのですぐ真似されてしまうと思いますね。あるいは、もう作ってる人が居るかも」
「あー、まぁ、ゴーレムなんてあるくらいだもんね……」
あ、そうだ。ゴーレムの方はどういう感じなんだろう。あれも魔道具なんだよね?
そう思って、ゴメス達から手に入れた戦闘用ゴーレムを空間魔法でスキャンしてみる……
……うん。
まぁ当然っちゃ当然だけど、ゴーレムを最新電動自動車だとすれば、デンマは豆電球を電池に繋げたようなもんだったね!!








