かくして、ディア君はテイマー大会を優勝した。
ディア君の第二試合。
アーサー相手に今度は棄権することなく相手は挑んできたものの、アーサーの電光石火な先制攻撃でまず半数3体がダウン。
すかさず残り3体が攻撃してきたが――あっさり回避。そうだね、サンダードラゴン、素早いもんね。
で、返すしっぽビンタで纏めて3体片付けて、さくっと勝利。
続く第三試合、今度は敵がディア君を狙ってきたものの、アーサーが割り込んで攻撃を受ける。が、ドラゴンの鱗を貫通するような攻撃ではなかったため、実質無傷。
その後、軽く「フッ!」と雷属性のブレスを吹くことで、ブレスを玉にして飛ばす器用な技を逆に相手のテイマーにぶつけて勝利。
あちらさんの従魔はご主人様を守ってくれなかったね、残念。
「強い! 強すぎるぞ! これがドラゴン!! これが龍の巫女!!」
勝者として讃えられ、舞台から手を振るディア君。
龍の巫女かぁ、今のディア君にはピッタリの二つ名かもしれない。あ、巫女服着せてもいいな。
次の決勝戦も楽勝だろうか?
私(ヒーラー資金除く)とマシロさんの全財産、ディア君とアイシアのお小遣い、合計金貨4枚が賭かっているので、ディア君にはぜひ勝っていただきたい。
と、拠点に帰ったアーサーがリュックからひょいと顔を出してくる。
小型モードなので、羽を隠しておけばただのイグアナみたいなもんだ。
『いやー、テイマー大会って楽しいっすね! 自分、姐さんにボコボコにされて自信無くしてたんすけど、やっぱ強いっすよね!?』
「まぁ下手なモンスターよりは強いよね、ドラゴンだもん」
『でも姐さんのが強いって、どういう生物なんすかね』
それは神様に聞いてくれ。私本人は人間のつもりだよ。
『決勝では五大老さんたちが作ってくれた鎧着て、ディア君ちゃんにドラゴンライダーになってもらう予定っす!』
「それも一応テイマーでいいのかなぁ。……大会規定でアウトにならないかちゃんとディア君と確認するんだよ」
『はーい』
と、アーサーは首を引っ込めて拠点に戻っていった。
そうそう。アーサーが出入りしているあの玉は魔物玉と名付けているが、五大老工房製のハリボテだ。機能としては『赤い光線が出て対象を包む』だけしかない。
実際は観客席の私が拠点にちょいちょいと出し入れしてる。
断じてモンスターなボールではなく、魔物玉である。
パッと出る呪文や入れ入れと呪文を唱える方向での運用も考えたけど、光で包むのが遠目に分かりやすかったので。声だと聞こえない可能性もあるしね。
というかなんだよあの纏わりつく光。物理法則どうなってんの?
五大老の魔道具技術、恐るべし……!
で、あっさりと決勝戦だ。
「さぁー! いよいよ決勝戦! まずは赤コーナー、羊飼い・シェパード選手! 手持ちの魔物は暴れる6体の羊、マッドシープ!! 本大会の一番人気!」
相手の犬獣人は6体の凶暴な羊型魔物を従えて、その背に立ったまま敵を轢き倒すという突撃戦法で決勝まで上がってきた実力派だ。
羊の上から鞭や魔法を使い、羊を誘導しながらも攻撃を行う、アクロバティックな選手だ。
「相対するは今大会のダークホース! 青コーナー、ディア選手! 魔物はただ1体、英雄の名を冠するサンダードラゴン!! ここまで勝ち上がってきた本物だぁ!!――おおっとぉ、ここでドラゴンが鎧を着ている! しかも背中には座席が付いているぞ!? これはまさか!!」
司会のいう通り、そしてアーサーの事前の宣告通り、アーサーは座席付きの鎧を着ていた。そして、ディア君をしっぽでひょいと抱き上げると、背中に乗せた。
「な、な、なんと!! ディア選手、ドラゴンライドーーーーッ!? 誇り高きドラゴンが自ら人を背に乗せるとは!! 間違いない、彼女こそ伝説の姫君! 龍の巫女!!」
尚、従魔に騎乗するのもルール的には問題ない。
「さぁ、蹂躙される準備はいいですか?」
「ッ、言ってくれるじゃねぇか、お姫様ッ!」
両者睨み合い――「ファイッ!」との司会の掛け声と共に、アーサーは上空へと飛んだ。
「勝負ありです。さぁアーサー、ブレスです。……手加減してあげてくださいね」
『ギュアー!』
決勝戦――しかし、それは一方的な戦いだった。
上空を飛ぶドラゴンに対し、シェパード選手は魔法や射程の長い鞭で攻撃を試みるも、素早くて当たらず、逆に地上へは雷属性のブレス玉が降り注ぐ。
制空権を得たディア君とアーサーに、シェパード選手は為すすべもなく。
事前の宣言通り、一方的に蹂躙されていた。
「く、くそぉーー! 卑怯な! 降りてきて戦えーーー!!」
「すみません。でも、これがドラゴン本来の戦法なので」
文句があるならお前もドラゴンをテイムしてこい、と。そういう話だった。
強い魔物を従えるのも、特有の戦い方を生かすのも、テイマーの実力。
『ぎゃおーん!』
現実ってのはゲームのように平等じゃないんだぜ。地を這う羊と空飛ぶドラゴンが互角以上に戦える方がおかしいんだわ。
「これは酷い! なんというワンサイドゲーム!! だが、これがドラゴン! これこそがドラゴン!! その本領を発揮しただけだ、何が悪いッ!? そう、何も悪くないッ!!――勝者、ディア選手!!」
ドラゴンの圧倒的力を見せつけての勝利。一方的すぎる決勝戦だった。
非常に珍しいドラゴン、そしてドラゴンライダーに、観客たちは盛大な拍手を送った。
かくして、ディア君はテイマー大会を優勝した。
(とりあえず見切り発車で2巻の書籍化作業にはいる……!
たのむぞ編集さん……!)








