神器返納式
神器返納式。
五大老が待ちきれず、工房の設計だけでなく家具の事前作成に取り掛かり始めたころ、ようやく返納式をすることになった。
「さっさと終わらせて工房にとりかかろう!」
「「「「工房!!」」」」
みんな息ぴったりだなぁ、うふふ。
ところで掛け声が「工房」って、ドワーフ文化でえいえいおー、みたいな意味でもあるのかね?
「いや、単に工房が楽しみなだけかと思いますよ。あるじ様」
「ドワーフ的にはやっぱりそういうものなの?」
「ドワーフというか、職人ですから。私にあるじ様作の新作楽器をお預けしてるようなもんですよ。……それに、おばあちゃんたちは職人の上澄みも上澄みですし、理想の工房を持ってたと思いますが……今回貰えるのが、その理想を超えた工房ですからね」
単に楽しみで仕方なさ過ぎるわけね。馬に究極のニンジン、神様に100点超え靴下みたいなレベルで。
ちなみに前準備として、『破城壁槌』の展示は美術館に返した翌日から再開している。
そしてアカハガネ中に神器の返納を行うことを通達したために、見納めだといわんばかりに連日大盛況となっていた。
もちろん『破城壁槌』が偽物なのではと疑う声もあったが、まぁ本物なので、ピコッと頭を叩かれたら疑いも晴れていく。
なにせ本物の『破城壁槌』は蛇腹の関係ない側面で叩いても何故かピコッと無傷なのだ。なにそれどうなってんの。神の奇跡としか言いようがないね。
この最後のお披露目に関しては、既に返納式が始まっていたと言っても過言ではない。
連日大盛況ということは、人通りも多い。
特別運行の乗り合いバスが走り、美術館前には屋台が並ぶ。既にお祭りになっていた。
本番である今日までの間に発生した経済効果が云々、と、ミーちゃんが可愛く高笑いしていたのは記憶に新しい。
「そりゃポンと返してもらって終わり、ってわけに行かないね。勿体ないもん」
「単にウチたちドワーフがお祭り好きだってのもあるんだけれどね」
まぁ酒が飲める名目を逃がさないドワーフらしい騒ぎっぷりだ。
返納しても2、3日は後夜祭扱いで騒ぐだろう。
「来年以降は返納記念日として定期的なお祭りにする予定だし」
「わぁ、さすがミーちゃん。賢いねぇ」
うーん、これが為政者というものか。女王ミーちゃん、さすがである。
そんなわけで本番が今日だ。
今日のために祭壇も作られている。三日で。
美術館の屋上にピラミッド型の高台が増築された。ただし頂上は一部平らになっており、何人かが立てるスペースと1段高い台座がある。儀式スペースといったところか。
そこまで登りやすいように、ピラミッドの正面にはドワーフサイズの階段も付いている。
ミーちゃんを除く五大老のみんなが黒系のゴージャスなローブを着て儀式スペースの台座を囲み、そこにテッシンのドワーフを代表してミーちゃんが『破城壁槌』を持って上ってくるのだ。
……まるで某世紀末マンガのナントカ十字陵みたいだな、とか思ったのはここだけの秘密。
そして『破城壁槌』を天に掲げたら、あとは私が回収して儀式終了ってワケ。
まぁ、それだけ。特に何も波乱なく終わるでしょ。うん。
「はぁー、緊張してきた」
「ミーちゃんも緊張するんだね、可愛い」
「そりゃするよぅ。だってウチ、神器返納するのなんて初めてなんだよぅ?」
そりゃ神様に神器を返納した人の方が少ないだろうね。
私はミーちゃんをよしよしと撫でた。他の4人は先に出て台座を囲んでいるところだ。
「でも実際回収するのは私だけどね」
「それでも緊張するものは緊張するの!」
「大丈夫大丈夫、ゴージャスな演出みんなで考えたでしょ。イケるイケる」
緊張に震えるミーちゃんを抱きしめて元気づける。
そっと緊張をほぐすマッサージも追加だ。なんやかんや便利すぎるぜマッサージ。
「はぁ、落ち着いてきた。ありがとカリちゃん。時間だね、いってくる」
「うん、いってらっしゃい!」
私はそう言ってミーちゃんを送り出した。
(以下お知らせ)
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締め切り近いけど間に合わすので、次の更新がどうなるか分からんぜ!!








