悪人たちに反省を促しちゃうゾ☆(チンピラ視点)●挿絵アリ
(新年あけましておめでとうございます!!)
その女は、ふらっと路地裏にやってきたただの獲物だった。
獲物だった、はずだった。ちょっと脅しをかけて金を置いていけばよし、いや、少し遊ばせてもらうのも悪くない。この俺と遊べるんだから、あっちも良い思いするはずだ。
そう声を掛けたら、
「はぁー、ワンパターンで飽きてきたなー。マニュアルでもあんの? もうかかって来いよ雑魚」
「上等だよ、ぶっ殺して死体で遊んでやる!」
「きゃー、こわぁーい。おしっこちびっちゃーう!」
女は、そう言って俺をバカにするように笑いやがったのだ。
我慢ならねぇ、見た目は悪くねぇから飼ってやろうかと思ってたけど、ぶっ殺す!
手に持った角材を女に向けて振るうと、俺の攻撃に女は反応もできずにそれを受け――
――角材が砕け散った。
まるで巨大な岩をブッ叩いたかのような、手が反動でビリビリ痺れている。
「は……? え?」
「はーい、正当防衛成立ぅー」
「て、てめェ、何モンだ――」
と、思うその瞬間、俺の見ている景色は一瞬で真っ暗闇に変わった。
急に明かりが消えたが、星空が良く見える広い場所にいるようだった。
「ッ!?!?」
何が起きた、何をした? 何をされた?
「おい! 何だこれ!?」
「てめ、何しやがった! おぉん!」
「ああン!?……って、あれ、てめ、バラドか?」
周囲には、俺の他にも人が居た。
暗闇に目が慣れてくると、周囲の男達が多少見覚えのある連中だってことと、そこが廃墟であることが分かってくる。なんだ、これは、一体?
その時、俺たちの周囲だけがパチッと急に光に照らされ、目を細める。
光魔法だろうか。ここだけ、切り取られた昼間のよう。
「はいはい皆さん。ちゅーもーく」
「あぁッ!? てめ――えッ、あ……?」
太陽のような明かりの元、声のした方を見る。
その声は間違いなく、さっきまで俺が絡んでいた女。
そいつは、何もない空中に立っていた。
「てめ……何しやがった!?――ッ、あ、足が動かねぇ!? う、ぐっ!?」
ぶん殴るべく歩み寄ろうとした瞬間、俺の足はぴたりと、地面に縫い付けられたかのように動かなくなる。そして、上半身も、指一本動かせなくなってしまう。
自由なのは首から上だけ。
「なんだこれ! なんだこれ! 助けて!」
「あああ!? ふざけんな!」
「いやだ、なんで! 助けてアニキぃ!」
廃墟の中、誰一人として動けず喚く男共。
「えー、これから皆さんには、殺し合いをしてもら――じゃなかった。コホン。あなたはー、神をー、信ズィますカー?」
は? 何言ってんだコイツ。
この場の誰もがそう思ったに違いない。
「神様はー、お怒りデース。アナタたちが悪い人だからデース。人様に迷惑をかけるなって教わらなかったんですかねー? ンー?」
「うっせえな、黙――」
「今まさにお前が俺らに迷惑を――」
「これはお前の仕業か!? ブッ殺――」
声を上げたやつらの声がプツリプツリと聞こえなくなる。
「神様はいつもあなたたちを面白半分に見ていらっしゃいますヨー。さて、どうやって懲らしめてやろうかとー……でっ、そうして遣わされたのが私ってワケよ」
親指でトントンと自分を指すイカレ女。
バカな事を――と言うには、今の現状がトンチキ過ぎた。
路地裏にいたはずが、この廃墟。目を閉じて開く一瞬きの間にこんな場所に連れてこられた俺達。これを神の御業と言わずしてなんというべきか。まさか、本物?
「じゃ、ちょーっとお仕置きすっからさぁ、反省したって人は手を挙げてねー。全員が反省して、自首しますと誓うまで続けるからね! 連帯責任だよ!」
「は?」
女がそう言うや否や、俺達はふわっと浮き上がり足が地面を離れた。
浮いている。いや、飛んでいる!? すごいスピードで空へと飛び上がる俺達。
ぐるんっと顔が地面の方になるよう、身体の向きを変えられる。
高い。そして先程までの地面だけはクッキリと昼間のように明るいため、高さが良く分かる。
まるで鳥になったかのよう――などと、呑気に思えたのはその地面が凄いスピードで近づいていると気付いた時だ。
落ちてる!!!
「うわああああああああああああああああ!?」
「ぎゃああああああああああああああああ」
「死ぬ、死ぬ!? 死ぬぅううううううう!?」
風を全身に浴びる。急速に近づく真っ暗な地面。あわや激突――とその瞬間、地面に指一本分ほどの距離で、ピタリと停止した。
「は、はっ……は?」
ぶわ、と冷や汗があふれ出る。
死ぬかと、死んだかと思った。
「はーい、反省したかなー?……ンー、声が聞こえないゾ? ワンモアセッ!」
「えぁ……? あ!?」
離れていく地面。再び上昇していく俺達。
「え……え……?」
先程と同じ程に十分な高さになったところで――落下……!
「ぎゃぁあああああああああ!!!」
「ひぃいいいい!!!!」
「は、反省、反省しましたぁああああ!!! ああああああ!!!!」
地面スレスレで、ピタッ……!
こ、これは、来るものがある……しかし、絶対止まると分かっていれば……耐えられない程では……!
「うぁあああ、腕がっ、俺の腕がぁあああ!!」
「あっ、ヤバ。ごめーん、ちょっと手元が狂ってミスっちゃった。直してあげるね?」
「ぎゃぁああああ、ああああああ!!!……あああ? え、あ?」
「はい直った。あーしんど。こりゃ何度かミスったら直せなくなるな。その前に全員反省してくれたらいいんだけど」
……どうやら、この強制的に崖から突き落とされるような「仕置き」は、安全ではないらしい。
「は、反省したっ! 自首、自首するから!」
「お、俺もだっ、助けてくれ!」
「お。いい子ですなぁ、でも全員じゃないからもう一回だからね! ワンモアセッ!」
そう言うや否やまたも上昇していく俺達。
「いやだぁああああああああああああああ!!!!」
「おがぁあああぢゃあああああああんんん!!!!」
「――――……」
「お、おい。失神してるやつがいねぇか?」
「ホントだ。……ってまて、全員が反省するまで続くって……」
「おい! 誰かが失神してたら終わんねぇってことじゃねぇよな!?」
その後、俺達は朝日が昇り、全員が「反省しました、自首します」と揃って言えるようになるまで――少しでもズレていたら再度「ワンモアセッ」――強制ダイブを続けさせられた。
全員が糞尿を漏らして、あられもない姿になっていたが――結果的には、死者と怪我人は誰一人いなかった。
「よしよし、皆反省したね! いやぁもうすっかり夜が明けて私も眠くなってきてたから丁度良かったよ。うっかり全員手が滑っちゃうところだったわ。思いのほか手間でさぁ」
恐ろしすぎる。そんな発言と共に、俺達は気が付けばソラシドーレの町の外に転がされていた。
「……私の事は言うんじゃねぇぞ。お前ら顔覚えたかんな? じゃ、解散!」
俺達はフラフラと、その言葉にようやく解放される、と涙を流した。
「最後にここで一回しとく? ワンモア――」
「「「「「「反省しましたぁあああ!!! 自首しますぅうううう!!!!」」」」」」
息ぴったりに全員で手を挙げて叫ぶ。
「チッ、しゃーねぇなぁ、じゃ、今度こそ解散な。誰かが自首しなかったり罪の白状が足りなかったりしたらまた拉致ってやるからそのつもりで。自分のだけじゃなく、他人のも含めて、知る限りの罪を全部洗いざらい吐くんだ。いいな?」
舌打ちと念押しが聞こえた。
俺達がその後、身を清めることも忘れて我先にと自首しに行くことになったのは言うまでもない。
逃げ出そうとした奴がいたら首根っこ掴まえて引きずっていくつもりだったが、幸い全員が同じ気持ちだった。
(ちなみにコメントもちゃんと読んでますよ! 励みになります!!
尚、カクヨム版の方ではコメント数が少ないのでコメント返信してますが、
その分イラストとまえがき・あとがきもないのでその分ということで。ええ)








