ヘルメスは依頼を受けた(怪盗ヘルメス視点)
普段は悪人からしか盗みを働かない怪盗ヘルメス。しかし今回は事情が少し違う。
盗みを働くのはドワーフの国テッシンの首都、アカハガネ。
そして、ターゲットは神器『破城壁槌』だ。
これは、国からの依頼であった。
なんでも、世界の命運をかけた依頼で、神器を回収できねば世界が10年で滅んでしまうという。
本来なら与太話だと鼻で笑い飛ばすところだが、これを語ったのは国王だった。
そう、国王本人がわざわざ、下町というのも烏滸がましいスラム街へやってきて、ヘルメスに頭を下げたのである。
変装の達人でもあるヘルメスには、それが影武者でないことくらいすぐに分かったし、嘘をついていないことも――少なくとも本人は本気で信じていることも分かった。
故に、ヘルメスは依頼を受けた。
美術館に飾られているという、消えてもさほど困らないであろう神器――『破城壁槌』の窃盗を。
……
仲間が陽動しそちらに警備を集め、本命のヘルメスは空を駆ける靴で闇夜に紛れて盗みに入る。
そしてドワーフ達の警備を掻い潜り、中央展示室の屋根へ。ガラスの天窓は、すこし工夫すれば簡単に出入口に早変わりだ。
思っていた以上に警備が薄い。これは想像以上に楽な仕事かもしれない。
そんなヘルメスの考えは、目の前の光景を見て、一瞬で霧散した。
「なん、で、美術館にドラゴンがいるわけ……!?」
『グルルル……』
本来『破城壁槌』が置かれている台座。そこには護衛の代わりと言わんばかりにサンダードラゴンが鎮座して、黄金に輝く神器『破城壁槌』を抱いていた。
宝を守るならドラゴンほど適した存在もないだろう。ドラゴンは財宝を溜め込む習性がある。いわば、天然の、天性の宝庫番なのだ。
ドラゴンの守る宝に手を出して、無事で済むはずはないといっていい。
「聞いていないって、こんなの……うーん、でも……」
アカハガネのドワーフ達がどうやってドラゴンをここに呼んだのかは分からないが……
ドラゴンに巻き込まれないようにするためか、他に警備はいない。
それに、ドラゴンがガジガジと鎖を噛んだせいか、『破城壁槌』を繋いでいる鎖がかみ砕かれ外れていた。
これはドワーフたちには計算外だろうが、ヘルメスにとっては都合がよかった。
鎖に対処するための魔道具も用意してはいたが、結構な音が出るし、多少時間がかかるものだったので、これなら仕事が早く済む。
「……大型の獣に守らせてる、と考えればいつもの手段でいけるか?」
外された鎖とドラゴン。プラスマイナスでゼロと考えて、仕事の続行を決めた。
ヘルメスは魔法の鞄に手をいれ、秘密道具がひとつ――陽動ゴーレムを取り出した。
魔石の魔力が切れるまで勝手に動き、敵を誘う。
かなり高い魔道具ではあるが、必要経費だ。それだけの前金は貰っているし、報酬も成否にかかわらず約束されている。
「さぁ、踊れ……ッ」
と、ゴーレムを天窓から投げ入れる。がしゃん、と音を立ててドラゴンのすぐ近くへ落ちると、ドラゴンに向かって手を叩いて挑発した。
『ぐるる……ぅ?』
ドラゴンはゴーレムを見て首をかしげる。あまり興味を惹いていない……
『がうっ!』
と、そうでもなかったようで、ドラゴンは『破城壁槌』から離れてゴーレムに飛び掛かった。しめた。と、ヘルメスは天窓からロープで素早く降りると、『破城壁槌』に魔法の鞄を被せて仕舞いこんだ。
ドラゴンがゴーレムに構っているわずか数秒の早業。ドラゴンは見逃してしまった。
魔道具でロープを巻き取りながら天窓へと戻るヘルメス。
『うがごっ!?』
ヘルメスが外に出た時点で、ドラゴンは自らが守っていたお宝が奪われたことに気が付いたようだ。もうここに用はない。ヘルメスは素早く現場を離れる。
『ぎゃおーーーーーーー!!!』
ドラゴンの咆哮が、警報のようにアカハガネの夜空に響く。
それを背に受け、ヘルメスは風のようにアカハガネを駆け抜けて逃げた。
(以下お知らせ)
『絶対に働きたくないダンジョンマスターが惰眠をむさぼるまで』
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……
いやうん、この「あとごじ」の公式アカウントの方、フォロー&RPキャンペーンが終わった所だからな。
しかし、入れ替わりで何かあるかもしれん。