飲み比べ
私カリーナちゃん、海賊さんから喧嘩を売られたわ?
これって買ってもいい商品なのかしら? どうなの職員さん!
「職員さーん。売り買いしていいか分からない商品はギルドに聞けって話だったんで一応聞いときますけどぉ、喧嘩は買ってもいいんですかぁ?」
「やめてください……」
「んじゃあ、この状況の原因になっちゃったお酒を、商人ギルドの酒場に全部買い取ってほしいんですけど。それって大丈夫ですか? あ、相場で大丈夫なんで」
「……わかりました、買います」
よし、利確! サティたんから買い付けたお酒全部売り抜けたぞー!
商人ギルド相手ならぼったくられる心配もないだろう。
「というわけなんで、お酒は改めてギルドの方から買ってくださいねー。えーっと、名前なんだっけ……ゴメンデスさん?」
「あぁあああ!? なんだとテメェー!」
おおっと、海賊がブチギレちゃったぞ。いや、まだ殴りかかってこないだけチンピラより冷静かな。
「黙れ下郎」
ギンッと睨みつけてみる。ついでに空間魔法で一瞬だけ体を固定してやる。
殴りかかれないように足だけ止め続けておく。
「……ッ! あ、足が、動かねぇ……!? この俺が威圧されてるってのか!?」
そう、その反応が見たかったッ!
見たい反応が見れたので固定を解除してやろう。
「さて、ゴメンデスさん? ここで一つ勝負しない? そうだな、飲み比べなんてどうだい。丁度良い酒が入荷したらしいよ?」
「勝負だぁ!? いいぜ、その喧嘩買ってやるよ! 海賊はナメられたら終わりなんだ!」
「負けた方の奢りな! 私が負けたら体で払ってやるよ!! 神様に誓ってもいいよ?」
「上等だよテメェ!」
そして私は神様に誓って、あえて飲み比べで勝負を仕掛ける。
ご照覧あれ神様。大丈夫、勝算ならある。というか勝算しかない。
サティたんにお酒で潰されてから、お酒に対する対策として考えていた方法だ。
これを使えば私は、いくら酒を口にしても酔うことはない――
――そう、空間魔法ならね!
* * *
「はー、ちょっと火照ってきちゃったぁ。マスターおかわり!」
「……ば、化け物……かよ……!!」
いやぁー、ワインをひと樽分は空けちゃったなぁ。
あ、私はワイン、ゴメスは私の仕入れた酒で勝負してたんだよ。商人として、お互いにお互いの仕入れた酒で勝負って言ってきてさ。
いやぁ、アルコール度数の差で有利に立とうっていう姑息な手段が丸見えだねぇ! でも私から言い始めた勝負だし、こちらも異論なかったから受けたんだ。
モチロン、見ての通り私は一切酔ってないよ!
火照ってるのはお酒のニオイで少し酔ったからかな!!
え? お酒に弱いはずの私がこうしてザルの如く酒を飲めている方法が気になるって?
やり方は簡単だよ。
空間魔法で酒が口に入る直前に水にすり替え、その水も胃袋に入る瞬間収納空間に戻す。
これにより、私はゴメスのおごりで収納空間にお酒を備蓄することに成功したのだ!
この備蓄は、あとで一人の時にゆっくり楽しもうね!
空きビンに詰めて売ってもいいかもしれん。口をつける前に水に変えたから飲みかけでもないし。
赤ワインも白ワインもおいしく頂きまーす。いえーい。
「お? お? どうした、もうギブアップか?」
「……おぼろろろろろげばぁ」
「うわ汚ねぇなーオイ。折角の酒を吐くんじゃねぇよ」
と、ゴメスが口と鼻から酒を吹き出して倒れた。急性アルコール中毒とか大丈夫? しらんけど。
良い子はこんな無茶な飲み方、真似しちゃダメだよ!!
「いえーい私の勝ちぃー! マスター、請求は約束通りこいつにヨロシクね!」
「……ハイ」
「おうテメーら、これにこりたら私に絡むんじゃねーぞ。文句のあるやつは飲み比べで勝負してやらぁ!! がはは!!」
「ぐ、ぐぬぬっ」
「お、お、おぼえてやがれっ!」
私がそう言うと、海賊共はゴメスを担いで酒場から去って行った。ガラーンとしたラウンジスペース。おつまみのチーズやらが残されていてもったいないじゃないか。手を付けてないヤツもらっていい?
あ、むしろ今からおつまみ頼んでもアイツのツケになるかなぁ。
「てか、あれは食い逃げにならないの?」
「商人ギルドの口座から引き落としですね」
便利だなぁ商人ギルド。えへへ、ゴチになりまーす。
(次回、海賊視点です)








