私の国の言葉を教えてあげよう
「ディア君、朗報! お姉ちゃん、無事っぽいよ! 明後日には会えそう!」
「え、本当ですか!?」
「私のオフロフレンズが、たまたま領主のお母さんだったんだよ。で、なんか保護されて国に帰る所だったんだって」
「……ああ、それはよかった。けど、姉様がボクをおいて、ですか?」
おっと、これは拗ねちゃってるな?
『自分が心配してたのに姉が自分をおいて帰っちゃうだなんて!』ってとこか。
「ちがうの! お姉ちゃんに見捨てられたわけじゃないんだよディア君! ディア君探索については一切手掛かりがなくて仕方なく、って感じ? まぁ私の盗みっぷりが完璧だったのが悪いんだよ……ゴメンね?」
「そんな! カリーナお姉さんは何も悪くないです!」
いやー、私が下手に手を出さなかったら普通に保護されてたっぽいし、ちょっと余計なお世話しちゃったかもしれないね。
「あ、そうだカリーナお姉さん。色々と使えそうなものがありましたよ」
「おおっ、どんな?」
「色々と不正を示す証拠とか、お金とか、あと家具なんかは運び出せませんでしたが、それなりに揃っていました」
ふむふむ。証拠についてはマリア婆にプレゼントしておこう。きっと上手く使ってくれるハズだ。
「そうだ、姿見なんかもありましたよ」
「へー、鏡だよね、全身映る大きな奴」
「はい。あれは錬金術で作られた高級品だとおもいます」
そういえば私、自分の姿をあんまりしっかり見てないんだよな。
神様が身体を作ってるときに見た以来で。自分視点で見ると胸が邪魔で下良く見えなかったりすんだよねー。
「あ。ディア君。自分の美少女姿、見た? 見たよね?」
「えと……み、見ましたけど。それが何か?」
「超可愛いよね!? ディア君も自分で自分が凄く可愛いって思わなかった!?」
「…………の、ノーコメントで」
そう言って耳まで真っ赤になるディア君。思ったんだな、自分でも可愛いって!
「どのへんにあったのかな?……お、あった。えい、引き寄せ」
しゅぽんっと、姿見を手元に取り出す。硝子に銀メッキしたタイプの綺麗に映るヤツだ。
おー、私ってば整った外見してるぅ。
あの神様が大人になったらこんな感じ、って顔と身体。こうして鏡で自分の思い通りに動いてるのを見ると、なんかこう、本当にこれが今の自分なんだなって実感する。
あれ? もしかして私、わりと今のディア君と近い状態なのでは??
心は男、姿が女で「これが……私?」してるあたりとか。
ただ一つ違うとすれば、私はもう完全に女の子の体で男には戻れないってことだ。
うーん。まぁいいか道連れだ。こうなったら、ディア君もオンナノコにしてやるっきゃないよねぇ?
「あのぉ、ボクはまだこの格好をしてないとダメなんでしょうか?」
「うん。凄く可愛いからその格好でお願い」
「ボク、男なんですけど……」
「フフフ、そんなディア君に、私の国の言葉を教えてあげよう――リピートアフターミー。女装は、男にしかできない最高に男らしい行為だよ!」
「じょ、女装は、男にしかできない最高に男らしい行為……!?」
我が国ジャパンの迷言に驚くディア君。
そう、君は今とても男らしい行為をしているのだよ! 誇れ! でも羞恥心も感じて!
「いや、騙されませんよ!?」
「だよねー」
TSで女の子になるのは最高に男らしいって言うのと同じだもんね。私ならぶん殴るかもしれん。
「あー、それに、今ディア君に女の子の格好をしてもらっているのは……神様から頼まれた仕事に関わりがある重要なポイントなんだ」
「……! ぼ、ボクが女の子の格好をすることに、一体どんな意味が?」
「それは言えない。けれど、ディア君が恥ずかしい思いをすることは、決して無駄じゃないんだと! それだけを覚えておいて!」
なにせ羞恥心が神様のご要望だからね! このまま開き直らず恥ずかしがって!
それにしても、姿見かぁ。
あっそうだ。ここは羞恥心を煽るべく、そしてディア君により男の娘になってもらうべく、あることをやってもらおうかな。
「ディア君。この鏡に映る自分に向かって、可愛いって言ってみて!」
「な!? なんでそんなことしなきゃなんないんですかっ!」
「お願い!」
「うっ、うう…………か、可愛い……」
照れながらも要望通り言ってくれるディア君。まじかわ。
「ほら、しっかり自分の姿を見てもう一度。ディア君は可愛いって自信をもって!」
「か、可愛い……」
「そのまま続けて言って?」
「か、かわ、可愛い」
「フツーの女の子より遥かに可愛いよね、さすがエルフ? いや、ディア君だからだ」
「可愛い……」
「見惚れちゃうね。そんな可愛い子が、ディア君なんだよ。分かる?」
「えと」
「可愛い、って言って」
「か、可愛い」
人は、口に出した言葉を「そうなのだ」と認識する、そういう性質がある。
いわゆる言霊というものだ。
つまり、鏡に向かって可愛いと言い続ければ、ディア君も心から自分を可愛いと思うようになる――
「って、これ洗脳の手法じゃないですかぁ!?」
「おっと。良く知ってたねディア君」
「むしろカリーナお姉さんが知ってた方が驚きですよっ! どこかの諜報部隊にでも居たんですか!?」
うーん、失敗失敗。てへっ!
あー、でもマジでディア君可愛いわ。イケる気がしてきた……ん? これディア君を褒めてるウチに私こそ言葉に影響されてる?
まぁいいか。実際可愛いし。将来男らしくなったらいやだけど、エルフならイケる気がする。エルフの事は良く知らんけど私が寿命迎えるまで幼いままの可能性もあるし!
「それはそうとディア君。なんやかんや海賊も退治したし、お姉さんとも再会できそうだよね! だから今日はお祝いだ! 外に食べに行こう!」
「露骨に話をそらしましたね!? ちょっとお姉さん!」
「細かい事は気にするな! 大丈夫、金なら海賊のがあるから奢っちゃうよ! ねっ! お祝いしよ!」
「……むむむ。分かりました。でも後でしっかりお話しますからねっ!」
というわけで、ディア君を連れて外に食べに行くことにした。
……尚、ディア君はうっかり失念していたようだが、現在の服装はとてもかわいいワンピースだ。私はしっかり認識していた訳だけど、当然黙っておいた。








