神の力をもってすれば、ラスボスなんて雑魚だった。(●挿絵アリ)
そんなわけで、ラスボスがチュートリアルの名目であっさり仕留められたのである。
まぁ実際は七日七晩かけてじっくりゴリゴリ拷問の如くいたぶっていたわけだけど。
神様が「え? まだ分からない? 仕方ないなぁチュートリアルだから『分からなかったからもう一度説明して』ができるのも当然だよね!」と言って頼んでもないのに『身体と精神を直してもう一周』されるジジイが不憫ですらあった。
あ、一応トドメは私が刺したけどね。「では最後に、自分で能力を使ってみましょう! 脳と身体の接続を断ち切るだけです、簡単でしょ?」ということで。
『おお私の使徒よ。見事、混沌神を名乗る不届き者を成敗してくれましたね。ご苦労様でした』
私に換わって心の声と化した神様がそう語りかけてくる。
ご苦労も何も、チュートリアルと銘打って好き放題全力を振るう神様によってお膳立てされた、HP1で「……シテ……コロシテ……」としか言えなくなったラスボスにトドメを刺すだけの簡単なお仕事でしたが。実働1分。
……これ、実のところ神様がチートでフルボッコしたかっただけだよね?
「神様……私、要りました?」
『はい。手続き上必要でした』
なるほど。手続き上必要だったのなら仕方ない。
……まて、よく考えたらこの神様でも逆らえない『手続き』ってなんなんだ。もっと上がいるのか? 怖っ。
『まぁ私はスッキリしたので満足です。じゃ、報酬としてあとはご自由にどうぞってことで』
「あっ、はい」
『私と話がしたくなったら教会とかでお祈りしてくださいね。んじゃノシ』
ノシって。手を振る文字絵かよ。この世界日本語あるの?
…………
……
えっ、終わり?
本当に?
私、放置?
……
辺りを見回してみると、そこはすっかり廃墟であった。
元々は自称混沌神が治める錬金王国があったらしいんだけど、神様の全力の余波ですっかり廃墟と化している。
あのあたりは多分、上下で空間をつなげて瓦礫を無限落下・無限加速・複製からの瓦礫散弾を連発した跡だな。あっちは、一直線に全てを切り裂いた次元斬か?
空間環境構築で一瞬にして焦土と化した場所もあれば、天地返しとか言って一定空間の上下を入れ替えて頭から落として滅茶苦茶になった場所もある。
そんで、この惨状の一番の決め手は強制無限収納&瞬間全放出に違いない。あれでなにもかもがゴチャゴチャになった。
……うん、どれも超必殺級の国を破壊できる威力を持っていたね。
空間魔法って超ヤバい。ここまで使えるのは神様くらいだろうけど……
「ともあれ、これは後の歴史で神の怒りに触れて一晩で滅んだ国、と語られるな」
神様の恋人(恋神?)の名前を騙ったから滅んだ国、か……
もし将来私が神を名乗ることになっても、混沌神だけは絶対に名乗らないようにしよう、と心に決めた。
「さて、ここからどうしようかな……」
何の目的も無くなってしまった。本来の目的であった自称混沌神は既に死亡。神様も好きにしろと仰る。
「この惨状の生き残りとか探すべきだろうか……いや、恨まれても困るな。七日も時間かけてやってたから絶対顔見られてるよね。逃げよう」
やったのは神様です。私は悪くねぇ!
というわけで、私は空に向かって転移する。その後、空から見えたお山へと転移。
これで多分一安心、だろうか?
ふぅ、と一息つく。
ぐぅ、とお腹が鳴った。
そういえば七日七晩戦ってたけど、この世界でまだ何も食べていない。
もしかして食べなくても平気な体になってたんじゃないかと思ったけど、あれはチュートリアルだからであって、通常なら普通にお腹も減るようだ。
ふと目についたリンゴのような果実を空間魔法でもぎ取り、手に取る。
……神様からもらった基本的知識曰く、普通に食べられる果実のようだ。もぐもぐ。
この基本的知識は、意識しないと使えないみたいだ。
頭の中に『基本的知識』という辞書が置いてあるような感じ。まぁ、オマケで言葉とかは通じるようにしてくれているみたい。
「うーん、となれば、普通に生きていく分には空間魔法もあるし苦労はしないだろうけど」
なんならこのリンゴっぽい果実を複製したらそれだけで食に困らない。
しかし野生で生きる、というのは現代日本に生きていた記憶のある者としてちょっと抵抗がある所存。もう少し文化的な生活をしたいものだ。
例えばトイレとか。
……この世界の一般的なトイレ? うーん、スライム式ボットン便所。
たまに育ち過ぎたスライムに襲われたりする事案もあるそうな。こえー。
水洗トイレと組み合わせて、スライムの逆流を防止した仕組みとかねぇのかな……
基本的知識曰く、なさそうだ。自分で作らないと存在しないのだろう。
「……職人……いや、商人でもやってみるかなぁ」
そういえば神様も商人とか言ってたな、と。
そう言うとなんとなく誘導されたっぽいけれど、だとしても特に問題はない。
私は、ポリポリと頭を掻いて今後の方針を決めた。