そういう言い方は感心しませんね(教師ラクトムーン視点)
ラクトムーンは教師である。エルフの中でも魔法を教える立場というのは、やはり相当な実力がなければならない。
そのラクトムーンのオリジナル魔法のひとつ、クレイターゲット。
射撃練習をやり放題にするために編み出したとはいえ、的の形状には拘りもあり、その詠唱等を封じ込めた魔導書があってこそあの程度の詠唱で、狙った距離に的を作ることができるわけだが……
今日やってきた受験者カリーナは、なんの準備もなくそれを再現し、あまつさえ全く同じ場所に的を生やして見せた。確かに的に当てろとはいったけれど。想定外が過ぎる。
……そして、そのために消費された魔力量が、はてしなく膨大であった。
ラクトムーンほどの腕前であれば、耳を撫でる空気に魔力を感じることができる。顔には出さなかったが、さながら大瀑布であった。
おそらくは土魔法ではないナニカ。先に見せられた水晶が破損するほどの魔力は嘘ではないことがありありと感じられた。あまりに膨大すぎる魔力の流れに少し泣きそうになった。大人なのに。ゴリ押しによる再現だった。
「……魔力の節約方法なら教えられるかもですね? 必要かどうかわかりませんが」
そしてそれほどの魔力を使いながらケロッとしていた。あの調子ならあれをあと数十発は連続で打てるだろう。
ラクトムーンはクレイターゲットを10回くらい連続で使えば息切れする。少なくとも15分くらい休ませてほしい。
「秘密って言ってたし、色々触れない方がよさそうですねぇ……」
学校生活を楽しみたいだけらしいし、色々とほっとく方が良いだろう。
はぁー、とラクトムーンがため息をつきながら職員室に戻る途中、同僚に絡まれた。
「あら、ラクト先生。できそこない王子の連れてきたっていう人間の腕前はどうでしたの?」
「……そういう言い方は感心しませんね、イズ先生」
成績の低い生徒にはキツイことに定評がある女教師、イズミカネだ。この学校の卒業生でありラクトムーンの教え子でもあった。眼鏡をクイッと持ち上げつつ、ニヤニヤとした笑みを浮かべている。
正直良い所のお嬢様だし、もっと色々な場所で活躍できる人材だろうに、とラクトムーンは思っている。
「ふふ、建前は不要でしてよラクト先生。相手が王族だからって忖度しない、それが学園都市でしょう?」
「そうは言いますが、さすがに限度というものもありますよ?」
権力と教育は別。そういう建前だが、一応配慮はするものだ。
特に今回のように『王族の名にかけて腕前を保証する。入学金等々も王家から払う。なにとぞ。どうかよろしく。ホントにお願いします』などと言われた場合は流石に。腰の低さと念の押しようが怖すぎる。
「少なくとも、できそこない王子なんて生徒は知りませんね。今日来たのはディーアソルト君とその推薦者です」
「事実を言って何がいけませんの。できそこないはできそこないでしょう?」
「そもそも、できない子でもできるようにするのが教師の仕事ですよ。自分の教育者としての腕を棚に上げてそういうのはどうかと思いますねぇ」
「できる者をさらに伸ばしてこそ、評価されるんですわよ。世界は一握りの天才が回していましてよ?」
「大多数の底上げをしてこそ天才が花開くんですよ? 土台作りが我々の仕事でしょう。土台がしっかりしていれば天才は勝手に育ちますよ。あなたのようにね」
「んんっ! 急に褒めないでくださいまし、照れますわぁ……っ!」
やれやれ、と肩をすくめるラクトムーン。
かつて自分の教え子だった時からそういう主張だったけれども、そろそろ大人になって欲しいものだ。
尖っているのも若さの象徴といったところか。
「って! 話をはぐらかさないでくださいまし。試験は結局どうでしたの?」
「まぁ教員に隠す事ではないので伝えますけど、満点でしたよ」
「へぇ! それは教えがいがありますわね! 私のクラスで見てもよろしくてよ」
「いえ。ディーアソルト君と同じクラスを希望していますので、希望を叶える形で進めます。では失礼」
なんとなくだが、イズミカネとカリーナを会わせてはいけないような気がした。
なにやらとんでもないことになりそうで。
そう思って話を切り上げたのだが、がしっと肩を掴まれた。
「ところでラクト先生、話は変わりますが……眼鏡はどうしました? 落としましたか? 予備貸しましょうか?」
「眼鏡、ああ。はい。なんか不要になりました」
「はぁ!? え、いや、え? 先生、眼鏡、え? 不要? ちょ、どういうことですの!?」
「視力が良くなりまして……まぁこの眼鏡、高かったんですが。捨てるのももったいないし、よろしければ差し上げましょうか?」
「え! いいの!? ありがとうございま……って、ちがいますわ! ラクト先生が眼鏡とったらダメでしょ!?」
「……なんですかその主張は???」
首をかしげるラクトムーン。
「ラクト先生は眼鏡があってこそですのよ!! なんで私が眼鏡してると思ってますの!!」
「まるで私の本体が眼鏡みたいなことを言いますね……というか、イズ先生の視力と私には何の関係もないじゃありませんか?」
「そ、そうだけど! そうだけどちがう! ああもう、どういうこと!? しっかり説明してラクト先生!」
「……うん、今のは生徒だったときのイズ君を思い出して懐かしくなりますねぇ」
「そういうのいいですわ! 度が合わなくなったなら眼鏡屋いって新しい眼鏡買いましょ!? ね!?」
「まぁ目元が寂しいのは事実です。伊達眼鏡でも買いますか」
「うんうん! 度がないのは正直少し不満だけどこの際仕方ない! 奢る、私が奢りますから! ね! ね!!」
「……いや、自分で買いますから。そのくらいで揺らがない程度の貯蓄はあります」
やけに主張の強いイズミカネに絡まれつつ、ラクトムーンは職員室へと戻った。
(以下お知らせ)
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