すげぇ美少女。転入生か?
放課後デートでマシュマロを食べた翌日、早速私たちは学校へとやってきた。
馬車の中から学生証を見せて門を抜け、それなりに混み合っている昇降場で下りて教室に向かう。
ディア君が馬車から降りる際に躊躇していたので少し強引に引っ張り出したが、勢いあまって抱きしめてしまったのはここだけの話。
大丈夫だよディア君、周りからは女の子同士のキャッキャウフフでしかないから!!
はい。というわけで教室です。ディア君の気の乗らなくて遅い歩みの案内でHR開始直前に無事到着。でもさっさと教室に入ってた方が、すれ違う人々に「すげぇ美少女。転入生か?」「あんな可愛い子いたっけ」「うわぁ……一目惚れしたわ。告る」「バカ、お前と釣り合うわけねーって」とか言われずに済んだのにね。可愛いね。
まぁ教室に入っても似たような感じだけど。ちなみに教室内に20人ほどいる生徒の半数がエルフで、もう半分は人間と獣人だった。いやーお揃いの制服。学校って感じー。男女比は女子多めだった。
「うーん、お姉さんはここでもモテるんですね……」
「? 何言ってんのさディア君。明らかにディア君に言われてたじゃん」
「ははは、そんなわけ……え? ないですよね? あの、ボク男ですけど?」
大丈夫、美少女だよ! うふふふ。と、可愛いディア君を褒められて上機嫌な私。
ちなみに教室は大学などの講堂によくある段々になっていて自由席のタイプだった。私とディア君は一番後ろの端っこにそっと座っている。窓側がディア君だ。私を壁にしたいのかな?
……だが、見知らぬ生徒に当然注目が集まるわけで。しかし興味深々の彼らに声をかけられる前に、HRが始まりラクト先生が教室に入ってきた。
「はーい、席について。……ああ。後ろのは編入生ね。仲良くしてあげてください、ただしあまり構わないでほっとくのを推奨します。えーっと、それじゃ他の連絡事項はっと」
おうおう、私の紹介があっさりすぎるぞラクト先生。
ディア君は何やらホッとしてる。どうやらディア君に配慮した模様。なるほど、今の言い方ならディア君も編入生のように聞こえるもんな。だがしかし、そうはいかん。私はもっと照れるディア君を見たいんだッ!
「先生! 私、自己紹介いいっすか!!」
「…………どうぞ」
「うっす! 私はカリーナ・ショーニン! 見ての通りごく普通の人間族の女子です、魔法の勉強は初めてなのでよろしくお願いします! はい、じゃあ次ディア君の番ね」
「…………ボクはもともとこのクラスの生徒なので不要ですよ」
あ、そーだったいっけなーい、てへぺろ! なんつってな。今の発言で教室内でこちらを見ていた男女がくわっと目を見開いた。興味なさげに前を向いていたエルフの女の子も、ぐるんっと振り向いたほどだ。
ちなみに今、ディア君には2つの選択肢があった。
ラクト先生のアシストに従って転入生の女の子を装い、女の子として自己紹介するか。
今のように自分が元々ここの生徒だとカミングアウトするか。
ディア君は後者を選んだようだね! まぁどちらに転んでも私は美味しい。多分神様も喜んでる。
あ、でもまだ「え? あんな子いたか?」「嘘、絶対忘れないってあんなかわいい子」とかざわついてる。一部「え、え、え?」と真実に気付いているような戸惑いを見せている反応もあるな。
「はい、では授業を始めまーす。呪文詠唱学1の教科書153ページから」
おっと、授業始まったな。いきなり153ページとかワケわからんけどまぁ教科書を開いておこう。
……へー、呪文の詠唱ってあるんだ。唱えたことねぇな……!
えーっとなになに? 他のページを見るに……通常の詠唱、短縮詠唱、無詠唱、完全無詠唱とあるんだ。無詠唱は呪文名だけ言うやつで、完全無詠唱はそれすら言わないやつ。
なるほど、空間魔法はだいたい完全無詠唱だったのか。
「えー、ではカリーナ君。せっかくだし無詠唱のお手本を見せてあげられるかな」
「え? あ、はい。何します?」
「まぁ危なくない程度になんか得意なのできる? あ、教室破壊するようなのしかないっていうならやらなくていいからね」
ラクト先生に指名されたのでやって見せることにしよう。
うーん、何が良いかな。教室を壊さない程度の……あっ、そうだ。
「えい、ストーン! こんなもんでどうですか?」
私は空間魔法に仕舞ってある石を掌に取り出した。
「……今呪文名詠唱より先に石が出てなかった?」
「まって? そもそも何今の? 地属性じゃないよ?」
「補助魔法陣や杖は?……え?」
「はい! カリーナ君ありがとう! 素晴らしい無詠唱でしたね、拍手ー」
ラクト先生の一声で、戸惑ったようなまばらな拍手が向けられた。どーもどーも。
「……なるほど。ラクト先生、今のでお姉さんに下手に手を出したらこうだぞ、と知らしめましたね」
「ん? 私なんかおかしなことした? 完全に偽装出来てると思うんだけど」
「ボクには分からないんですが、分かる人には分かるみたいですよ?」
そうなのか。まぁ私はディア君と学校生活満喫できればそれでいいからね。他の人はわりとどうでも!
と、そう思っていたのだが、最初の授業が終わっての休み時間にエルフの女の子がすごい勢いで私達の下へやってきた。
薄緑色の長い髪で、編み込みもある可愛らしい子だ。食べちゃいたいくらいである。もちろん性的な意味で。
その勢いで少し怒ったような顔をしたまま、ディア君を見て、私を見て、またディア君を見て。
「なにか?」
「……ディーアソルト様、ですよね?」
「人違いじゃないですか?」
「嘘! 私がディーアソルト様を見間違えるわけありません! 特にそのお声!」
「ではこれが初めての見間違い、聞き間違いなのでしょう」
言いながら思いっきり顔を窓に向かって逸らすディア君。
そういや君、ディア君の発言で思いっきり振り向いたエルフっ娘じゃないか。
「ディア君、知り合い? 紹介してよ」
「……」
ディア君はすごく嫌そうにこちらに向き直る。
「久しぶりですね、フレアタルトさん」
「やはりディーアソルト様! どうしてそのような……素敵なお召し物を? あ。実は女の子でしたのね」
「違います、ボクは男です」
「……私より可愛いですけど? 実は女の子だったと言ってください、じゃないと私の女としての何かが崩壊します!」
この会話に、教室で聞き耳を立てていた男子共がまたもくわっと驚愕の顔で反応していた。
いやぁ性癖の歪む音がするぜぇ。なんかごめんねー?
「お姉さん、こちらはフレアタルトさんです」
「へー、フレアタルトちゃんって言うんだ。私カリーナ、よろしく!」
「初めましてカリーナ様。私、ディーアソルト様の婚約者、フレアタルトと申します。よしなに」
そう言ってフレアタルトちゃんはぺこりと頭を下げた。
……ん?








